蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

魔法の色を知っているか?

2019年07月28日 | 本の感想
魔法の色を知っているか?(森博嗣 講談社文庫)

ハギリは、チベットのナクチュで開かれる学会に護衛役のウグイとアネバネとともにおもむく。ナクチュでは今でも人間の子供が生まれていて、貧しいために延命治療ができず極端な長寿の人もいないため昔ながらの年齢構成の社会となっていた。その原因に関する仮説(従来の人類は何等かのウイルスのようなものに感染していたからこそ子供ができた。細胞の純粋化?が進んで子供ができなくなった)を確信するハギリだったが・・・という話。

シリーズ第二弾。
超高齢化というか、寿命というものが事実上なくなった未来社会では何が起こってどういう哲学が生まれるのか、といった感じのシリーズ全体のテーマとかヴィジョンは面白いと思うのだけど・・・普通の人間の会話とは思えない平板なハギリのセリフや危機にあっても全く動じない精神状態は不自然すぎる。まさかハギリこそがウォーカロンとかロボットでした、ってオチじゃないよね。
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許されようとは思いません

2019年07月28日 | 本の感想
許されようとは思いません(芦沢央 新潮社)

最近はあまり聞かないが、読後感が悪いミステリを「イヤミス」と称してはやった時期があった。本書(あるいは著者)が「イヤミス」系に分類されているのかわからないけど、いずれも読後感はあまりよくない短編をあつめた本。

「目撃者はいなかった」がよかった。
発注ミスを会社に知られないようにするために、余分に発注した分を自腹で引き取ることにした主人公が、信じられないような巡りあわせでどんどん悪い方向に進んでいってしまう話。
自分のミスを糊塗しようとしてしまうことは、自分自身も含めよくあることではあるが、大抵うまくいかず、うまくいったとしても、いつまでも精神的な引っ掛かりになって苦しむことが多いように思う。なので失敗した時はありのまま報告して、周囲をまきこんで善後策を講じるのが一番なのだが、本作はそれをかなり大げさに教えてくれる。

「姉のように」も、主人公が(育児がうまくいかず)精神的に追い詰めれられていくプロセスがよくて、ページをめくるスピードがあがった。ただ、メインのトリックは、ちょっといただけないのでは?確かに伏線(というかヒント)は明確に埋め込まれているのだけど。
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母の記憶に

2019年07月21日 | 本の感想
母の記憶に(ケン・リュウ ハヤカワミステリ)

SF短編集。中国が舞台である「烏蘇里羆」「草を結びて環を衒えん」「訴訟師と猿の王」がよかった。

「烏蘇里羆」は20世紀初頭の満州での、日本軍と羆の戦いの話で、ロボット?の馬が登場するなどスチームパンクっぽい雰囲気もあって、多少SFがかっているのだけれど、あとの2編はほぼ純粋な歴史モノ。明末に揚州で起こったという清の軍隊による虐殺事件を描いたもので、特に仲間を救おうとする遊女が主人公の「草を結びて環を衒えん」の哀しみに満ちた物語が良かった。

終末モノが好きなので、人類が自分の記憶?や意識?をコンピュータにアップロードして肉体を放棄し始めたるというディストピア風の「残されし者」も面白く読めた。

うーん、しかし「紙の動物園」のインパクトが強烈すぎて、そのレベルを期待して読むとどれも物足りなさを感じてしまうのだった。
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時の娘

2019年07月18日 | 本の感想
時の娘(ジョセフィン・ティ ハヤカワ文庫)

イギリス:プランタジネット朝最後の王:リチャード3世は策謀を巡らせて王位に就き、その後も(将来王位を狙うことを怖れて)幼い甥2人を殺害したとして悪名高い王。骨折して入院中の刑事は、リチャード3世の肖像画を見て、その容貌から、伝えられるような悪辣な人物とは思えず、入院中のヒマにあかせて歴史書などを調べ、リチャード3世を悪者に仕立て上げたのは、対立するランカスター家の生き残りで、リチャード3世を破って王となったヘンリー7世だったと結論付ける・・・という話。

私が読んだハヤカワ文庫は、今から30年以上前に買った本で、未読のまま押し入れの中で眠っていました。たまたま、日経の夕刊で中野京子さんが本作を取り上げていて、初めてリチャード3世とヘンリー7世の肖像画をカラーで見て(カラーで見たのは初めて。文庫の表紙にはリチャード3世の肖像画が掲載されているが白黒)「確かに肖像画で見るとヘンリー7世の方が悪賢そう」と思え、やっとこさ本書を読んでみることにしました。

アームチェアディテクティブの名作として世界的に有名な本書ですが、中身はかなり真面目な歴史検証になっているように思えました。ただ、わかりやすく周辺の人物や事件を解説しているので、イギリス史に全く疎い私でもある程度は面白く読めます。

多分、イギリスの人にとってはリチャード3世とかヘンリー7世は日本人にとっての織田信長とか徳川家康並みの有名人で、意外な真相のインパクトは大きく、とても面白い読み物になっていたのだと想像します。(例えると、明智光秀=名君説みたいな感じ??)
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シャルロットの憂鬱

2019年07月15日 | 本の感想
シャルロットの憂鬱(近藤史恵 光文社)

真澄と浩輔は子供ができず、犬を飼うことにする。警察犬の訓練を受けたジャーマンシェパードをもらってシャルロットと名付ける。シャルロットと真澄の周囲におこるちょっとした事件の謎を解くミステリ短編集。

著者の他の短編シリーズに似てミステリ部分はライトな感じで、犬と飼い主の関係について述べた部分が多くを占める。そしてそういう部分は(他のシリーズ同様)取材が行き届いているのか、著者自身が経験豊富なのか、リアリティが高い。本作では、犬は散歩に連れて行っている人によって他人(もしくは他犬)に対する態度を変える、という指摘には「気づいていなかったけど、確かにそうかも」と思わされた。

そんな中で、やや現実離れしているなあ、と思えたのは浩輔の態度。あまりにも理想的な夫すぎること。こんな出来すぎな男いないよ。
もしかして最後に、この話はすべて真澄の妄想でした・・・というオチがあるのでは、と思うくらいに。
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