蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

6ステイン

2007年10月30日 | 本の感想
6ステイン(福井敏晴 講談社文庫)

自衛隊OBなどを中心メンバーとする非常勤工作員からなる組織(普段は一般の職業人だが自衛隊からの指令により捨扶持程度の賃金でその非合法(ともいえる)活動に協力する組織。うーんこう書いただけでリアリティに欠けていると思うのだが・・・)があるという設定のもと、その工作員たちの誇りや正規人員でないことの悲哀を描いた短編集。

いずれも非常勤工作員やその上司の自衛隊員がミッションに献身的に取り組むのだが、「なぜそこまでする?」というインセンティブの説明が欠けていると思った。

また、著者の他の作品にも言えることだが、主人公の活躍があまりに超人的すぎて読んでいて共感し辛かった。

と、悪口ばかり書いたけれど、ストーリーがテンポ良く展開して十分に楽しめる作品でした。
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夢からの手紙

2007年10月27日 | 本の感想
夢からの手紙(辻原登 新潮社)

主に江戸時代を舞台とした短編集。
ユーモラスなもの(「川に沈む夕日」「有馬」)
怖い話(「おとし穴」)
悲痛な結末のもの(「もん女とはずがたり」「菊人形異聞」)
幻想的なもの(表題作)
とバラエティに富んだストーリーの組み合わせで著者の才能の幅広さが伺える。

私が特に気に入ったのは「おとし穴」。
窮迫した武士の宴会に招かれた裕福な商人が、一見気の利いた、しかし、こざかしいとも言える知恵を働かせたために武士たちのブライドを(結果的には)傷つけてしまう、という話。
私がようやくした筋を見てもどこが怖いのか理解いただけないと思うが、微妙な心理の変遷が短い話の中にうまく納められていて結末に至ると背筋が寒くなるような感覚があった。

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メキシコの青い空

2007年10月25日 | 本の感想
メキシコの青い空(山本浩 新潮社)

NHKのスポーツアナウンサとして25年を勤めた著者は、500試合以上のサッカーの試合を実況しているという。
それだけの試合を真剣に見つめればさぞや目が肥えるだろうと思う。その見込み通り、(サッカーの試合経過を文字で著すのは相当に難しいと思うが)臨場感あふれる記述は迫力満点だった。

この25年というのは日本サッカーがマイナースポーツから国内一ニを争う人気スポーツに変身していく時期で、その間日本代表を見つめ続けた著者は、ある意味(どんどんメンバーが変わっていく)日本代表の選手自身よりも日本代表チームと人格(?)が一体化してしまっている。
日本が初めてワールドカップ行きを決めたジョホールバルの実況で、「そこにいるのは彼等ではありません。私達自身です」という相当に思いのこもった言葉を発しているのは、本心に近い気持ちを吐露したものだろう。

本書では著者が実況したセリフは太字で地の文と区分けされており、そこだけを読んでも(採録されているのは誰しもの記憶に残っているビッグゲームなので)記憶があぶりだされてきてとても楽しめる。
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他人と深く関わらずに生きるには

2007年10月23日 | 本の感想
他人と深く関わらずに生きるには(池田清彦 新潮文庫)

国家に必要な機能は、簡素な立法と警察(裁判)権力、徴税機能だけだという、自由放任主義を説いた本。
医者や教師もふくめ、一切の職業に資格は不要。食品添加物などの社会的な規制も不要だとする。なぜなら自由競争によって悪質で能力が劣った職業人、組織は淘汰されるからだという。ただし、そうした自由放任の社会の前提として国民がある程度賢いことが必要だとする。

しかし、こうした説が間違っていることは少し考えればわかる。
それは前提がおかしいからだ。
一般的な社会生活を送る上で、一切の規制がなく、すべてを自分自身で正しく判断するためには、相当に賢い(知識が豊富である)必要がある。
医学的知識や食品添加物、はては住宅の構造計算まですべての知識がなければ安心できない。日常生活に必要なこうした知識をすべて身につけることは天才的に多能でもない限り無理なわけで、こうした情報、知識が十分になくてもそこそこ安全な暮らしを送るために公的な規制の存在意義があると思う。(もちろん規制を守らない業者も多いわけだが、一定の歯止めになっていることは間違いない)

また、自由競争下において悪質業者が淘汰されるかどうかも大いに疑問だ。「悪貨は良貨を駆逐する」ともいうように、生き残るのは良心的な人ではなくて、ずるがしこい悪人かもしれない。

一方、収入(所得)にかける税金は低く、支出(消費)にかける税金は高くし、社会的公平を守るために相続税、贈与税を重くすべし、という主張は(それが税の本質により近いと思うので)賛成する。

著者の略歴を見ると、(私の偏見だが)福祉国家を主張してもおかしくなさそうな感じがする。
もしかして著者の本当の主張は本書で表面的に書かれたことの正反対で、本書では「自由放任主義を突き詰めるとこんなことになってしまいますよ」ということを読み手にわからせたかったのだろうか。
つまり本書全体が一種の反語表現だったのだろうか。そうだとしたらなかなかすごいと思うが、多分そうではないだろう。
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空中雷撃

2007年10月22日 | 本の感想
空中雷撃(谷甲州 中公CNOVELS)

「覇者の戦塵」シリーズの最新刊。
このシリーズは、この手(シミュレーション戦記)の本としては発刊ペースが相当にゆっくり。しかし、今回は2年半も間隔があいたので、あとがきで著者自身が書いているように「ついにシリーズ打ち切りか」とも思ったが、なんとか続いているようで、ほっとした。

シリーズ開始から20年近くなるだろうか。最初から「技術と戦争の係り」をテーマとしたジミ~なシリーズで(確か2巻目でトラクタの開発の話がでてきたのには、のけぞった)、活躍するのはせいぜい軽戦車とか駆逐艦くらいだった。

一時艦隊決戦なんかのエピソードもあり、著者があとがきで「シミュレーション戦記を書くのがこんなに面白いとは思わなかった」という旨のことを書いていて笑えた。
しかし、今はまたもとのペースに戻ったみたいで、本書では戦闘場面は全くない。無線探知と近接信管、誘導兵器開発の裏話みたいなのばかり。

有体にいって著者の文章はうまいとは言えないし、相当読みづらい。その上にこの内容。それでも読んでいると干し肉をかんでいる時のように、じんわりと面白さがこみあげてくる、そんな不思議な魅力がある。
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