蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ハンニバル戦争

2017年01月22日 | 本の感想
ハンニバル戦争(佐藤賢一 中央公論新社)

ポエニ戦争ものといえば、ハンニバルが主人公、ローマ側視点の場合でも彼が重要登場人物である場合がほとんどではないかと思うのですが、本書の主人公は大スキピオで、ハンニバル本人が登場するのはほんの数ページという異例の構成でした。

もっとも、
ハンニバルに何度も敗れたスキピオが、ハンニバルの戦法を研究して、やがてザマにおいて、カンナエでローマが惨敗した戦いをサイドを変えて再現する過程を描く、
というのが主筋なので、ハンニバルが登場していなくても、本当の主人公はハンニバルなのかもしれません。

重装歩兵でひた押しにするローマ軍を戦場中央にひきこんで、両翼の快速騎兵で包囲殲滅するというハンニバルの戦法はある意味ありふれたものなのですが、本書でも指摘されている通り、そんなふうに(傭兵が主力の)軍隊を思うがごとく機動させられるように訓練する、あるいはコントロール可能なまでに兵士たちの信頼を勝ち取る、という点が本当は難しいのでしょう。

佐藤さんの作品で最初に読んだのは「双頭の鷲」で、これが私の読書遍歴の中ではベスト5にはいるくらいの面白さだったせいか、どうもその他の作品が色あせてみえるんですよね。本書も期待したほどではなかった、というのが本当のところです。
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知の進化論

2017年01月18日 | 本の感想
知の進化論(野口悠紀雄 朝日新書)

本書の冒頭で述べられている通り、本書のテーマは「知識の価値は、それを隠匿することによって高まるのでしょうか?あるいは積極的に広めることによって高まるのでしょうか?この問いに対する答えが、知識を伝達し広げるための技術に依存していることは、疑いありません」ということです。
本の最初にテーマそのものを明確に書くところが著者らしいです。

それまで教会などに独占され隠ぺいすることによって価値が高まっていた知識は、印刷術の発明により劇的に(低コストで)拡散し、さらにインターネットの登場で拡散スピードは急激に高まった、としています。
今時の若者にとっては、検索窓に打ち込めばすぐ答えが出てくる(場合によっては入試問題の答えが受験会場にもちこんだデバイスの画面に現れる)のは、当たり前なのかもしれませんが、著者や私(今50代)のような年代の者にとっては本当に驚異的なことです。

テーマに対する著者の結論は、知識が低コストで広範に行き渡ったことが社会の進歩におおいに役立った(最近の典型的な例としてオープンイノベーションを挙げています)、ということです。一方で、あまりに知識が容易に拡散することで知的所有権の保護に問題が発生することも指摘しています。

テーマについて述べた1・2・6・7章は素晴らしいと思いましたが、その他の章はやや間延びしている感じでした(多分、オジサン向け週刊誌連載が初出なので、初心者向けにネット関係の話題を紹介する主旨で書いたためかと思われます)。なので、お忙しい方は1・2・6・7章を先に読んだ方がよいかと思います。(読み終わったばかりですが、私も1・2・6・7章をもう一度読んでみようと思っています)

そして、「知識を得ること自体に意味がある」という本書の結びには強く共感できました。
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ロボット・イン・ザ・ガーデン

2017年01月15日 | 本の感想
ロボット・イン・ザ・ガーデン(デボラ・インストール 小学館文庫)

人工知能を持ったロボットやアンドロイドが日常生活にとけこんだ未来(?)。主人公のベンは両親からの遺産をアテにしてプータロー生活。妻で弁護士のエイミーにも愛想をつかされようとしている。ある日タングと名乗るロボットが庭に迷い込んでくる。妙に愛嬌があるタングは故障しようとしていた。ベンはタングのメーカを探してカリフォルニア→日本→パラオとタングといっしょに旅を続ける・・・という話。

いちおうSFっぽい設定ではあるものの、まるで永久機関のようにエネルギー補給なしで活動しつづけるタングに象徴されるように、内容はファンタジー、というか童話っぽい。
カバー画が酒井駒子さん作(この絵が素晴らしくいい。この絵に惹かれて買ってしまった、という私のような人もきっと多いと思う)なので、なおさらである。

「タングがカワイイ」という評価もあるようだが、私にはあまり魅力的でなくて、ベンの成長物語としてもイマイチ(というか、ベンが成長したようには見えない。単に気分が変わったくらい?)。いかにも続編がでそうな結末だったが、もういいかな、という感じ。

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世界から猫が消えたなら(映画)

2017年01月15日 | 映画の感想
世界から猫が消えたなら(映画)

脳腫瘍で余命数か月であることを告げられた主人公は、自分そっくりの死神?に、「世界から何かを消してもいいなら、お前の寿命を延ばしてあげる」と言われる。まずは電話が消え、次は映画が消え・・・という話。

主人公は海辺のうらぶれた街に生まれ育ち、生家は儲かってなさそうな時計屋。今は郵便配達をしていて、帰宅して飼い猫と戯れるのとビデオ屋の店員がすすめるDVDを見るのが楽しみ・・・と、私好みの貧乏くさい設定だったので、序盤は面白くなりそうな感じだったのだが、その後は作者もしくは監督の自家中毒的な場面が続いてがっかりだった。
だいたい、こんな冴えないツキもない男役を佐藤健さんにやらせるという時点で、はや現実感ゼロ、ではないかな。
でも、世間的には原作も映画もかなり評価されているようですね。
どこがいいのかな?
あ、主人公の母親役の原田美枝子さんは美しかったですね、相変わらず。

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