蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

地上最後の刑事

2017年08月27日 | 本の感想
地上最後の刑事(ベン・H・ウインタース 早川書房)

半年後に小惑星が地球に激突し人類は壊滅的打撃を受けることが確実視されている。将来を悲観して自殺者が相次ぐ中、マクドナルドのトイレで見つかった死体も典型的な首つり自殺によるものだと思われた。しかし、新人刑事のヘンリー・パレスは首つりに使われたベルトが高級な新品であることに疑念を抱いて殺人の線で捜査を始める・・・という話。

小惑星が激突した影響で地球が冷却化し人類は滅亡するのでは?という予想は悲観的すぎるかもしれず、中途半端な、しかし深刻な不安にさいなまれた社会の描写にリアリティがあった。

破滅しかけた世界にあっておとなしくて恨みを買うような点が全くなかった被害者がなぜ殺されなければならなかったのか?という動機に納得性があり、犯人にも意外性があり、犯人にたどり着くまでのプロセスも悪くなく、ミステリとしても優れた作品だった。
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湯を沸かすほどの熱い愛

2017年08月15日 | 映画の感想
湯を沸かすほどの熱い愛

主人公(宮沢りえ)は家族で銭湯を経営していたが、夫(オダギリジョー)が蒸発してから営業していない。
娘は中学校でいじめられていたが、主人公は一切の逃げを許さずの克服させる。
夫の捜索を探偵に依頼して現住所を突き止め押し掛ける。そこには夫の浮気相手(すでに逃げられていた)の子供がいて、夫は戻ってきて銭湯を再開するが置き去りにされた子供の面倒も見ることにする。
やがて主人公が末期ガンであることがわかり・・・という話。

浮気症で風来坊の夫、母に捨てられた娘、生みの親より育ての親、学校のいじめ、銭湯経営、自分探しの青年、不治の病、主人公に惚れている?探偵、と物語の要素が多すぎて、詰込みすぎで未消化な部分があるのは否めないが、タイトル通りストーリーは直線的に熱く進むので、見ている方も細かいことにこだわるヒマもなく物語の中に取り込まれてしまう。このため物議をかもしそうな最後のエピソードも「そんなこともあるわな」くらいに感じられた。

オリジナル脚本&商業ベース作品では初めての監督ということで、思いが詰まった作品なんだろうなあ、ということが素人にも感じられる良い映画だったが、ちょっとだけ文句を言うと・・・
宮沢さんの演技が申し分ないのだが、みかけが最初から病人っぽいのがイマイチかなあ。肝っ玉母さんという言葉がぴったり当てはまる役回りなのだが、どうしても外見は薄幸の美魔女くらいに見えてしまう。オダギリさんも見た目が若過ぎ&かっこ良すぎ。

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村上朝日堂はいかにして鍛えられたか

2017年08月15日 | 本の感想
村上朝日堂はいかにして鍛えられたか(村上春樹 新潮文庫)

小説はイマイチ相性が良くないがエッセイは大好き、という作家が何人かいて、伊集院静さん(最近のはちょっとどうかなと思うが、週刊文春に連載していた二日酔い主義(だったかな?)は(特に連載初期は)よかった)、森博嗣さん(森さんの小説は自伝的な「喜嶋先生の静かな世界」と「相田家のグッドバイ」は抜群にいいのだが、ミステリはどこがおもしろいのか全く理解できない。しかしクールなエッセイは(ほぼ同じネタなのに)出版されるたびに買ってしまう)などが頭に浮かぶ。

村上さんのエッセイはそれほどの数はなく、読み始めたのは割と最近なのだが、(小説はさほど楽しんで読めないのと対照的に)どれも抜群に面白い。笑えるという意味でも、興味深い話題が多いという意味でも面白い。

エッセイだからといって事実に基づいて書かなければならないという縛りはないので、本書も「これは創作なのでは?」と疑いたくなるようなものがいくつかあって、全裸で家事をする主婦の話題なんて読者からのお便りも含めて全部つくりものなのでは?と思えたし、巻末のレストランへの苦情の手紙(これが何というか(クレームなのに)端正で「日本語の手紙の書き方」という本があったら最高レベルの教材になりそうなもの)もあまりに出来すぎているので架空の話なんじゃないかと思えた。

一番笑えたのはヘンテコなラブホテルの名前で、さすがにこれは読者の投書によるものだと思うが、もしももしもこれが創作だったらすごいぞ。

村上さんの写真を見ると「いかにも(大家にふさわしい)気難しそうな人だな」と見えてしまうのだが、エッセイを読むととても気さくでやさしげな人に思える。しかし、本書で紹介されている文学全集の話や映画のエンドロールの話を読むと、やっぱりそれなりに圭角のある人なのかな、とも見えるのだった。

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スプートニクの恋人

2017年08月15日 | 本の感想
スプートニクの恋人(村上春樹 講談社文庫)

すみれは小説家志望で、部屋にこもって発表するあてもなく小説を書いている。さほど魅力的な外見ではないが、主人公はすみれに恋している。しかし、すみれは男には興味がなく、親戚の結婚式で知り合ったミュウ(女性の会社経営者)を慕っている。やがてすみれはミュウの会社で秘書として働き始め、ミュウと休暇旅行に行ったギリシャでミュウとは望むような関係になれないことを悟り失踪してしまう・・・

という主筋はあんまり面白くないのだが、最後から2番目のパート「15」はよかった。
主人公は小学校の教師で生徒の母親と不倫関係にある。その生徒が万引で捕まってしまう、という話なのだが、捕まえた警備員の悪役としての描写がうまくて追いつめられていく主人公との対比が鮮やかで、生徒が(警備員から問い詰められていた事務所から)こっそり盗んできたカギを捨ててしまうという結末も小さなカタルシスがあった。
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貴様いつまで女子でいるつもりだ問題

2017年08月13日 | 本の感想
貴様いつまで女子でいるつもりだ問題(ジェーン・スー  幻冬舎文庫)

タイトルやペンネーム(著者は普通の日本人らしい)から容易に想像できるように、プライドが高い人が自分のイメージ通りに人生が進まないことの苛立ちを綴ったエッセイ。

私は美人でスタイルがよくて教養もあってずっと東京育ちで(ラジオだけど)レギュラー番組ももっていてエッセイを書けば講談社エッセイ賞(本作で受賞)なのに、どうして社会的な大成功(今でも十分成功していると思うが)を得られず、超金持ちの男を捕まえることもできないのか、を嘆いた内容。とにかく著者の自意識が前面に出ていて読むのが少々つらかった。今時(でもないが)でいうイタい本だった。

のだが、そういう自意識と離れた内容の「桃おじさんとウエブマーケティング」「Nissen愛している」はとても面白かった。
また父との葛藤?を描いた「母を早くに亡くすということ」も良かった。自我をうまく受け入れてくれない父親(=世間)とどう折り合っていけばいいのか?をめぐる苦闘が生々しくて、プライドが高い自分をかなり客観的に観察できる視点が感じられた。
いずれも最後の方に収録されているので、時間が経つうちに著者の尖ったプライドも丸みを帯びてきてエッセイも洗練されてきたのだろうか?
日経の夕刊(土曜)の著者による連載コラムを見ると(まだ2、3回くらいだが)確かにツンツンしたイタい感はあまりないように思えた。
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