蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

渇水

2024年01月24日 | 映画の感想
渇水

岩切(生田斗真)は水道局の職員。仕事は未納者への督促。岩切はできるだけ機械的に止水(滞納者の水道栓を封印すること)をしようとする。そんな冷徹な姿勢に同僚の木田は、違和感を抱きつつも指示通りに作業している。あるとき二人は明らかに育児放棄されていると思われる姉妹が住む家に督促にいくが・・・という話。

作中でも触れられているが、電気やガスは滞納だとすぐに止められてしまうが、水道は猶予期間が長めらしい。
水がないと生命の危険に直結するから、とかいわれるが、実際のところは、水道局が官営(もしくは元官営)だから、利用者に遠慮があるとか、職員がそこまでドラスティックになれない、ということもあるような気がする。

本作の主人公たちも、育児放棄された家庭まで止水するのか?という問いに中途半端にしか対応できていない。映画としてはもっと冷酷か、逆にありえないくらい親切か、の方が面白いとおもうのだけど、原作がそうなっているのか、本作ではどこまでいっても生ぬるい感じだ。

育児放棄を描いた映画というとすぐに「誰も知らない」が思い浮かぶ。それに比較すると、緊迫感と切迫感があまり感じられなくて、「ああ、かわいそうだね」ぐらいにしか思えないくらいの描き方なのも、やっぱり、どっちつかずだったかなあ・・・?
「渇水」というタイトルから、ハードボイルドな内容を期待したこちらが悪いのか・・・?
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嘘の木

2024年01月22日 | 本の感想
嘘の木(フランシス・ハーディング 東京創元社)

14歳のフェイス・サンダリーの父エラスムスは著名な博物学者だったが、標本の偽造疑惑が持ち上がり、イギリス南部のヴェイン島へ家族ともども移住する。エラスムスは、嘘の木(人のウソを貯め込んで真実の実をつける。その実を食べると隠された真実のビジョンを得ることができる)を秘かに島に持ち込んでいたが、崖から落ちて死んでしまう。フェイスは父の死の真相を知るために嘘の木を成長させようとする・・・という話。

本作の魅力は、「嘘の木」の存在だけがファンタジーで、その他の部分は19世紀終わりのイギリスの社会構造や風俗を(多分)そのまま再現している点にあると思う。隠そうとすればするほどウソが大きくなっていくように、ファンタジー設定を絞りこめば絞り込むほど現実との乖離が拡大して物語を盛り上げているように思えた。

そして、単純な復讐譚に終わらせることなく、現実の世間の世知辛さや思わぬ親愛(フェイスの母:マートルが一見世間知らずの奥様のように見えて実は・・・とか、冷淡そうに見えた家政婦のベレや郵便局長のハンターが一転・・・・など)も加えることで、興趣を添えている。
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銀河鉄道の父(映画)

2024年01月22日 | 映画の感想
銀河鉄道の父(映画)

宮沢賢治(菅田将暉)の生涯を父:政次郎(役所広司)の視点で描く。
宮沢家は質屋を営む富商で、政次郎は独り立ちできない賢治を、財政面でも気持ちの面でも支える。農学校を中退した賢治は、法華経にのめりこんだり、地元の農業指導をしたりするが、妹トシ(森七菜)が結核で若死にしたのをきっかけに創作に没頭するようになる・・・という話。

主要キャストに芸達者を揃えて、それぞれの演技が協和してさらに止揚を生むような好循環を感じた。特にほぼ初見の森七菜は、そのせいもあるのか、とても上手に思えた。賢治臨終のシーンの役所広司の演技は「お涙頂戴」とわかっていても感動的だった。

本作のもう一つ魅力は、セットや美術あるいはロケのシーンが非常によくできていて、作品全体としての品の良さ、香り高さを醸し出しているところだと思う。政次郎の父の葬儀のシーン、政次郎の屋敷の雰囲気(特に夜のシーンにおけるランプの効果がいい)、賢治が隠棲?した別荘の周囲の風景などなど。
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旅猫リポート(小説・映画)

2024年01月21日 | 競艇
旅猫リポート(小説(有川浩 講談社文庫)・映画)

何年も前に録画した映画を忘れていて、今頃になって見てみた。数年程度なんだけど、出演者が皆とても若く見えたし、竹内結子さんが主人公のおば役で登場したときは、はっとさせられた。

主人公のサトルはわけあって飼い猫のナナの新しい飼い主を探していた。ナナといっしょに昔の友人や知り合いを車で尋ねる旅を描いたロードノベル(ムービー)。

ナナが人語を解して一人語りする、と言う設定は「吾輩は〜」以来、使い古されたものだし、サトルがナナを手放そうとしている理由は、まあ、月並みだ。
それでも本作が魅力的なのは、猫が好きな人達の描き方がうまいから(だろうか??)。あるいは猫を飼ったことがない人でも、飼ってみたい、と思わせてくれそう、だからか。

いい人過ぎるサトルが最後の最後に、友人にある秘密を(ここでそれを言うか〜的なセリフなのだが)打ち明ける場面がよかった。いい人過ぎる人でもやはり、最後に本音を吐いてみたかったんだろうか・・・的な。(特に映画でのこのシーンがよかった。あ、あと映画ではナナの吹替(高畑充希)もよかった。映画を見てから原作を読んだので、小説を読んで
いると映画でのナナの声がそのままリピートされるようで心地よかった)
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臨床の砦

2024年01月21日 | 本の感想
臨床の砦(夏川草介 小学館文庫)

内科医の敷島が勤務する長野県の信濃山病院はコロナ患者を受け入れていた。第3波の頃、大量の感染者が殺到する。周辺の病院はほとんど対応しておらず、しようともしない。信濃山病院は、無理矢理感染者用病床を拡大して対応しようとするが・・・という話。

著者の実体験に基づく小説で、概ね実話のようだ。このためストーリーの起伏はあまりないのだけれど、当時、感染の矢面に立たされた医療従事者の緊迫感や慨嘆がひしひしと伝わってくる。

主人公は勤務医で、いわばサラリーマンである。生命の危機に直面し、過労死レベルの勤務が続いても報酬が増えるわけでも、世間からの称賛を受けるわけでもない。それでもその仕事を続ける理由は何だろうか?
職業的使命感?
医学者としての興味?
同僚たちとの連帯感?
世間体?

それもあるけど、やはり、人間は慣れ親しんだ環境から自らの意思だけで離脱しようとはなかなか思わないからだろう。一言でいうと「それが仕事だから」ということじゃないかと思う。
(逆に「それが仕事だから」という理由で、恐ろしい行為に及んでしまう場合(例えば、ナチスの強制収容所の勤務者)もあるのだが・・・)
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