蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

さよならの儀式

2020年04月29日 | 本の感想
さよならの儀式(宮部みゆき 河出書房新社)

デビュー期の宮部さんの作品は、ミステリといってもSF色、ホラー色が強いものが多かった。「魔術はささやく」とか「レベル7」、「龍は眠る」などは、今思い出してもうっとりするほど面白かった。
その後、「火車」や「理由」、「模倣犯」、「ソロモンの偽証」などの社会派系テーマに遷移し、そうした作品が代表作と見られることが多くなってきた。ただ、私にとってはこうした一連の社会派系作品はどうも長すぎて焦点がぼやけてしまっている印象が強い(「火車」は除く。「火車」はほどよい長さだし、後半の図書館シーンは読後数十年を経た今でも強く記憶に残っている)。

本書は、著者の原点に戻ったようなSF系中編8作を集めたもので、デビュー期の作品のように、どれも読み始めたら最後まで読み切らずにはいられない程、ストーリーに面白さがある。
特にすごいのは「聖痕」だ。最初は私立探偵モノのように見せかけておいて、だんだんホラー色を深めていく一方、社会派テーマ的な側面を見せてくる。ところが、最終盤になって、日本を代表するベストセラー作家とは思えない、デビューしたての超フレッシュな新人が書くような破格の結末が待っていてびっくりする。(決してけなしているのではない。宮部さんのようなベテラン中のベテランが、セオリーをぶっ飛ばすような展開を思いつき、本当にそれを作品し得ることに深く感心した)
コメント
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