蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

百年と一日

2021年08月28日 | 本の感想
百年と一日(柴崎友香 筑摩書房)

ショートショートくらいの長さの短編を集めた作品。短いといっても一つ一つが物語として成立していて、小説のネタ帳みたいな内容だった。

たまたま降りた駅に引っ越すことにした男の一生の話、
地上げに抵抗して、一軒だけのこったラーメン屋:未来軒の話、
二人で名画座に行く前に必ずラーメンを食べる話、
いつまでもつぶれない古品屋の話、
ありふれた商店街の喫茶店の話、
などがよかった。
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ザリガニの鳴くところ

2021年08月28日 | 本の感想
ザリガニの鳴くところ
(ディーリア・オーエンズ 早川書房)

ノース・カロライナ州の湿地帯で暮らすカイアの家族は、父親の暴力に嫌気がさして6歳のカイア(と父)を置き去りにして逃げてしまう。カイアは母や兄から教わった乏しい暮らしの知識と周囲の人の助けでなんとか日々の生活を成立させていく。湿地で知り合ったテイトから文字や標本化の知識を教わったカイアは自然科学者としての才能を開花させていくが、テイトは大学進学のために去り、近くの街の有力者の息子チェイスがカイアにアプローチする・・・という話。

カイアを始めとして、登場人物の誰もが魅力的なキャラを持ち(特にカイアを実の娘のように見守る、燃料店の店主ジャンピン夫婦がよかった)、筋書きとしては平凡そのものなのに、最後まで全く飽きさせないストーリーテリングはお見事。

家族小説であり、成長物語でもあり、ラブストーリーとしても、裁判ミステリ(ラストに後味の悪さがあるのがちょっとだけ残念)としても、そしてなにより青春小説として、どの面からみても十分な読み応えがある。

本作は、題材やストーリー展開はとても地味なもので、著者は有名な科学者だが小説は本書が処女作。そんな本がアメリカで500万部も売れたというのだから驚きだが、読んでみさえすれば、十分に納得できる素晴らしい小説であった。
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浅田家!

2021年08月09日 | 映画の感想
浅田家!

浅田家では看護師の順子(風吹ジュン)が大黒柱で、夫の章(平田満)は主夫だった。次男の政志(二宮和也)は写真家を目指すものの、仕事はなく実家で燻っていた。政志は章が消防士に憧れているのを知り、兄の幸宏(妻夫木聡)に頼み込んで消防署の許可を得て、家族で消防士に扮装して記念写真を取る。家族で様々な扮装をして撮った写真を集めた写真集が著名な写真賞を受賞し・・・という実話に基づく作品。

プータローが家族を撮った写真集(出版したものの全く売れなかった)が、有名な賞を受賞し写真集がベストセラーになってしまう、というフィクションでもありえないようなご都合主義の展開が現実にあったこと自体に驚いてしまうが、家族仲がイマドキありえないほど良かったからこそ、専門家が見ても感動する写真ができたのかもしれない。

本作のテーマは、今では失われつつある、そういう家族の紐帯だと思うが、政志と妻(黒木華)の馴初めも、ホントに実話?とうくらい素敵だった。
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awake

2021年08月09日 | 映画の感想
awake

奨励会三段リーグを勝ち抜けなかった清田(吉沢亮)は、大学に入学し、AIの同好会?に加入し、将棋ソフトの開発を手掛ける。プロの腕前並に進化したソフトを擁してプロ棋士との対戦:電王戦に臨むが、対戦相手として現れたのは、かつての奨励会のライバル:浅川(若葉竜也)だった・・・という話。


本作のモデルとなった電王戦では、棋士の勝ち越しがかった対戦で阿久津八段がソフトの既知の弱点(バグ的なもの)を突いたことが議論を呼んだが、アンチクライマックス的なこの展開を本作も採用している。
浅川があえて2八角を選んだことは、棋士の事実上の負けを認めたことなのだ、ということなのだろうけど、やっぱり、映画としてはもう一工夫ほしかったかな、と思った。

と、文句をいったものの、画像では表現しにくいてテーマをうまく消化して、エンタメとして十分に楽しめる内容だった。
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リンカーン

2021年08月09日 | 映画の感想
リンカーン

南北戦争の末期、米16代大統領リンカーンは憲法13条の修正(奴隷制廃止)を可決させようとしていた。下院で3分の2の議員票を獲得するため、ロビイスト達を動員し、やがては自分自身も反対派をあの手この手で切崩そうとする・・・という話。

リンカーン(ダニエル・デイ・ルイス)が閣僚を説得しようとしたり、スピーチをしたりする時は高尚な理想を滔々と語り尽くすのだが、票数の獲得のためには極めて現実的で、買収も辞さないところが、対称的に描写されていて面白い。
また、リンカーンの動機のかなりの部分を占めているのが妻(メアリー・トッド:サリー・フィールド)の機嫌をとるためだった、というのも(本当かどうか知らないが)興味深かった。

冒頭でスピルバーグ監督が外国人向けに映画の背景を語っているのは、多分、本作のストーリーがアメリカ人なら誰でも知っている話なのだが、それ以外にはさほどでもないからだろう。
それでも議会での票数確保工作という地味なテーマをこれだけ面白くみせてくれるのは大したものだと思う。
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