蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

バイス

2019年12月30日 | 映画の感想
バイス

父ブッシュ時代に国防長官、子ブッシュ時代に副大統領として中東での戦役やテロ対策に携わったディック・チェイニーの評伝。
コメディ風におふざけ(中盤でエンドロールを流したのは笑えた)をしながら、基本にチェイニー(や子ブッシュ)をこき下ろす内容。

剛腕、辣腕という言葉がぴったりと当てはまる活躍ぶりの半面、史上最悪の副大統領なんて呼ばれることもあるみたいですが、それにしてもこの内容の映画を、しかもかなりメジャーな作品(主役はクリスチャン・ベールで奥さん役はエイミー・アダムス)として製作・公開してしまうというのがすごい。アメリカ映画界らしいと言えば、それまでかもしれませんが。

何しろ、本人がまだ生きているし、仮名とか一切なしのドキュメンタリー風になっていて、裁判に耐えられるような証拠がないことには映像にできないので、そのあたりの取捨選択はけっこう慎重に行われているようです。

チェイニー(あるいは子ブッシュ政権)に係る最大の謎は、なぜ、あそこまで無理をしてイラクに戦争を仕掛けたのか?ということだと思います。
本作もその謎解きについては明確にせず、ほのめかす程度です。逆にいうと今に至っても謎はとけていないのでしょう。

かつて、チェイニーがCEOだった会社を戦時需要で儲けさせ株価(チェイニーはCEO退任後も大株主だった)を上げるため、などといったいわゆる軍産複合体の陰謀みたいなのが通説??です。しかし、チェイニー(あるいは子ブッシュ)は既に十分なお金持ちで、さらにカネが欲しいというインセンティブは薄く、この説はかなりうがったものに見えます。

9.11後のテロ対策のプレッシャーを一身で支えたことが、チェイニーを極端で過激な政策に走らせた・・・みたいな場面もありますし、家庭人としては理想的な父親だったようにも見える描写になっているなど、意外とフェア?なところもありました。
ただし、同性愛者である次女と選挙に立候補した長女との確執を描く場面(最初、チェイニーは自身の政治的立場からすると致命傷になりかねない次女の性癖をあえて受け入れるのだけど、後に長女が選挙に立った時、長女が同性愛を否定することを容認した)は、ちょっとやりすぎだと思えました。

司令塔不在で大統領のツイート(あの臆面もない内容を打ちまくるエネルギーは、常人の域をはるかに超えているよなあ)ばかりが目立つ現政権を鑑みるに、「こういう人も必要かもなあ」と思えてきます。
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みみずくは黄昏に飛びたつ

2019年12月28日 | 本の感想
みみずくは黄昏に飛びたつ(川上未映子 村上春樹 新潮社)

二人の作家の対談本。
「騎士団長殺し」の宣伝&解説っぽい部分が多い。同書を未読だったのだけどそれなりに面白く読めた。というか同書を読んだような気分になれた。

村上さんは彼がデビューした頃の文壇の中心だったらしいテーマ小説みたいなのが嫌いらしく、読んだ人の数だけ解釈がわかれるような物語作りを心がけてきたという。
確かに私が読んだ村上さんの著作の多くは単純明快な筋や結末、オチがあるものではなくて、そういう小説を読み慣れてきた者にとっては、最後が尻切れトンボみたいに感じられることもある。
村上さんがデビューした頃は、私が学生だったころで、当時、国語の授業で必ず言われたのは、教科書(やテスト問題)の文章の主題は何か、ということだった。今もそうなのかはよく知らないが、主題を定めることを否定する村上さんのような作品が増えてくれば、現代国語という教科で小説の問題を出すことが難しくなりそうだ。
それでなくても、作家のエッセイなどで、自分が書いた作品が試験に採用されていたが、自身で正解することができなかった、みたいな主旨の文章を時折目にするくらいだから。

村上さんがもう一つ強調するのが文体とか文章力そのものの大切さで、そういう能力を伸ばせる限り(物語作りの巧拙を問わず)作家は進歩していけるという。
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松任谷正隆さんのエッセイ

2019年12月23日 | Weblog
松任谷正隆さんのエッセイ

JAFの会員に配られているJAFメイトという雑誌があります。
そこでちょっと前から松任谷正隆さんがコラムを連載しています。
若い人はあまりなじみがないかもしれませんが、本職は今でいう音楽プロデューサー的な人です。
バブル前夜のころ(だったかな?)には、プレイボーイとして浮名を流していましたが、なんといっても名が売れたのは、当時すでに超人気歌手だった荒井由実(ユーミン)さんを射止めたことでした。
私なんかは「すぐに破綻しそう」なって思っていましたが(失礼)、今に至ってもそういうことはないようです。
いずれにしても、華やかでおしゃれなイメージの人です。
車好きとしても有名で、JAFがコラムを依頼したのもそのせいでしょう。

そんな松任谷さんが書くエッセイは、きっとスノッブでありながら洗練されたものなんだろうなあと想像していました。
ところが、ほぼ毎回、車にまつわる自身の失敗を赤裸々?に語った内容で、これが(イメージギャップもあって)とても面白いのです。
・アメリカでユーミンと同乗(正隆さんが運転)した車で迷子になり夫婦の危機を迎えた。
・フランスでお金や荷物をスタッフに預けて一人で運転してたら迷子になって(またか!)マジで怖かった。
・昔からお腹が弱くて、車に乗る前には必ず用を済ます。
・飼い犬が愛車のシートでXXXをしてしまった。
などなのですが、
最高に面白かったのは・・・
ユーミンの録音につきあって毎晩彼女を車で自宅(八王子)まで送っていた、
帰り道は中央高速を利用するのだが、この経験があの名曲のもとになっているわけではない、
ある日、当時流行っていた?納豆スパゲッティが話題になり、食べたことがなかった正隆さんにユーミンがある日それを作ってきてくれ、帰りの車に持ち込んだ、
ところが、うっかり、タッパの中の納豆を車内にこぼしてしまい・・・
という内容の「中央フリーウエイ、本当の話」という連載第8回のもの。
その結末は、私には大爆笑モノだったのですが・・・もし将来単行本になったら読んでみてください。
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トヨトミの野望

2019年12月19日 | 本の感想
トヨトミの野望(梶山三郎 講談社)

フィクションとしてモデル小説を書く時、多少は勘ぐらないと誰が誰なのか、どのイベントがどの事件に当たるのか、わからないように(逆に言うと、ちょっと調べれば人物やイベントがある程度特定できるように)書くことが多いと思います。
その点、本書は人物や会社のモデルがあからさまで、名前も一字変えただけ(山田→山川みたいな感じ)みたいなのが大半で、すぐに誰をあるいは何をモデルにしているのかわかっちゃいます。
さらには、現役社長をクソミソにけなして、本書の主人公の武田(数代前の社長)をビジネスの神様のように褒め称えているのです。

冒頭のツカミは、武田の社長就任直後に若い頃の現社長(本作内では豊臣統一)が美人局に引っかかって反社の事務所に軟禁?されてしまう、という話。武田と御子柴(武田の次に社長になる人→この人も本作の中では「せいぜいが工場長くらいの能力しかない」みたいに酷評されている)が、事務所に乗り込んで救出する、という筋書きなのですが、さすがにこれは作り話ですよね??
でも、他の大部分が事実に近いので、この話も本当にあったのかも?と疑いたくなっちゃいます。

現社長の評価を高めたのは、アメリカでのリコール騒動を(アメリカ議会での公聴会出席もふくめ)際どく乗り越えたことだと思うのですが、このあたりは極めてあっさりとした描写になっています。

とにかく徹底してアンチ現社長が貫かれていて、総じて、講談社がこんなの出して大丈夫だったの?と心配になるくらいです。逆に言うと、ここまでコケにされても現社長がこの本を読んで微苦笑するくらいで、「殿、ご注進!」なんて言ってきた部下に「ほっとけ」というくらいだったら、(本作での設定と違って)本当は大物なのかもしれません。

続編は(未読です)小学館から出版されたので、大丈夫じゃなかったのかも?


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「マニュアル」をナメるな!

2019年12月15日 | 本の感想
「マニュアル」をナメるな! 中田亨 光文社新書

冒頭に「マニュアル作成 虎の巻」として次の9つが掲げられている。
① 全てを1ページ以内に収める。
② 手順を書く。ルール風には書かない。
③ 見本で示す。
④ 絵・図・写真のビジュアルを使う。
⑤ 指示を断言する。
⑥ 単文・肯定形・大和言葉で書く。
⑦ 工程の途中に味見(検証)のタイミングを入れる。
⑧ マニュアルの原稿を部外者や家族に下読みさせる。
⑨ 執筆者の氏名と、更新履歴を明記する。

私自身、マニュアルを書くことが仕事の一つなので、あまり目新しいものはない。
ただし、知っていることと実行できることの間には大きなギャップがあって、わかっていても徹底することはなかなか難しい。
例えば⑥の「大和言葉で書く」。「歩く」と書くべきで「歩行する」と書いてはいけない、という意味なのだが、実際に書いていると大和言葉でない方(「歩行する」)の方が使いやすい場合が非常に多いし、つい使ってしまう。

冒頭に虎の巻があるので、マニュアルの書き方を記述しているの(←大和言葉じゃないな)かと思ったが、実際にはTIPS集みたいな感じで、系統立ったまとめ方にはなっていなかったのが残念。
早見表形式にまで落とし込むことが大切、作業に意味付けをしないと単調な作業ほどミスを発生させやすい、といった点は、なるほど、と思わされた。

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