蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

桜ほうさら

2017年04月30日 | 本の感想
桜ほうさら(宮部みゆき PHP)

主人公の父は小藩の役人であったが収賄の疑いをかけられ自害する。美人で気が強い主人公の母は、才気あふれる長男(主人公の兄)にべったりで夫や主人公には冷たい。主人公は父の無実の証を求めて江戸で代書屋をすることになるが・・・という話。

宮部さんの作品に多くみられるテーマは「人の悪意とはなんだろうか?」ということだと思う。
登場人物のほとんどが(あまり現実にはいなさそうな)善良で正直な人たちなのに、事件の核心となる人物やその近辺に巣くう悪意のどす黒さ、底知れなさは、読んでい寒気を催すことが多い。

本作も、タイトル通り9割方、ほんわかとした「良い人」の物語なのに、最後に明かされる真相は、「そこまで行きますか、宮部さん」といいたくなくような、ある意味容赦のないものだった。
元から仲たがいしていた母や兄がああいう行動に出るのは理解できる。しかし本当の悪意を持っていたのは「良い人」の代表格だったようなあの人だったとは・・・。
ペテロの葬列」もそうだったけど、宮部さん、それはちょっとキツイよね。
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風神の門

2017年04月29日 | 本の感想
風神の門(司馬遼太郎 新潮文庫)

大坂城攻防の少し前、伊賀忍法の達人:霧隠才蔵は、豊臣方でリクルート活動をしていた女官:隠岐と知り合い、真田幸村に仕える甲賀忍者:猿飛佐助と連携して家康暗殺をもくろむが・・・という話。

数少ない未読(かつ有名な)司馬作品なので、なかなか読む踏ん切りがつかなかったのですが、「真田丸」の影響でついに読んでしまいました。(あまりに期待が大きかったせいか、内容には若干失望しましたが、新潮文庫で(下)の半ばあたりからかなり盛り上がりました)

最近ほとんど見かけなくなったけど、私の子供のころは忍者もののマンガやTVドラマ、映画がたくさんあって、伊賀、甲賀、風魔などと聞くと、懐かしさを覚えます。
特に「伊賀の影丸」を熱心に読んでいたので、服部半蔵率いる伊賀ものというと、徳川方というイメージが強かったです。
ために伊賀忍者:才蔵が家康暗殺にかかわるとなると、やや意外感があるし、家康を守っているのが風魔だとか、甲賀が真田方というのにも違和感がありました。風魔/甲賀というと悪者イメージが強い(これは「赤影」の影響?)ためです。
ただ、本書に登場する風魔の首領の名前=獅子王院はかっこよかったです。わりとあっけなく才蔵にやられていましたが。

本書における才蔵は、まるで島耕作のように女にモテまくりなのですが、どうもそういうモテシーンの描写に精彩を欠いているように思えました。
司馬さんは男同士の友情を描かせると天下一品だと思うのですが、思い起こしてみると、素敵な恋愛や一皮むけた女性が描かれた作品ってあまりなかったですね。
竜馬の妻おりょうさんなんか、「オレ(←司馬さん)、こいつキライ」というのが露骨にわかる描写になっていました。
司馬さん自身があまりモテなかったのかな??(失礼!)。文壇バーを渡り歩き・・・なんてイメージは全くないですしねえ。
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プラダを着た悪魔

2017年04月26日 | 映画の感想
プラダを着た悪魔

主人公(アンドレア=アン・ハサウェイ)は、ジャーナリスト志望だったが、ある雑誌の編集長秘書のアシスタントに応募したところ、合格する。この雑誌はファッション界を牛耳る「ランウェイ」で、編集長(ミランダ=メリル・ストリープ)は、センスの良さと編集力そして人使いの荒さで有名だった。案の定、主人公は理不尽な命令に振り回されるが・・・という話。

アン・ハサウェイ出演作品で初めて見たのは「インターステラ―」だったのですが、同作の彼女を見た時、各パーツがあまりに整いすぎた美形であるのにびっくりしました。それに比べると本作での彼女は「そこまでではないか・・・」(あくまで私の印象です)という感じだったけど、目の大きさが往年の少女マンガ並みだったのは記憶に刻まれました。多分、本作では「(秘書になった後)洗練されたものの、ざっくばらんな所は変わらなかった所は変わらなかった、というあたりが魅力的な女性」という設定なので、「インターステラー」での上品?な役柄とはちがう演技だったのでしょう。

本作はツタ●で借りたのですが、10年前の作品にもかかわらず、店の在庫5枚のうち4枚は貸出中でした。
と、いうことでも本作の人気ぶりがわかりますが、アン・ハサウェイに負けず劣らずメリル・ストリープが素晴らしくて、ハイセンスだけど鬼畜な編集長以外の何物でもない、と見えました。
彼女のキメ台詞、「ザッツオ~ル」という響きが見終わった後も脳内で響いているように思えます。
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アイアムアヒーロー

2017年04月25日 | 映画の感想
アイアムアヒーロー

突如として人間をゾンビ化させる熱病が流行しはじめる。
感染した人間(というかゾンビ)に噛まれると伝染するため、急速に蔓延する。マンガ家をめざすも夢かなわずはや中年の域にさしかかった主人公は、(趣味で所持していた)ショットガンを抱えて逃げ出し、感染しづらいという噂がある富士山をめざす・・・という話。

星の数ほど制作されているゾンビ映画の典型ともいえる(言い換えると陳腐な)筋立てだし、主人公役が大泉さんということで、コメディタッチの話なのかな、と思ったら、けっこうマジメ?に作られたパニック&ホラー映画で、主人公がゾンビ化した恋人に襲われる場面なんか、かなり怖かったし、最後まで面白く見られた。

有村さん演じる、半ゾンビ化(体はゾンビだけど心は人間?)した少女が重要な役割を果たすんだろうな、と思ってみていたら、ただ主人公に連れまわされるだけだったので拍子抜けした。(いかにも続編がありそうな終わり方だったので、続編で活躍するのかも)
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第2図書係補佐

2017年04月24日 | 本の感想
第2図書係補佐(又吉直樹 幻冬舎よしもと文庫)

高校生のころ、読書感想文のコンクールがあって、そこで入選しようと(確か開高健さんの本を読んで)作品背景などを調べ、同じ著者のほかの作品との比較なども交えて作文し(かなりの自信をもって)提出したことがありました。
ところが、私の感想文を読んだ国語の先生は、「文庫本の解説みたいやな~。読んでてあんまりおもしろくないよ」などとのたまうではありませんか。
私は「え?文庫本の解説みたいなのがいい感想文なのでは?」(当時は文庫本の解説は本職の評論家が書くことが多く本格的なものが多かったのです)と反論したら、その先生は「読んだ本から連想されるような、自分自身の独特の経験とかを真ん中にして書かないとな~。解説みたいな内容ばかりじゃ審査する人も退屈だよ」と。
今思うと納得できるのですが、当時はよく理解できませんでした。

本書は、著者の愛読書の紹介のような形式をとっていますが、作品の紹介は最後に数行あるのみで、ほとんどが著者の来歴・経験を語ったものです。
ルーツは沖縄で、大阪に育ち、高校はサッカーの名門で主力選手となるものの、高校を出ると上京して漫才師になり・・・といったあたりを(時系列はバラバラで)ならべられていました。
本書によると、TVで見る風貌そのものに、いろいろな苦悩や屈託を抱えた人生だったみたいですが、結果だけ見れば名門サッカー部で1年からレギュラー、漫才師として人気者になったと思ったら直木賞まで取っちゃうという、この上ない成功者(ある意味、ビジネスで成功して世界有数の大金持ちになった人よりビックな成功ですよね)なので、かなり内省的な本書の内容は、自伝じゃなくて小説だったりして。
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