蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

黄金旅風

2006年03月15日 | 本の感想
黄金旅風 (飯嶋和一 小学館)2006.3.11

「黄金旅風」というタイトル、ジャンク船が描かれた表紙から、海洋冒険物語なのかと期待して読み始めた。
最初の章はそういう感じの話でとても面白かったのだけれど、後は長崎を中心とした陸の上の話で、後の章になるほど物語としてのパワーが落ちていったような気がした。

主人公であるはずの長崎代官であり貿易商の末次平左衛門、敵役の長崎奉行竹中重義のキャラクターが弱くて狂言回しみたいな役回りになってしまっている。

特に竹中重義は悪の権化みたいに書かれている(彼の一般的な評価もその通りだが)のだけれど、本人が話の中に登場する場面がほとんどないし、行った事績だけをみるとそんなにひどい人でもなかったんじゃないか(苛烈なキリシタン弾圧で有名だけれど、領主でもなく、幕府の行政官として長崎にいるわけだから、職務に熱心だっただけといえなくもないのでは?)、むしろ長崎の豪商たちの罠に嵌ってしまった人なんじゃないか(彼が切腹を命じられたのは密貿易の嫌疑からだけれど、貿易商たちの協力なくして素人の大名がそんなことできたのだろうか?)、なんて思ってしまった。

反面、周囲の人物には魅力的なキャラが多かった。冒頭の章で活躍する末次家の番頭役の浜田彌兵衛、長崎の火消し平尾才介が特によくて、この二人のどちらかを主役にしたらよかったのに、と思った。

平尾才介が刀の柄を湿らせるために、いつも腰にぬれた布巾をぶら下げていて、そのために腎臓を病んでしまったとしうエピソードがとてもリアリティがあって印象に残った。

よく考えると、主人公格の人物のキャラを無色透明にして、江戸時代の異形の都市:長崎に群れ集う人々を列伝風に描こうというのが、作者の意図だったのかもしれない。
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垂直の記憶

2006年03月12日 | 本の感想
垂直の記憶 (山野井泰史 山と渓谷社)

昨年、沢木耕太郎さんが書いた「凍」を読んだ。世界屈指の現役クライマー:山野井泰史さんを描いた作品で、ギャチュンカンという山からの下山中に悪天候と雪崩のために遭難死寸前まで追い詰められる話が中心。登山に関するシーンの迫力はさすがノンフィクションの第一人者と思わせるものがあった。
しかしそれ以上に私がしびれたのは、山野井さんの登山以外のすべてを捨てた極めてストイックでシンプルな日常生活、それと、理想の妻というのはこういう人をいうのではないかと思えた山野井さんの妻:妙子さんの描写だった。

通勤途上にある本屋で「凍」の隣にその山野井さんの著作「垂直の記憶」が置かれてあったのに気づいて早速購入した。そして私としては珍しく、買った直後に読み始めた。
山野井さんのヒマラヤの諸山の登山記録。登山になじみがないので、これがどれくらいすごいことなのか正確には理解できなかった。しかし、垂直に近い壁に掘った浅い穴に小さなテントをはって極寒の夜を何回もやりすごすとか、酸素がうすく零下何十度という地で食事せず連続17時間も壁を登りつづけるとかのエピソードを読むと、人間の能力のそこしれなさに寒気を感じるほどだった。

文章のプロではない素朴ともいえる叙述からは、「凍」から感じられた以上に、登山に全人生をかけた山野井さんの思い、そして遠慮ないプライドの主張が濃厚に漂ってきた。
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宇宙戦争

2006年03月11日 | 映画の感想

「ターミナル」の感想でも書いたのだけれど、スピルバーグ+有名俳優(トム・クルーズ)の組み合わせなら相当に期待値は高くなる。

この映画もかなり面白いが、期待値ほどでもなかったかな、という感じ。スピルバーグは「商売のための映画」と「自分が作りたい映画」の差がはっきりしていると思う。(それが悪いことだとは思いません) ある日突然地球に来襲した宇宙人は巨大な兵器を操って地球人を殺戮しまくる。米軍の兵器は宇宙人の兵器のシールドに阻まれて全く無効。トム・クルーズは自宅を壊されて子供二人を連れて別れた奥さんの実家へ逃げようとする。

トム・クルーズが主演なら、工夫を重ねて宇宙人をやっつける端緒をつかむ、みたいな話になりがちだが、この映画では対抗手段が全くなく、とにかく逃げるしかないという設定になっている。実際トムが演じる父親より長男の態度の方がはるかに立派。

 照明の使い方が印象的で、最初から最後までハラハラドキドキできるし、宇宙人の兵器が建造物や乗り物を破壊するシーンは本物にしか見えなくて(私はDVDで見たので実感できなかったが)スクリーンで見たらすごい迫力だろうな、と思わせた。

 ただ、原作のラストはあまりに有名で、「すごいな宇宙人、でも最後にはあっさりやられちゃうんだよね」と思いながら見ているので、ちょっと緊迫感がレベルダウンしたような気がした。

 トム・クルーズの評判は(特に昨年)、彼の地では芳しくないようだが、出演作を共同制作にしたり、公開前のプロモーションでやや露出過剰気味だったりして、金儲けに専念しているような姿勢が嫌われているのだろうか。私としては好きな役者なのだけれど。

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メダルの数と景気の相関

2006年03月04日 | Weblog
日本の景気が悪い時に開催されるオリンピックでは、日本人がメダルをたくさん獲得でき、景気が良い時に開催されるオリンピックでは、メダルがあまり取れないという関係があるそうだ。
日本の景気が絶好調ともいえる今年開催されたトリノオリンピックはこのジンクスに逆らえず、金メダル1個に終わってしまった。

このジンクスには一応の理屈付けが可能だと思う。
オリンピックで惨敗すれば、もっと強化しなければ、ということで各種競技団体等が集金に走り回ることになる。惨敗した時は景気が良いはずなので、政府も企業もサイフのヒモがゆるみがち。このため強化費が思ったよりも集まって4年後の次大会の成績は良くなるが、そのころには景気が息切れしているという具合。
逆に成績が良ければ、スポンサー側もことさら強化費を積み増そうとはしない(その時景気が悪ければなおさら)ので、次のオリンピックの成績が悪くなる。

ただ、今回のトリノで日本が振るわなかった最も大きな原因は、ウインタースポーツの最大・最強の理解者でありスポンサーだった西武鉄道のオーナーの失脚(?)にあると思う。唯一のメダリストが、それでもプリンスホテルの所属だったことがそれを如実に示しているのではないだろうか。
そういえば、スピードスケートの有名選手が多数所属するあの会社のオーナーは相当シブチンらしいし。
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