蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

幸福論

2009年05月30日 | 本の感想
幸福論(アラン 岩波文庫)

映画「ヒトラーの贋札」の感想でも引用した、

「フランスの哲学者アランは、希望の固有の目標が物質的な問題を解決することだとしているが、けだし至言というほかはない。畳の上で手足を伸ばして眠りたい。銀めしを腹一杯食べてみたい。桶から溢れんばかりにたっぷりの、少し微温めの湯にのびのび浸かってみたい。分厚い板チョコレートを思いきり齧ってみたい。<希望>とはつまりこうしたものなのであって、およし詩とは縁がないと知ったのは入営して三日目でした。」(奥泉光 「浪漫的な行軍の記録」より)

を、読んで以来、この本を読んでみたいと思っていた。

あまり読みやすい本じゃない(というか言い回しがこなれて無い感じ。訳のせい?)のだが、いいたいことは、「幸せとは何か?」なんて考えるな、ということのような気がした。

「生きるのが困難になればなるほど、人間はよく苦労に耐え、より多くの楽しみを味わうとさえ言ってもいいだろう。なぜなら、単にありえるというだけの不幸まで考えている暇がないからである。必然が予測を手綱でしばっている。
ロビンソン・クルーソーが故郷をなつかしみ始めるのは、自分の家を建ててしまった時である。(中略)行動が一切を領し、一切を引きずって行く。
あるかなりむずかしいことに、自分の全関心、全注意をそそぎ込んでいる人はまったくしあわせである」(P198)
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グインサーガ124~126巻

2009年05月28日 | 本の感想
グインサーガ124~126巻(栗本薫 ハヤカワ文庫)

ミロクの巡礼、ヤーンの選択、黒衣の女王

ナリスの最も信頼する研究者で後のパロの参謀長でイシュトヴァーンの旧友という、運命の申し子のような経歴を持つヨナは、イシュトヴァーンの子を追って、ミロク教の聖地ヤガへの巡礼団にまぎれこむ。
この巡礼団は途中の草原地帯で野盗団に襲われるが、運命の子ヨナだけは突如現れたスカールに助けられる。
一方、イシュトヴァーンは、ゴーラの経営にも飽きてきて、昔の恋人リンダを落としてパロを手にいれようと千騎ばかりを率いてクリスタルをめざす。リンダはちょっと迷いつつもイシュトヴァーンの求婚を拒否する。

この3巻で最もおもしろかったのは、「ヤーンの選択」の終盤で、イシュトヴァーンがカメロンをいっしょにパロへ連れていこうと口説くところ。イシュトヴァーンの弁舌はとてつもなく巧みで、カメロンの弱点を突き、ついにカメロンは陥落してしまう。読んでいても「そうだカメロン、お前も正気を捨ててパロへ行け」なんて思わされてしまうほどだ。
結局、カメロンは正気に戻ってしまうのだが、そうでないストーリーにしてほしかった。

グインサーガで最も面白いのは英雄達の対決場面とかではなくて、この場面のような、主要キャラの長々とした会話場面だと思う。

100巻をすぎたころから、グインランドの観光案内みたいな感じの場面が多くて、そういうところは正直いって面白くなかったのだが、「ミロクの巡礼」で描かれたダネイン大湿原は例外的に興味深く読めた。

ここまで、5日前に書いたが、昨日(5月27日)に著者の訃報を聞いた。まだ56歳。せめて平均寿命までがんばれたら、きっと「豹頭王の花嫁」を読むことができたと思うのだが、残念無念。

今日の新聞によると129巻までは刊行されそうだという。あと三巻でどこまで進むかわからないが、126巻現在ではサイロンで黒死病がはやりはじめている。
今から30年近く前に出た最初の外伝「七人の魔道師」は、このあたりから始まる話で、外伝というより本筋中の本筋で、最もヒロイックファンタジーらしい内容だった。この「七人の魔道師」が書かれた中では、ストーリー上最も進んでいるエピソードになっているというのが、とても不思議な感じだ。
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オスマン帝国500年の平和

2009年05月24日 | 本の感想
オスマン帝国500年の平和(林 佳世子 講談社)

14世紀から19世紀まで約500年間に渡ってバルカン半島から中東地域まで広大な領土を支配した帝国の略史。

歴史の教科書などでは、オスマン朝トルコなどと呼ばれることが多いが、実際この王朝が最初に栄えたのはバルカンであり、その後アナトリア(小アジア)に進出して領土を拡大していったのであり、またトルコ人が支配階級の多くを占めていたわけでもない。著者は、従ってこの王朝は「オスマン帝国」と呼ばれるべき、とする。

私も、オスマン朝の第一の栄光期はメフメト二世によるコンスタンティノープル占拠の時だというイメージを持っていた。そのため、その当時、領土の半分以上はバルカン半島にあり、アナトリア地方の半分程度しか領有していなかったというのは意外であった(コンスタンティノープルを陥落させてからバルカン半島に進出したという誤ったイメージを持っていた)。
また、イスラム教が最初から国家運営の根本原理だったわけではなくて、スレイマン大帝の前のスルタン、セリム一世がエジプトやアラビア半島に遠征し、イスラム教の聖地を占拠したことで、同教の守護者として自他ともに認めるところとなったあたりから始まったことらしい。
遠征に明け暮れていたセリム一世が、エジプトにはなぜか長期滞在し、その文化の影響を受けたようだ、というのも興味深い。著者も指摘するように古来エジプトには英雄を魅了する何かがあるらしい。

オスマン帝国が500年の長寿を維持できたのには、著者が挙げるだけでも様々な要因がある。その中で特に印象に残ったのは、次の点。

①キリスト教、ユダヤ教といった異教徒すらもイスラム法の下に保護し、権利を認め(て活用し)ようという寛容さ。現代における、バルカン~アラブ地域の民族間の絶え間ない争いと比較する時、この支配原理は一段と輝くように思える。

②帝国の周辺部は、極力直接支配せず属国化することで、外敵に対するクッション役としていたこと。近代にいたって西欧列強が周辺各地を実効支配する時代になっても帝国の中核部分は生き延び続けた。

③緻密で堅固な官僚機構。中国の清王朝やオスマン朝は、鈍重な官僚支配が滅ぼした、みたいなイメージがあるのだけれど、スルタンがハレムの奥深くひっこんでしまった平和な時代には、巨大で法に支配された官僚機構が帝国をながらえさせる大きな要因となった。
(オスマン朝においては、各種の法的・行政的指示はすべからく文書を持って行われたそうで、莫大な書記官僚が必要とされたそうである。一方で科学技術は当時の世界最先端にあったらしく、このような社会においては印刷技術が発展しそうなのだが、イスラム教においては宗教的なテキストは手写しされてこそ意味があるとされていたそうで、あまり発達しなかった、という話が、一方西欧では聖書を大量発行するために活版印刷が活躍したことと考え合わせると、面白かった。)
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平成21年4月25日大村競艇祭5日目準優

2009年05月18日 | 競艇
かなり久しぶりに競艇オフィシャルWEBを見ました。

月間ベストレースという企画があって、4月25日の大村競艇祭5日目準優12Rが一位になっていて、再生してみたところ、確かに迫力あるレースでした。競艇ファンの間では「何を今さら・・・」でしょうが。

1服部 2瓜生 3石橋 4飯島 5青木 6金子

超抜エンジンで6連勝中の服部。いいスタートで楽勝かと思われましたが、1マークで石橋のツケマイに完敗。完全に引き波にはまって大きく引き離されます。
一周2マークでは粘る瓜生を強引に退けて2位となりますが、石橋とは依然大差。普通ならここであきらめるのでしょうが、連勝がかかっていたからか、あきらめていてもエンジンが連れて行ってくれたのか(二周バックの伸びは仕様が違うエンジンなんじゃないかと思えるほどでした)二周2マークで石橋に絡めるところまで追い上げ、2マーク旋回では強引な前面通過(ここでも機力の差がまざまざ)で、抜かしてしまいました。

エンジンが抜群だからこそでもありますが、やはり、連勝で優勝したいという服部の執念を感じたレースで、今年後半、あるいは賞金王へ期待を持たせる内容でした。
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にょっ記

2009年05月16日 | 本の感想
にょっ記(穂村弘 文春文庫)

日記形式のエッセイ集。

共感できた内容。

豊川悦司の名前が覚えられない。→そう、私もなぜか顔は頭に浮かぶのに名前が出てこない。みんなそうなんでしょうか?

「うこん」の文字をみるたびにどきっとする。→これは、きっと、誰でもそうだと思います。

由美かおるの水着グラビア→これも、多分、多くの人が共感すると思います。(というか、著者としては珍しくやや陳腐なトピックかも)

「夏期学習帖」→大正時代の小学生の「夏休みの友」(使用済み)を古本屋でみつけ、その内容を書いたもの。古本屋へ行きたくなります。

「昼寝」→「昼間、自由な時間があったので布団に入る。今から眠ってもいいんだ、と思うと、うきうきする。あー、昼寝、と思ってうきうき。あー、うきうき。なんだか眠れない」→これ、よーくわかります。そしてよくこうなります。昼寝そのものより、昼寝してもいいんだ、という状態にあこがれる、というか。
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