蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

キャロル

2016年02月22日 | 映画の感想
キャロル

「オデッセイ」を見に行ったら混雑していたので、新聞の映画欄で本作が絶賛されていたのを思い出して見てみました。

1950年代のアメリカ。主人公のキャロル(ケイト・ブランシェット)は、子供へのクリスマス・プレゼントを買いに行ったデパートの店員:テレーズ(ルーニー・マーラー)と知り合う。
キャロルは実業家の夫と離婚協議中で娘の親権をめぐって争っている。
テレーズには求婚者がいるが、今一つ積極的にはなれない。
屈託を抱えた二人は長距離のドライブ旅行に出かけるが・・・という話。

えーと、前半は退屈で仕方なかったのですが、後半はキャロル、テレーズそれぞれの葛藤が情緒的に描かれてカタルシスもありました。

原作がハイスミス(新聞評によると原作はミステリではないそうですが)ということや、終始流れる不穏なイメージのBGMのせいもあって、全体にサスペンス風味でもあるのですが、何と言っても怖かったのはラストシーンのキャロルの表情。
ハッピーエンディングなはずなのに全くそういう感じはしなくて、可憐な蝶をその咢(あぎと)でがっちりつかみ取った絡新婦の笑み、のように見えて強く印象に残りました。
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さようなら、オレンジ

2016年02月20日 | 本の感想
さようなら、オレンジ(岩城けい 筑摩書房)

内戦のアフリカ?からオーストラリアに亡命?したサリマは、朝3時から始まる、量販店用に肉や魚を捌く仕事をしている。
初めのうちはきつかった仕事にも慣れて職場で表彰されるほどになるが、夫は逃げ出し長男もやがて夫の許へ行く。
次男といっしょに暮らし外国人用の英語学校に通ううち、日本人のサユリと知り合い・・・という話。

著者はオーストリアに長く暮らしたそうである。
おそらく作中のサユリと同じような経験をしたのだろう、と思わせるような印象的なエピソードがたくさんある。

サリマが英語学校で発音の練習のために毎日天気予報を音読させられる場面、

サユリと同じアパートに住む、ほとんど文盲の長距離トラック運転手のためにサユリが童話を読んであげる場面、

サリマが学校で子供たちに、つたない英語で行った自分の悲痛な経験を語るプレゼンが、案外力強く子供やその他の聴衆にアピールする場面・・・

いずれも母国でない所でくらす人にとっての外国語とは何なのか、
というテーマに結びついていくものだった。

サリマの、骨太など根性かあさん?ぶりが、ふやけた生活を送っている私にはイタかった。
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異国戦記

2016年02月20日 | 本の感想
異国戦記(岩井三四二 講談社)

日本側、元・高麗側の両方の人物が交互に登場して文永の役、弘安の役の戦いを描く。自分の活躍を絵巻物(絵詞)に残した肥後の御家人:竹崎季長が主人公。

元寇においては、戦術的には日本がやられ放題だった、というイメージを持っていたのですが、本書を読む限り、苦戦したのは文永の役の緒戦くらいで、日本側は一騎打ちなどの戦法が無意味であることをすぐに理解し、陸戦でも水戦でも押し気味だったようです。
(船での輸送のため)騎兵を持てず、高麗・旧宋の兵が中心だった元側は士気が低く、決戦のタイミングを逸し続けたように見えました。
というか、そもそも、防護壁など準備万端整えた戦力的にも十分な相手に対して敵前上陸というのはなかなか難しいですよね。

泰平の世を謳歌してきた後の江戸末期と違って、鎌倉幕府が存在してもしょっちゅう内戦が絶えなかったせいか鎌倉時代の武士は、たくましく、かつ、褒賞を目指すモチベーションは非常に高かったようで、季長はとにかく大将首を求めて一刻も早く最前線にたどりつこうとするのですが、様々な事情からなかなか叶わず、戦闘する前に悪戦苦闘する姿が多少滑稽でした。

季長といえば、元寇時も(文永の役の後の訴訟?に勝ったことも含め)かなり運が良かった人のようですが、自分の活躍を描かせた絵詞が何百年もされ続け、しかも発見されたというのは、とてつもない運の強さですね。
元寇期の日本人としては(一介の御家人にすぎないのに)執権:時宗に次いで有名な人といってもよいと思われます。「名をのこす」という当時誰もが望んだ名誉を独占している状態でしょうから、泉下の季長も(敵の船上で大将首をとった時以上に)喜んでいることでしょう。
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戦後経済史

2016年02月14日 | 本の感想
戦後経済史(野口悠紀雄 東洋経済)

「「超」集中法」の感想で、「野口さんの著書で、ですます調は珍しい」と書いたのですが、本書もですます調でした。ポリシーが変わったのでしょうか?

著者が言う「1940年体制史観」(戦争遂行のために整備された社会・経済の主要制度が戦後も生き残っていて、それが日本経済の方向性を決めた)に則って戦後経済史を開設した作品。著者の個人的体験と社会的なできごとが交互に綴られています。

(個人的な意見ですが)野口さんの著書では、本論ももちろんためになるのですが、それ以上にコラム形式の余談部分がより面白いことが多いです。(2回ほど著者の講演を聞いたことがあるのですが、やっぱり横道にそれた部分の方が面白かったです)

著者の作品の愛読者としては、「1940年体制史観」についてはやや聞き飽きた感があるせいもあり、本書でも経済史を語っている部分より個人的体験の部分の方が面白かったです。(もっとも、こちらも空襲の話とか田中角栄蔵相の話とか、すでに知っているエピソードも多かったのですが)

相当に頭がよさそうな著者が「宇宙人的に頭がいいと驚いた人」が二人(大蔵次官だった竹内道雄さん、イエール大学のハーバート・スカーフ教授)もいた、というのが印象に残りました。

いっそ、完全な自伝をだしてもらえないかな、とも思うのです。バレエ、旅行、映画、読書、IT遍歴などもふんだんに盛り込んだものをお願いできないでしょうか。全部ぶっこみが難しければ「「超」バレエ鑑賞法」「「超」映画鑑賞法」「「超」読書法」なんてどうでしょう。
あるいは日経の「私の履歴書」もいいなあ。ご本人のインタビューやエッセイが日経に登場することも多いのでそろそろ登場してもおかしくないと思います。
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GO

2016年02月13日 | 本の感想
GO(金城一紀 角川文庫)

在日朝鮮人(後に在日韓国人)である父親を持つ主人公は、在日朝鮮人の学校から普通の日本の高校へ入学する。
元ボクサーの父親に鍛えられた主人公はケンカに負けたことがない。
ちょっとしたきっかけで知り合った女の子に恋をするが、彼女の家族は在日コリアンに強い抵抗感を持つ人たちだった・・・という話。

主人公は、毎日ボクシングとギターの練習を欠かせず、学校の勉強とは関係ない小難しい本を読みふけり、(たぶん)イケメンでケンカ(というか暴力沙汰一般)に滅法強い。
・・・なんか、本宮ひろしさんのマンガの主人公みたいな完全無欠な男ですねえ。
主人公がカッコ良すぎて、並の書き方では(読む方が)しらけてしまいそうなんですが、爽快感とスピード感にあふれる文章で、あまり違和感なく物語にひたることができました。

最近、金城さんの(小説、エッセイの)新作を見かけない感じですが、こちら方面にも注力していただきたいなあ、あらためて思いました。
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