蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ラスベガスをぶっつぶせ

2008年12月31日 | 映画の感想
ラスベガスをぶっつぶせ

MITの優秀な学生である主人公は、ハーバードの医学部入学を志すが、学費の工面に頭を痛めている。そんな時、数学の教授にブラックジャックのカードカウンティングで一稼ぎしないか、と誘われて、つい乗ってしまう。
天才的能力を発揮して主人公は勝ちまくる。しかし、次第に学費稼ぎという本来の目的は忘れ去られ、とにかく勝つことが自己目的化し、賭金も大きくなっていく。やがて派手に勝つ主人公はカジノ側に目をつけられ・・・

カードカウンティング自体は、ブラックジャックの一戦術で、ある程度のレベルなら誰でもやっていることだと思うし、「必勝法」というほどのものでもない(珠算一級レベルの暗算ができれば相当にカウントできるらしい)。
おそらく教授が考え出した(本作はある程度実話に基づいているらしい)のは、さらに高いレベルで山の中のカードを推測する技術なのだろう。

好調時には、当初のピュアな目標を喪失して、つい無謀なレベルのチャレンジをしていまって、本来獲得できたはずのものまですべて失ってしまう、という成功者の陥穽が上手く描かれていて、楽しめる。ラストシーンもよかった。
ただ、邦題はいただけない。主人公は完膚なきまでにラスベガスにぶっつぶされてしまったのだから。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

賭ける魂

2008年12月06日 | 本の感想
賭ける魂(植島啓司 講談社現代新書)

著者のギャンブル遍歴を競馬と海外カジノでの経験を中心にエッセイ風にしたもの。

断片的には、はっとさせられるようなフレーズがあるのだが、書き散らしたエッセイをただ並べただけ、という感じで、まとまりや一貫性がない。

例えば、「ギャンブルでもっとも大切なことは「信じる」ということだ」「何かを信じても勝てるとは限らないが、何かを信じないで賭ける人間はほぼ百パーセント負けてしまうのである」と書いている。これは、セオリーとかフォームを固めないでテキトーに賭けていても勝てない、という意味だろう。一方で「ギャンブルで一番強いのは、けっして自分の型をもたない人間であろう。自分でもわけがわからないまま攻めるというのがよい」と書いてある。矛盾していないだろうか。

私はどちらかというと前半のタイプで、自分にあっていると思ってる戦法しかとらない。競艇なら、ヒモから考える、ヒモから流す時は全部買う、とか。

ギャンブルの話とは関係なく、本書で興味深かったのは、東大の大学院であっても、宗教学(著者の専攻)学科だと、就職口はほとんどない、ということだ。まあ、学科が学科だからなのだろうけど、東大の博士でもそんなものなのね。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

旅する力 深夜特急ノート

2008年12月03日 | 本の感想
旅する力 深夜特急ノート(沢木耕太郎 新潮社)

昔、つらいことやいやなことがあると、本宮ひろ志さん作のマンガ「俺の空」とか「サラリーマン金太郎」とかを読んだ。
「こんなことあるわけね~よな」とかいいつつも、主人公たちの超人的な運の良さに支えられた活躍を見ていると、なんとか立ち直れそうな気がしてきた。単純な人間なのだろう。(これが島耕作になると、(同じようなストーリーなのに、なぜか)生臭さが漂ってかえって萎えてしまうのが不思議だった)

本書は「深夜特急」の舞台となったアジアからヨーロッパの旅の前後のエピソードや裏話をエッセイ風に綴ったもの。

そこで語られる筆者自身の出世物語は、まさに安田一平や矢島金太郎もたじたじの華麗さがある。
大学を卒業して一日で会社を辞めてぶらぶらしていると、大学のゼミの教授がルポの仕事を紹介してくれて、そのルポを読んだテレビ局の業界誌の編集長が「ぜひうちで仕事を」と申し出て、その編集部は著者の文章を徹底的に磨き上げる手伝いに労を惜しまず、海外に取材に行きたいといえば黙って取材費をくれ、一方で総合誌に大学時代に書いた論文を手直ししたものを載せることになると堂々の巻頭を飾り、そうこうするうち磯崎新に見込まれて、ただ雑談するためだけにハワイに大名旅行する・・・。

うーん、これだけの人が寄ってたかって筆者の才能にほれ込むのだから、よっぽど輝くものがあったのだろう。

しかし、まあ、いってみれば、これはすべて自慢話である。おそらく他の人が書いたら鼻持ちなら無い、読み続けるのに苦痛を感じるほどの内容だ。というか、「深夜特急」自体が長大な自慢話に他ならない。

だが、しかし、そういう自慢話も沢木耕太郎さんの手にかかると、「俺の空」とか「サラリーマン金太郎」なみの(マンガと比べられては不本意だろうが)さわやかな読後感をもたらす読み物になってしまうのだから不思議。
「深夜特急」ではドラマチックな事件(例えばゲリラに拉致されたとか)は全く起きない。ただのフーテン青年がバスを延々と乗り継いでいるだけなのだ。
なのに面白い(私が、「深夜特急」で特に面白かったのはマカオの大小とパキスタンのバスの話だったが、本書によると、やはり大抵の人がこの場面が好きなようだ)。
まさに文章に力があるということに違いない。

しかし、「深夜特急」シリーズは、そうした魅力ゆえに極めて危険な書でもある。本シリーズを読んだら、まず、間違いなく海外放浪旅行に行きたくなる。たいていの人は実行しないものの、あとがきに書いてあるように、本当に出かけてしまう人も多いらしい。もともとが旅好きの人は要注意だ。

私は、ハードカバーの本を買うこと自体が珍しく、また、本を買っても、その本が面白そうなほど、読まずに後回しにするクセがある。
しかし、本書は買ってすぐに読んだ。「深夜特急」の完結編と聞いては、そうせざるを得なかった。そしてその期待に十分応えてくれる面白さだった。

「深夜特急」はそれくらい面白い。未読の方は、これからこんな面白い話が読めるのだから、とても幸運である。
そして、私自身も、「敗れざる者たち」「テロルの決算」「人の砂漠」「一瞬の夏」「チェーンスモーキング」「凍」などなど、沢木さんの本をもう一度(3度目、4度目になるものもあるが)読むことになりそうだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ジョーカー・ゲーム

2008年12月01日 | 本の感想
ジョーカー・ゲーム(柳広司 角川書店)

装丁のイラストがいかしているのと、伊坂幸太郎さんの賛辞がついたオビにひかれて買いました。各種書評でも評価は高いようです。

日本陸軍がひそかに設立したスパイ養成学校「D機関」。
そこでは自身優秀なスパイだった結城中佐が指導にあたっている。彼は陸軍の主流からは遠く外れているが、味方をあざむくような手段で実績をあげていく。
生徒達のインセンティブは「自分ならこれくらいはできなくてはならない」という強烈な自尊心、という設定の短編集。

ストーリーはやや非現実的で、「スポ根」系(?)スパイ物ではなくて、「まあ、こんなスパイがいたらかっこいいよね」という感じで、ムードを楽しむべき作品でしょうか。
冷徹で目的のためには犠牲をいとわないはずの結城中佐が、どの話も最後の方では妙にいい人になってしまっているのは少々違和感がありました。

私としては、「スポ根」系(例えばル・カレとか、最近だと五條瑛とか)、あるいはリアル系が好みなので、ちょっと食いたり無い感じでした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする