蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

いつの空にも星が出ていた

2020年12月27日 | 本の感想
いつの空にも星が出ていた(佐藤多佳子 講談社)

ベイスターズファンを主人公にした短編集。著者自身がベイスターズファンとのこと。佐藤さんの作品はご自身が好きなものを題材にしたものが多いように思う。

「レフトスタンド」は、冴えない高校の教師(囲碁部顧問)に連れられて神宮球場に行く高校生の話。短くてストーリーもないのだけど、野球ファンってこういう感じだよなあ、と、しみじみとよかった。

「パレード」は1998年ベイスターズ優勝のプロセスを女子高生(後、横浜市役所へ就職)を主人公にして描く。ベイスターズファンの人が読んだら面白いのだろうけど、どうも著者の歓喜の記憶を再現されているようで、イマイチだったかなあ。

「ストラックアウト」は、自営の電器屋の後継ぎ息子が、お客さんに頼まれて留守宅に住むことにあるが、そこに留守宅の主の(勘当同然だった)息子が帰ってきて、2人の息子はともにベイスターズファンだった・・・という話。屋根の上の活劇?シーンがなぜだかとてもよかった。

「ダブルヘッダー」は、2017年CSを勝ち抜けて日本シリーズに出たベイスターズの話。地元の少年野球チームに属する主人公は、父と生き別れになっていた祖父に招かれて福岡へ日本シリーズを見に行く、という筋。「パレード」ほどベイスターズファンとしての喜びが露骨?でなくていい感じだった。
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JR上野駅公園口

2020年12月13日 | 本の感想
JR上野駅公園口(柳美里 河出書房新社)

福島に生まれた主人公は、苦しい家計を助けるために若いころから出稼ぎに明け暮れる。子供も成長しやっと一息ついたところ、長男と配偶者が急死してしまう。人生をはかなんで?主人公は福島の安定した生活を捨て上野公園でホームレス暮らしを始める・・・という話。

あとがきによると、本書は上野公園の「特別清掃」(皇族が上野公園にある美術館などを訪れる前などに、公園内からホームレスを(一時的に)排除すること)に想を得て書かれたらしい。なので、そういった面を批判的に見る内容かというとそうでもなく、主人公は現上皇と同じ年に生まれ、息子は現天皇と同い年という設定がイマイチ生かされていないような気がする。

息子が若くして一人暮らしの東京のアパートで急死し、その葬儀が福島で行われる。この葬儀の描写が昔ながらのもの(喪主の自宅に菩提寺の和尚さんを読んで読経してもらい、近所の人総出でおときの食事の用意をして、多人数である意味にぎやかに死者を送る)で、なつかしさを感じた。最近の葬式は簡素化が進みすぎているような気がするなあ。
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金足農業、燃ゆ

2020年12月13日 | 本の感想
金足農業、燃ゆ(中村計 文藝春秋)

2018年夏の甲子園全国大会で準優勝した金足農業高校チームの1年生からの経緯と大会の試合経過を描く。

金足農業の野球部は昔ながらの精神至上主義?で外からみると宗教団体のようだという。
2018年の夏もほぼ9人で戦い続け、主戦の吉田投手は連投を重ねたが、本人も周囲も大きな違和感はなかったらしい。かつての冬の合宿はわざと雪深い田沢湖の近くで行い、失神寸前、救急車寸前まで練習を続けたそうだ。選手は常に丸刈りで、試合でエラーしたりしようものなら、チームメンバーからその場で罵倒されたりする(金足農業では「ドンマイ」は禁句だそうである)。

そんな前近代的?なチームが勝てたのは巡り合わせ(吉田投手の出現)による奇蹟のようなものであって、こういうチーム体制?は望ましいものではない、というのが、著者の本音のような気もするが、表向きはタイトル通り、金足農業の偉業?を讃える内容になっている。

中村さんの描く野球の試合経過はどの本を読んでもとても面白い。上記のようなひねくれた見方は横に置いておいて、金足農業の快進撃のプロセスを楽しむべき本だと思う。
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コロナ後の世界を語る

2020年12月13日 | 本の感想
コロナ後の世界を語る(養老孟司他 朝日新書)

朝日新聞のデジタル版に掲載されたコロナウイルスに関するインタビューや寄稿を集めたもの。
流行初期の2020年の春先に書かれたものがほとんどということもあって、「コロナ後」の世界を語っている人はほとんどなくて「コロナ中」の世界を語っているものが多い。

政治経済や社会学者などいわゆる文系の論者が記事は概してありきたりで面白くない。
一方、福岡伸一さん、山本太郎さん(医学者)など理系の論者の記事はとても面白く読めた。

福岡さんは、ウイルスこそが生物を進化させる重要な役割を果たしているとして、ウイルスとの共存の必要性を説く。

山本さんは、集団免疫を獲得するまで(医療崩壊しないよう)流行をスローダウンさせることは必要だが、いきすぎたウイルス(病原体)の撲滅は有害であとする。
山本さんの記事の中で、感染症を抱えている社会の方が強靭であるという説が特に興味深い。新大陸(中南米)はスペイン人などが持ち込んだ病原菌によって現地の民族滅亡の寸前まで急速に追い込まれたのに対して風土病が多かったアフリカは新大陸ほどの速さでは植民地化が進まなかったという。
天然痘は絶滅されたが、これによって天然痘に対する集団免疫もやがて失われてしまう。近い将来天然痘やこれに似た病原体が発生した場合、深刻化する可能性があるという説も「なるほど」と思わされた。
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