蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

名将の法則

2011年11月27日 | 本の感想
名将の法則(安部龍太郎 新潮文庫)

戦国期の代表的武将のエピソードを人物ごとに簡単にまとめたもの。

おそらくビジネスマンを読者として想定していると思われ、武将の行動要因を経済的観点からとらえようとしているものが多い。

例えば、武田信玄が北進(越後方面への侵攻)にこだわった理由とされているものが興味深かった。
それは、武田氏一族が全国に点在(若狭、蝦夷地、陸奥)しており、日本海海運を利用できる直江津港を確保できれば、武田氏一族と交易、さらには明国との貿易ができるからだという。
現代の感覚からすると太平洋航路の方がメジャーな感じがするが、江戸時代まではむしろ日本海航路が主要な交易ルートだった、という説を思い出した。

家康はイエズス会を通じたスペインの日本侵略を懸念しており、その対抗勢力としてオランダ人を重用した・・・というのはよく聞く話だが、信長・秀吉はスペインの傀儡化しており、朝鮮侵攻はその指図だった、という。こちらは少々うがちすぎかとも思えた。

また、これまで私は三好氏の活躍ぶりをほとんど知らなかったが、一時的には近畿・東四国を制圧し、室町幕府にとって変わることができるほどの勢力であったという。
その上、当時トップクラスの文化人でもあったというのは(四国の粗暴な田舎大名というイメージを勝手に持っていた(「赤影」の影響かも。あれ?「赤影」の悪役は三好じゃなくて松永弾正だったっけ??)ので)意外だった
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愛する人

2011年11月27日 | 映画の感想
愛する人

主人公(ナオミ・ワッツ)は、生まれてすぐに養子に出されるが、養父母との折り合いは悪く、十代後半から一人で生きてきた。
今は腕っこきの弁護士だが、世間並みの人間関係を築くことができない(やたらと男漁りをしたりする)。
主人公の実母(アネット・ベニング)は、長年介護してきた母親を亡くし家族がいなくなって、養子に出した主人公のことが気になりだして仲介者(教会)に手紙を出したりする。
この(実)親子の様子を交互に描くほかに、子供ができず養子をさがしえいる夫婦が登場する。この3者の運命、やがて皮肉な巡り合わせで交錯する・・・という話。

皆、それぞれいろんな事情があるものの、基本的にわがままで、アメリカ人らしいなあ、と思う。
これが日本の映画とかなら、一人くらい自己犠牲の精神が旺盛な人物を登場させて予定調和的な結論に導いて、映画を見ている人を安心させるのだろうけど。
本作はそうした穏和な結末ではなく、相当にせつなさが残るエンディングになっている
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月に囚われた男

2011年11月26日 | 映画の感想
月に囚われた男

近未来、地球は月で採掘される資源にエネルギーを依存するようになる。
月の裏側の採掘基地でたった一人で管理業務をする男が主人公。というか、この男以外に出演者はいない(ビデオ画像で数人が現れるのみ)。

3年の任期満了を間近に控えて主人公は、故障した採掘機器を修理しようとしていて事故にあって意識を失う。
基地の機能に救われたと思っていたが、実はこの基地には主人公のクローンが用意されていて、意識を取り戻したのはクローンだった。
オリジナル(かどうかも不明~主人公もクローンなのかも)の主人公は基地外に放置されたままだった。クローンはオリジナルを発見して基地に連れ戻す。
採掘会社からの救難船が到着すれば(違法行為である)クローン利用の発覚を恐れて真相を知ってしまったクローンとオリジナルが処分される可能性が高い。さあ、どうする・・・という話。

オリジナルとクローンの一人二役?ながら、不自然さがなく(設定自体は不自然だが、見ていて納得できるというか)、不条理な状況を十分に楽しめた。
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サムライブルーの料理人

2011年11月26日 | 本の感想
サムライブルーの料理人(西芳照 白水社)

長年サッカー日本代表の遠征に料理専任スタッフとして同行した著者のエッセイ。
料理に限らず、日本代表のサポートスタッフの活動内容が幅広く紹介されていて、その手厚さに少し驚いた。相当にお金がかかっているなあ、という印象。もっともイングランドチームのスタッフは日本の倍くらいいるそうだが。

食事を用意するに当たっては、栄養学的にはもちろん、心理的サポートにも心配りする。例えば食事会場で調理してできたてを食べてもらう「ライブクッキング」を毎食実施したり、夕食に「なごみメニュー」としてラーメンやお好み焼きを出したりする。

いくら恵まれた環境にあるとはいえ、ワールドカップともなると1カ月以上もマッチョな男たちが合宿するわけで、家族と離れて女っ気もなく、同じメンバーと毎日顔をあわせて遊びにいくとこもままならない、という一種監禁状態。

そんな中で、食事は最大ともいえる楽しみになっているようで(刑務所と同じですな)、南アフリカの地で(日本と同じ)ラーメンが出るとそれだけで大喜びする選手がいるというのも十分に理解できる。

巻末には著者によるレシピが掲載されていて、いくつか作ってみたが、鶏肉の照り焼きとペペロンチーノは、作り方が簡単でかつおいしかった。

本書が出版されたのは、震災の直後だったが、著者の本来の勤務先は(東電の寄付によって作られ、今は原発対応の前線基地となっている)Jヴィレッジだそうで、印税は全額同施設がある南相馬市へ寄付されるそうである。
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なんでもありか

2011年11月26日 | 本の感想
なんでもありか(伊集院静 西原理恵子 角川文庫)

伊集院さんは、このエッセイシリーズで、常に競輪の選手や施行者を批判している。しかし、今でもギャンブルとしての競輪は楽しみにしているようなので、競輪のためを思わばこそ、なのかもしれない。

昔のエッセイではいくらか競輪選手をリスペクトするような描写(滝沢の猛練習とか)もあったけど、近頃は文句ばかりだ。(もしかしたら褒められるような選手が本当に皆無なのかもしれないが)見込みのありそうな選手や良かったレースのことももうちょっととりあげてもらいたい。


それにしても、あまりにも連載が長くなったせいか、文章を書くほうも、挿絵を描くほうも、有体に言っていいかげんすぎる。
著者自身が「誰がこんなエッセイ読んでるのか」と何度か述べているけど、身銭を切って本を買った者からすると、そんなこと言われるとせつなくなる。

そんな不満を抱きつつも買ってしまうのは、時々いいものもあるからで、本書ではケント君(この人、雷蔵さんと並んでしばしば著者のエッセイに登場するのだけれど、仙人のような人だなあ、といつも感心する)と川崎競馬に行った「亀甲縛り馬券」、場末の寿司屋を描いた「11個600円」が良かった。
あと、武豊騎手との対談も面白かった(武騎手がかなり率直に馬主の悪口を言っているところとか)。
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