蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

戦場のコックたち

2016年01月15日 | 本の感想
戦場のコックたち(深緑 野分 東京創元社)

第101空挺師団に属する主人公:キッドは特技兵(糧食の管理・調理担当)。
ノルマンディー→マーケットガーデン→バストーニュ防衛戦と欧州の主要戦場を転戦するうちに遭遇する不思議な出来事の謎解きをしようとる・・・という話。

(WWⅡ絡みの)戦記物が好きな人(日本人)のうち多くは日独びいきなのではないかと思います。
自国およびその同盟国サイドに立ってしまうのは致し方ないでしょうし、日本語に翻訳された海外の著作もドイツびいきのものが多いような気がします(パウル・カレルとか・・・「彼らは来た」とか「焦土作戦」とか、なつかしいなあ・・・もっとも彼の著作にはかなり偏向があったらしいですが。著者がアメリカ人の場合でも、どっちかというとドイツ軍優勢の作戦を描いたものばかりが翻訳されているような気もします)。
私の世代だと、松本零士さんの戦場まんがシリーズに影響を受けた人も多いでしょう。私なんかは、キングタイガーがシャーマンをおもちゃのように次々撃破するシーンが刷り込まれてしまっています(「ラインの虎」が読みたくなってきた)。

このため、本書のような、日本人が著者で、かつ、アメリカ軍の視点で描かれた作品は珍しく、また、私はメインの戦場を描いたものはさんざん読んできたので最近では輜重とか補給など後方支援系に興味があるため、(年末の各種ランキングで軒並み高く評価されたことにより本書の存在を知り)読んでみました。

「海軍めしたき物語」などを読んで、後方支援系の兵士って原則戦闘はしないイメージを持っていたのですが、米軍はそうでもないのか、キッドたちは前線に投入され第一線の兵士として戦います。
特技兵として活躍するシーンよりも普通の兵士として戦闘するシーンが圧倒的に多く、食糧調達や調理に苦心したりする場面とか、米軍のミリメシ事情の描写などを期待していた私としては、その点は残念でした。

そうは言っても戦記物として十分に面白く(ミステリとしては少々物足りない)、キッドの成長物語としてもよくできていると思いました。
キッドが兵役を解かれて故郷に戻り、その平和な風景に深い安堵を覚えるのとウラハラにどうしようもない虚無感を抱いてしまう場面が特に感動的でした。
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兵士は起つ

2016年01月13日 | 本の感想
兵士は起つ(杉山隆男 新潮文庫)

東日本大震災の救助活動にあたった自衛隊員の活躍を描くルポ。

著者の「兵士」シリーズでは、比較的少数の(やや特殊な体験をした、そして多分かなり優秀な)自衛隊員への取材をまとめたルポだったため、各人ごとにかなりつっこんだエピソードなどが盛り込まれた内容で、いずれも読みごたえがあった。
本書では広く浅くできるだけ多くの隊員の活躍を描こうとしたと思われるが、そうかといって自衛隊の救助活動全体が浮かび上がるような構成にもなっておらず、やや中途半端かな、という印象があった。

本書に登場する隊員の献身的な努力と成果はいずれも感動的なレベルで、国民として税金を払っている甲斐がある、と思わせてくれる。しかし、隊員全員がそうだった、というわけでもないだろう。「兵士」シリーズ全体がそうなのだが、自衛隊礼賛な視点がやや鼻につかないでもない。

本書によると、自衛隊の救助活動のために自宅を一時的な避難場所として提供した人もいればそうした要請を断った人も多かったそうだし、店番がいなくなった小売店で何者かによる空巣行為が頻発していたらしい。
そうした、きれいごとばかりでもなかったよ、といった場面も本書には描かれているのだが、自衛隊員については、全員模範的なこうどうをしていたかのような描写しか出てこないのはちょっと残念(怠慢な隊員は本当に皆無だったのもしれないが・・・)。
救助活動において発生した問題点を指摘する部分もあってもよかったと思う。
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片づける 禅の作法

2016年01月07日 | 本の感想
片づける 禅の作法(桝野俊明 河出文庫)

禅宗のルールや日々の作務(掃除などの家事的作業)のやり方の解説を通じて、日常生活の質の向上を説いた本。出版社の要請もあってか、ノウハウ本っぽい内容が多い。禅寺での生活風景をもう少し詳しく書いてほしかった。

日本の女性ライターが書いた整理整頓の方法論のエッセイがアメリカでベストセラーになっているらしい。日本と違って広々とした住宅で収納スペースもたくさんあって・・・なんていう住宅事情を想像していたので、アメリカにはモノが多すぎてゴミ屋敷化寸前、みたいな悩みはないのかと思っていた。
でも、スペースがあればその分だけモノを買ってしまうというのは洋の東西を問わない人間の性のようで、あちらでも不要なモノを選別するノウハウを身に付けたいという人は多いようだ。

物理的に豊かになってしまうと、今度はモノに縛られないシンプルな生活を指向しはじめる、みたいな「隣の芝生は青く見える」症状は、いつの世にも、どの地域でも発生する普遍性?を備えているのだろう。

禅宗(というか禅の思想のようなもの)自体も、日本よりむしろアメリカでの方が普及しているような気もする。ジョブスとかドーシーとか有名人のフリークも多いし。

こう考えると、禅という思想は豊かな社会にしか存在しえないもの、ということになるのだろうか?一般的な宗教のイメージ(人々の不安や不満を吸収して成長する)とは正反対だが。
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百円の恋

2016年01月06日 | 映画の感想
百円の恋

主人公(安藤サクラ)は30歳すぎてもプータローで実家にこもってゲーム三昧。
出戻りの姉とケンカしてひとり暮らしをすることになる。
100円均一のコンビニでバイトを始め、近所のボクシングジムで練習する男とつきあい始める。しかし、その男にフラれてヤケクソでボクシングの練習を始める・・・という話。

いわば「ロッキー」みたいな話なんだが、
実家の弁当屋の状況(主人公の父は頼りなく、姉を子供を連れて出戻り、母一人が長時間労働で支えている)や、
100円コンビニの環境やそこに関わる人々(うつ気味の店頭、自己中心的SV、バイトのおしゃべりおじさん、元バイトで廃棄弁当を漁るおばさん)が、
現代日本のどん底風に、これでもかというくらいサイテーの描き方をされていて、それにふさわしい自堕落な生活を送っていた主人公が心機一転ボクシングに集中する姿が非常に輝かしく見えた。

それでいて、スタローンみたいに最後に勝ったりしないところもまた良くて、ボクシングの試合の応援に来た父母や姉が主人公が苦闘する姿を見て、家族の一体感を取り戻したかに見えるシーンも(ベタなんだけど)なかなか感動的だった。
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突変

2016年01月02日 | 本の感想
突変(森岡浩之 徳間文庫)

ある一定の地域が、そこに住む人や環境ごと突然パラレルワールドに裏返ってしまう現象が世界各地で発生していた。裏返るとパラレルワールドの動植物が本世界へやってくるのだが、中には凶暴な肉食獣などもいて、本世界ではそうした害獣を排除する特別な部隊が編制されていた。
ある日、北関東の酒河市一体が裏返ってしまい、高齢の町内会長、スーパーの店長、害獣駆除部隊の若い女性、夫がパラレルワールドに先に行ってしまった幼い子をかかえる母親、などは、それぞれの立場でこの災害に対応しようとするが・・・という話。

パラレルワールドの動植物相であるとか、この災害に対応しようとした本世界の対応(害獣駆除部隊の設置とか)などが、かなり綿密に設定されていて、物語中でのリアリティはすごいと思うのだけど、全般にユーモア小説的な雰囲気なので、パニックストーリーとしての緊迫感、盛り上がりがイマイチかな・・・という感じだった。もっと怖い話にしたほうがよかったような気がした。

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