蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

レプリカたちの夜

2020年08月30日 | 本の感想
レプリカたちの夜(一條次郎 新潮社)

往本は動物のレプリカを作る工場で働いていた。ある夜、本物のシロクマを工場内でみかけるが・・・という話。

という話、といっても本書にはストーリーらしいストーリーはなく、そうかといって著者のイマジネーションの飛躍を追いかけるわけでもない。認識とか生命の概念とかについての著者の思いがダラダラ続く感じ。

途中で「パレイドリア効果」(月の模様がウサギに見える、みたいに特段の意味もない模様を既知のパターンにあてはめて見てしまうこと)という言葉が出てくるが、ある種の認知症の人が見ている世界はパレイドリアに満ちているらしい。もしかして、往本は認知症で、その脳内イメージを描写している、という夢オチみたいな結末なのでは?などとも思ったが、そうでもなかった。

しかし、本書は新潮ミステリー大賞受賞作で、その審査員だった伊坂幸太郎さんが絶賛したとのこと。本書の良さがわからない私の方が悪いのだろう・・・ただ、本作が伊坂さん好みだというのはよくわかるような気がする。伊坂さんがやはり新潮社のミステリのコンテストで受賞してデビュー作となった「オーデュボンの祈り」も(本書ほどではなくても)相当ヘンテコな内容だったからなあ。
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流浪の月

2020年08月29日 | 本の感想
流浪の月(凪良ゆう 東京創元社)

家内更紗は風変りな両親に育てられ、学校でも孤立していた。両親は行方不明になり伯母に引き取られるが居心地は最悪だった。公園で知り合った大学生の佐伯文の部屋で過ごすうち、叔母の家に帰りたくなくなりそこで寝泊まりしているうち、誘拐事件と誤解され・・・という話。

本屋大賞受賞作でそれ以外での世評も非常に高いので、読んでみたのだけど、ちょっと好みと合わなかったかな、という感じ。

ストーリー全体が作りものめいていて(まあ、小説だから作りものなのだが・・・)現実感が薄すぎるように思えた。ストレスに満ちた世の中でそういう物語をこそ求めている人が多いということだろうか。
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鮪立の海

2020年08月29日 | 本の感想
鮪立(しびたち)の海(熊谷達也 文春文庫)

三陸の仙河海(気仙沼がモデル)で漁師の家で育った菊田守一は、自らも漁船の船頭になること、そしてやがては自分の漁船を建造して船主になることが夢だった。しかし太平洋戦争が始まり、守一は海軍に徴用された改造漁船で見張りに携わるが米軍に襲撃されて兄を失う。戦後担ぎ屋で糊口をしのぐうち、同業で口がうまい遠藤征治郎と仲良くなるが・・・という話。

熊谷さんの著作は昭和初期の頃を主な舞台としたものと現代ものに大きく分かれるような気がする。私が好きな作品は前者の方に属することが多く、最高に面白かったのはマタギを描いた「邂逅の森」。
本書も前者グループに属する時代を描いているが、やはりとてもよかった。

それほどドラマチックな展開もないし、登場人物のキャラも際立つほどのものはない。
主人公の守一は農家の娘の真知子と恋に落ちるのだけど、その結末は悲劇的でも喜劇的でもなく生ぬるく終結してしまう(真知子はおぼこい田舎娘かとおもっていたら、とびきりの世渡り上手だったのだが・・・)。
じゃあ、どこが良かったの?と言われると言葉につまるのだけど、誠実な登場人物が真面目に生きていく様子を素朴に描いている、今どきあまり見かけない小説だから、だろうか?
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リア充王

2020年08月23日 | 本の感想
リア充王(ホイチョイ・プロダクションズ 講談社)

ボクは運動が苦手で、どれくらい苦手かというと、ハンディキャップドと認定してもらいたいくらい苦手だ。
学校の授業では体育が苦痛で、特に劣等であることが誰の目にも明らかな陸上競技関係(高跳びやハードルの時がさらに)の時は不登校になりそうなほどイヤだった。

で、ボクが大学生~社会人初頭の頃、バブル真っ盛りで、スキー場やスクーバスポットには人が溢れていて、ホイチョイの馬場さんがスピリッツを初めとするメディアでスキーやスクーバをやらない奴は人間じゃない!みたいなキャンペーン?を張っていた。

運動が絶望的な苦手な若者にとってこれくらいキビしいことはなかった。
そんな若者が女の子にモテるわけもなく、「モテ」を人生最高の美徳としたホイチョイを心底から憎んでいた(などと言いつつも、原田知世さんのファンだった僕は馬場さんが作った映画を欠かさず見ていたし、ホイチョイの著作物の多くを読んでいた)。

それで、久しぶりに出版されたホイチョイ製の本書を初版当時に買っていたのだけど、なかなか読む気にならず、ずっと放っぽっていた。
買って以来2年くらいして読んでみた。
本書のメッセージ(前書き部分に書かれている)は、人が溢れていたスキー場などのスポットは、今やガラガラで、一方で道具類は確実な進歩を遂げてヘタクソでもそれなりに楽しめるようになっている、今こそスキーやスクーバを始めるべきでは?、ということだ。

この前書きを読んで、ボクは思った。「ザマミロ!馬場」(失礼)。

本書は(昔のごとく)リサーチが行き届いていて、一読すれば、馬場さんが言うように半可通の手前の手前くらいまでは行けるようになっている。運動オンチでも読んでるだけで楽しめるような趣向もたっぷりだ。イラストもとても洒落ていると思った。

本書によると、現代日本の若者は70歳の老人より活動範囲が狭いそうだ。
世界中で(ブランドものの服飾物から果ては株や不動産まで)買い物しまくっていた頃が日本という国のクライマックス(随分短かったなあ)であって、後はゆるやかな下り坂をたどっていくしかないのかなあ、そんな気がした。

それが悪いこととも思えないけれど。
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あと少し、もう少し

2020年08月23日 | 本の感想
あと少し、もう少し(瀬尾まいこ 新潮文庫)

桝井は中学校の陸上部のキャプテンで学校対抗の駅伝のメンバーを探している。陸上部の長距離組だけでは足りないからだ。
不良だが脚力がある大田と吹奏楽部のクールな渡部、バスケ部のキャプテンでムードメーカー:ジローを説得して参加させるが、去年まで厳しく指導してくれた顧問の先生は転勤し、かわりは経験ゼロの美術教師になってしまったことに動揺していた・・・という話。

このような筋で、主人公が率いる駅伝チームが(勝つにしろ負けるにしろ)活躍するのは間違いないので、新任顧問の美術教師をどう扱うのか?が小説全体の面白さを決めるような気がする。

突如陸上に目覚めて駅伝メンバーからもリーダーとして認められるようになる、というパターンと、やっぱり全く役にたたないのだけど駅伝とは別のところでチームに貢献する(例えばすごい美人だ、とか)パターンの二つくらいが思い浮かぶ。

本書ではその中間あたりをいく、絶妙なバランスのストーリーになっていて、凡庸なスポーツ小説、運動部モノとは一線を画しているように思えた。
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