蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

誰も守ってくれない

2010年01月31日 | 映画の感想
誰も守ってくれない

女子高生である主人公(志田未来)の兄(引きこもり中)が殺人事件を起こす。
主人公の家には、殺到するマスコミから加害者家族を保護(実質は供述を得るための隔離)する名目で刑事たちが詰め掛ける。
不祥事を起こしてラインを外れつつある刑事(佐藤浩一)が主人公を連れて逃げ回る。その刑事の過去がやがて明らかになって・・・という話。

序盤の加害者家族保護の手続きをする部分がリアリティ高い(ように見える)。
家庭裁判所の係官が来て加害者の両親を離婚させすぐさま妻の旧姓で再婚される(姓を変えて追ってこれなくするため)あたりは、やや薀蓄くさいが緊迫感たっぷりだった。

後半、刑事が過去に引き起こした不祥事の被害者の経営するペンションに逃げ込むあたりから、間延びしたムードになって、主要登場人物のキャラの薄さ(例えば、佐々木蔵之介が演じる新聞記者って、佐々木さんが演じるんだから何かあるはずと思って見ていると、最後まで自分本位で薄っぺらなキャラで、ちょっとがっかりした)が気になるようになる。ラストも尻すぼみの感は否めない。
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スラムドッグ$ミリオネア

2010年01月24日 | 映画の感想
スラムドッグ$ミリオネア

インドのスラム街出身の主人公は、幼いころに暴動に巻き込まれて母を殺され、兄と、自分と同じ年頃の娘と共に様々な辛苦を経験しながら成長していく。
大人になった彼は、正解を続けると賞金額が増えていくテレビ番組に回答者として出演する。
そこで出題される問題は、不思議に彼の人生の節目で偶然取得した知識で答えられるものばかりだった・・・という話。

全般に明るい調子で、画面に映し出されるスラム街も妙に色彩豊かで、「絶望感」みたいなものが全面的には伝わってこないように配慮されていたように思った。

つらい思い出、苦しかった経験ほど、そこを通りすぎてしまった人には、それがつらければつらいほど、苦しければ苦しいほど、かえって甘やかな記憶としてよみがえるような気がする(もちろん、そうではない記憶もあるが)。
楽しかった記憶がかえって現在の不幸感を増幅するように。

主人公の人生経験は、誰も味わいたいとは思わないだろうが、生き抜いてきた本人にとっては、大きな誇りとなっているのだろう。
「塞翁が丙午」とでもいうのか、暗黒の半生は、誇りだけではなくて、さらに彼に大金と幼なじみの娘との再会をもたらした。そんな人生のアイロニーが映画の主題。

ところで、クイズ番組で出題される、最後の問題は、最高賞金額がかかった問題としては簡単すぎると思う。(観客にもわかるような問題にするという狙いなのかもしれないが)
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ジェネラル・ルージュの凱旋(映画)

2010年01月23日 | 映画の感想
ジェネラル・ルージュの凱旋(映画)

原作を読む前に見た。

ジェネラル・ルージュとあだ名される主人公の医師・速水(堺雅人)は、救命救急センター長。腕と意欲は余人に替えがたいほどだが、独善的な性格でセンター内のみならず病院全体からもこころよく思われていない。
彼の念願はドクターヘリの受入だったが、採算に合わないと病院から拒否されている。

病院の倫理審査会委員長・田口(竹内結子)のもとに、速水が出入りの医療器具業者と癒着しているとの密告状が届いたところから話が始まる。

前作「チームバチスタの栄光」に比べて、田口、白鳥(阿部寛)の出番がかなり減った感じで、全編、堺さんの独擅場。
圧倒的存在感で救命救急をめぐる医療制度の欠陥を訴える。

堺さんの演技は、殺人事件やドクターヘリ、さらには田口―白鳥コンビも添え物程度にしか思えないほどの迫力。

切羽詰った状況でも余裕ある態度を装い続けるニヒルな速水と、いつもシリアス、深刻な表情の看護師長(羽田美智子)とのロマンスはとってつけたみたいな感じだったが。
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一手千両

2010年01月19日 | 本の感想
一手千両(岩井三四二 文芸春秋)

江戸期、大阪堂島では、世界最初の組織的な先物取引(対象は米価)が行われていた。

仲買人(ブローカーだが、市場参加資格を持つディーラーでもある)の主人公は、友人の心中事件を殺人ではないかと疑い、仲間と捜査を開始する。やがて背後に買い方の大物がいることをつきとめるが・・・という話。

ミステリ風の味つけはしてあるが、ひねった筋とかトリックは全くなくて謎解きの興味はほとんどない。

本書の魅力は江戸期の先物市場のリアルな(私自身は知識がないので、そう思えるというべきだが)描写にあると思う。
証拠金制度、追証、自主規制機関、清算機関やSQに近い制度まであった堂島の先物制度は現代の取引所のデリバティブ取引とも遜色ないほどのもので、当時の相場用語の多くが現代でも使われている。

ただ、思うようにならない相場に対する主人公の心理描写は、類型的というか、ありきたり。
著者の作品を読んでいると、どの本でも著者のまじめな性格が文章ににじみでているような気がする(本当にそういう性格の人なのか知っているわけではない)。賭け事には縁がないような人が相場師の心境を想像するのは難しいことなのかもしれない。
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フィッシュストーリー

2010年01月17日 | 本の感想
フィッシュストーリー(伊坂幸太郎 新潮文庫)

デビュー直後からハードカバー版発行時の書下ろしまで、執筆時期が異なる4つの短編を収める。

デビュー直後に書かれた「動物園のエンジン」には、伊坂さんの作品の特徴といったものがかなり盛り込まれている。
不可能趣味的な謎、オカルティックな設定、叙述的なトリック、現実世界への危機感等々。また
、面白さととんでもなさが紙一重の感じは「オーデュポンの祈り」と共通のものがある。下手をすると編集者に相手にもされなさそうな作風なのに、才能を見抜いて、ややとんでもなさを減らした「ラッシュライフ」に繋げた新潮社の力はすごいと思う。

一番良かったのは、やはり、表題作の「フィッシュストーリー」。
時間と場所が異なるエピソードが最後に一本につながるという映画的手法は、正直いってあまり効果的だとは思えない。
しかし、主役の売れないロックバンドの最後の録音シーンは、分量は少ないが圧倒的な面白さがあった。
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