蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

機龍警察

2013年12月25日 | 本の感想
機龍警察(月村了衛 ハヤカワ文庫JA)

大型のパワードスーツのような兵器「機甲兵装」を使った犯罪が起きるようになり、警視庁は対抗策として機甲兵装を自在に操れる元傭兵、元外国人警察官、元テロリストなどを雇って特別組織SIPDを編制する。この部隊には「龍機兵」と呼ばれる最先端の機甲兵装が配備されていた。元傭兵と同じ部隊で活躍していた傭兵が謎の組織に雇われてSATに壊滅的打撃を与える事件を起こす。SIPDは捜査に乗り出すが・・・という話。

設定も展開もパトレイバーにそっくりという感じ。機甲兵装はロボットというよりウエラブル装甲兵器という感じだけど。
そして「龍機兵」はプロトタイプのガンダムのように無敵の強さで、敵の機甲兵装は(並のパイロットが乗る)ザクみたいな感じで簡単に撃破される。

なので、本書の魅力は、そういったロボットプロレス的な場面にはあまりなくて(それでも凝った描写はなかなか楽しめるが)、警察組織内部の軋轢とか粘り気がある人間関係とかの描写にあるように思えた。ただそれも「踊る捜査線」っぽい感じがしたけど。

と、批判的な感想を書いたけど、経験豊かな脚本家が書いた処女小説だけあって、50ページに一回くらいの割合でヤマ場がくるようになっており、緊張感を保ったままラストまで一気に読めるハイレベルな娯楽作品だった。
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飲めば都

2013年12月25日 | 本の感想
飲めば都(北村薫 新潮社)

大手出版社の女性編集者を主人公として、先輩の編集者や挿絵を描く版画家(後に主人公と結婚)との交流を酒場でのエピソードを中心に描く。
「日常の謎解き」的な部分もあるにはあるけれど、タイトルから想像できるように、ダジャレや「クスッ」と笑えるような部分が多い。
特に私がウケたのは、主人公が「今日こそプロポーズされる」と思い込んでいた男性とのデートで別れを切り出された部分。
「<<キレる>>という言葉の意味が知りたかったら、わたしを見ろ――という気分になった」という文章が妙に笑えた。

著者は、お酒を飲むことが好きなのだろうか?
やたらとお酒とおつまみが出てくる連絡集を作るくらいだから、嫌いということはないのだろうけれど、本書では「お酒を飲んで楽しかった」という話より、「泥酔して失敗した」と後悔している話の方がかなり多かったので、実は、あまりお酒好きではなく、それゆえ「楽しくお酒を飲めるようになりたい」という、あこがれみたいなものを作品にした本だったような気がした。
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世紀の空売り

2013年12月18日 | 本の感想
世紀の空売り(マイケル・ルイス 文春文庫)

アメリカのサブプライムローンとそれを元に組成された債券は膨大な量にのぼり、オリジナルの住宅ローンが粗悪化していることを“発見”した、大手投資銀行の傘下のファンドマネージャー、(アメリカから見た)外資銀行のトップセールス、そして乏しい資金をかき集めて設立された草の根?ファンドを運用する神経医たちは、債券の債務不履行時にその元利金を保証する保険(CDS)を買うことなどにより、大規模なショートポジションを形成し、やがて訪れるベアーやリーマンの破綻とともに大儲けする・・・という2000年代中盤から後半の金融界を描いたノンフィクション(だよね?)。

著者の作品は「ライアーズポーカー」と「マネーボール」しか読んだことがないが、ノンフィクション(だよね?)なのに、登場する人物の描き方が辛辣(それは敵方のみならず主人公側の描写でも同じで、本書でも空売り側に回った人達も相当にクセのある、傍にいたら耐え難いような人格として描かれている)そのもので、本書に登場させられた?人は皆「オレはこんなじゃない」と感じているのではないかと、心配になるほどである。
恐らく、アメリカのような社会では、このような描写をすれば相応の訴訟リスクを抱えるはずで、それも覚悟の前で挑戦する姿勢が長年にわたってベストセラーを輩出できる原因になっているのだろうか。

また、本書でも「ライアーズポーカー」でも、投資銀行や金融界全体への批判の調子は非常に激しい。特に役職員の高給に対する攻撃が多く、このあたりも読者の共感を呼ぶのかもしれない。
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