蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

伊賀越仁義

2022年11月26日 | 本の感想
伊賀越仁義(井原忠政 双葉文庫)

三河雑兵心得シリーズ7。茂兵衛の通報により本能寺の変を知った家康は伊賀を横断して伊勢湾に抜けるルートでの逃亡を決める。茂兵衛は家康とは別のルートで後を追う・・・という話。
なのだが、伊賀越自体は割とあっさり(実際本書を読むと家康本隊には半蔵が手配した護衛が相応についていて、さほどの難路だったとも思えない)していて、後半の甲斐における北条勢との小競り合いの方が面白かった。

今や茂兵衛は徳川随一の鉄砲部隊の指揮官にまで成り上がっていて、「雑兵」とは言えない立場だ。しかし雑兵時代の話より、足軽大将になって以降の方の話の方が面白くて、どんどん次が読みたくなってきた。ま、シリーズものって読めば読むほど登場人物たちへの共感が深まるという面があるので、そのせいかもしれないのだが。

家康はシリーズ序盤では姿すら見せなかったが、茂兵衛の異数の出世のせい?かやたらと登場シーンが増えてきた。扱いが難しい家臣たちのバランスを取るのに苦悶する様が興味深くてどっちが主人公なのかわからなくなるくらいだ。
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次なる100年

2022年11月26日 | 本の感想
次なる100年(水野和夫 東洋経済新報社)

近年の先進国における長期金利の低迷は16世紀のジェノバの再現であり、現在はニクソンショックに端を発する歴史の危機にあるとする。金利が低迷するのは有望な投資機会がなくなった(=貯蓄が過剰になった)からで、これは反対からみると十分な社会資本が整備された豊かな社会が実現したことを意味する。これ以上の成長を目指すのではなく、ゆとりがある心の豊かさを感じられる生活を追求すべきである、とする。

水野さんというとバブル批判とかで、けっこう著名なアナリスト?だったような記憶がある。大学の先生になったせいか、やたらと論文チックに文献を引用(引用元を示す注だけで170ページもある!)して小難しい話にしているけど、言いたいことは昔とあんまり変わってない。ただバブルや金融危機はすべてウォール街のせいだ、というのは安っぽい陰謀論に聞こえる。

本文は700ページ余りあるのだけど、同じ話の繰り返しが多すぎる。もう少し整理して書いてもらいたかった。

日本の財政維持は再生可能エネルギーの開発に依存している(資源価格の高騰などにより経常収支の赤字が続くと国内貯蓄が減って国債の消化ができなくなる。再生可能エネルギーの開発を進めれば海外資源への依存が減り経常収支の悪化を防げる)という、一見トンデモ系かに見えた終章の前半の議論は意外と興味深かった。
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天路の旅人

2022年11月17日 | 本の感想
天路の旅人(沢木耕太郎 新潮社)

戦中から戦後にかけて、蒙古、チベット、インド、ネパールを、前半は軍の密偵として、終戦を知った後半は自らの意思で踏破した西川一三の旅とその後の人生を描く。

西川さんの旅程は、例えばヒマラヤを装備も持たずに9回も越えるというシビアなものだったが、日本に帰還してから自営業(化粧品の卸)を営むと、1月1日を除いて364日働く、昼食は364日同じ(カップラーメンとコンビニのおにぎり2個)というハードボイルド?な生活を送ったという。
この、判で押したような生活ぶりが、冒頭で描かれたこともあって強く印象に残った。

旅程の大半はラマ僧になりすまして、チベットやインドを巡るのだが、そうした地域では無一文で旅をしても托鉢や喜捨によってなんとか食いつなぐことができたという。むしろ食料を背負って歩くと負担になるので、あまり余剰をため込まないようにしていたらしい。
もしかしてその頃の日本は似たような社会だったのかも(お遍路さんとか。映画の砂の器の終盤の親子旅が思い浮かぶ)しれないが、見ず知らずの他者への優しさみたいなものが現代日本とは大違いだったんだ、と感嘆した。

とても長い旅行記なんだけど、沢木さんの叙述にかかると、各場面が映画のように脳内に再生されるような印象があって、全く飽きずに読める。もっと旅が続けばいいのに、と、ノンフィクションの感想とは言えない読後感が残った。
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すずめの戸締まり

2022年11月13日 | 映画の感想
すずめの戸締まり(映画)

岩戸鈴芽は宮崎?の高校生。父母を亡くして叔母といっしょに暮らしている。通学中に廃墟を探している草太とすれ違う。彼は大地震の原因となる、廃墟の後ろ戸を封印する閉じ師だった・・という話。

「君の名は」や「天気の子」は奇想天外な話の辻褄を合わせようとする脚本上の苦心が忍ばれたが、本作は割り切って細かいところにはこだわっていない感じ。

草太が椅子に封じ込められてしまう意味とか、鈴芽が家出してまでダイジン(元気なダイジンよりしおれてしまったダイジンの方が愛おしかった)を追うモチベーション、何より鈴芽が要石を抜いてしまったのがすべての元凶なのでは?という疑惑? などについて、特段の説明はない。

その分、筋立てが単純で、クライマックスには(前二作と比べて)よりカタルシスがあって、よりいっそう人気が出そうな気がする。

鈴芽が立ち寄る神戸のスナックのムードがよかった。昔なつかしい昭和なスナック。コロナでさらに減ってしまったんだろうな。こんなママとちいママがいるスナックにまた行きたい。

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怪虫ざんまい

2022年11月13日 | 本の感想
怪虫ざんまい(小松貴 新潮社)

在野の昆虫学者の著者が、コロナ禍で、捕虫のための遠征に行くことができない時期の活動などを記したエッセイ。

タイトルからして、珍しい昆虫の生態を素人向けに解説した内容かと思ったが、そういう部分は少なくて、もっぱらコロナで出かけられない不満や、開発などによる昆虫の生態系の破壊に対する非難、いわゆる虫マニアのマナーの悪さへの悪態、などが多くを占めた内容。

面白くしようという目論見なのかもしれないが、やや言葉が乱暴かなあ、と思えた。自分にとって意義がない虫を「駄虫」と表現したたり、素人の虫マニアを「ゴミクソ」と呼んだり。
この手の本からは、虫への愛とか、虫をとりまく自然や世間(学者やマニアたち)へのリスペクトが感じられることが多いのだが、そういうものが本書にはなくて、珍しい虫を捕らえたいという著者のエゴが目立ったように思った。

本書によると虫マニアが自分が捕らえた虫を自慢するサイトが多数あるそうだ。
著者は地下水に生息する虫を捕らえようと、各地の井戸を巡っているのだが、こうした井戸を訪れてはマッピングしているサイトなんていうのもあるそう。
人生いろいろ、じゃないけど、人間の興味というか好奇心のバラエティはすごいな。
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