蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

八日目の蝉(映画)

2012年02月19日 | 映画の感想
八日目の蝉(映画)

原作を読む前に見た。

不倫から出来た子供を産めなかった主人公は、ほぼ同時期に正妻が出産していたことを知り衝動的にその子供を誘拐してしまう。
子供が5歳になるまで宗教団体やそこで知り合った女の関係先(小豆島)で子供を育て、つかの間の幸福感に浸るが、そうした生活が八日目にはいった蝉のようにいつ終わってもおかしくないことを知っていた・・・という話。

高い評判に違わず、見始めたら止められない緊迫感と感動があった。

主人公が追い詰められ、それゆえにわが子のように育ててきた子供との交流から生まれる刹那的なしあわせがビビットに感じられて、主人公と誘拐した子供が(警察によって)引き離されるシーンは泣かせるものがあった。

もしかしたら原作通りなのかもしれないが、実母がとてもひどい親として描かれいるのはちょっとあざとい感じもした。
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カラフル

2012年02月19日 | 本の感想
カラフル(森絵都 文春文庫)

自殺した中学生に乗り移って暮らすことを天使から命じられた魂が主人公。

なぜ中学生は自殺に追い込まれたのかを遡及的に解明していき、生きることの苦しみと喜びを描く。

テーマは明瞭で、この手の話としては筋も一直線でわかりやすいが、有体にいうと、それゆえに食い足りない感じ。想定読者は中学生なのだろうから仕方ないが。
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オジいサン

2012年02月19日 | 本の感想
オジいサン(京極夏彦 中央公論新社)

昔(今でもあるのかもしれないが)、実験小説という言葉があって、昔だと筒井康隆さんとかが代表だと思うけど、今だと円城塔さんの作品にような、観念先行とでもいうのか、読者をあまり意識しない著者の思考実験をそのまま文章にしたような小説を指していた。

本書は生涯独身で一人暮らしの老人の、何も起きない日常生活における思考のさまよいを延々と描いたもので、最後にもう一人の主要登場人物である電気屋の二代目との和解が訪れ、話の結構はできてはいるが、いわゆる実験小説的な作品で全体に読んでいて面白いものではなかった。

著者自身が老人という年齢ではなく、「老人になったら、こういう感じ方、思いがするのではないか」という推測に基づくものだと思う。
自分が年食って思うのは、身体に不都合(たとえば老眼になるとか)があって加齢を自覚するものの、思考というか、自分と世間の距離間というか、そういったもの(こころ、みたいなもの)は若い頃と全く変わらず、自分が老人になった(あるいはなりつつある)ことはあまり自覚(というか納得)できない。
そういった身体とこころの分離みたいな感覚の描写は何回か出てきて共感できた。
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夜明けのパトロール

2012年02月11日 | 本の感想
夜明けのパトロール(ドン・ウインズロウ 角川文庫)

サンディエゴ近くの海岸に暮らす主人公は、サーフィンに人生のほとんどを捧げながらも、時々私立探偵をしている。放火事件の重要証人であるストリッパーが失踪し、事件の担当弁護士から証人さがしを依頼される・・・という話。

ミステリとしても十分面白いのだけれど、サーフィンとそれを生活の中心にしている人達の魅力を語ることが本書のテーマになっている。

夜明けから海にのりだし、うまい朝食をいきつけの店で食べ、昼間はちょっと仕事して、夜は仲間とビールを飲む・・・そんな夢のような生活を送りながらも、いろいろな制約を課されることを嫌ってプロにはならず、それゆえ経済的には余裕がなく、かつてサーフィンの聖人のようにあがめられていた人も最後は無一文で惨めに死んでいったことを知っていて、将来に漠然とした不安を抱いている・・・というのが、本書で描かれる典型的なサーファーの姿だろうか。

軟弱そうな主人公が、いったん事件に巻き込まれると、カチカチのハードボイルドに変身して美しい女の子と難事件にいどみ、絶体絶命かと思われた危機を乗り越えて大団円を迎える、というパターンは毎度おなじみのウインズロウ節なんだけれど、面白いんだよね。

本書は新シリーズの第一弾とのことで、次の翻訳が早くも待ち遠しい。
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ヒアアフター

2012年02月11日 | 映画の感想
ヒアアフター

津波にのまれて臨死体験をしたフランス人の女性キャスター、
双子の兄を亡くし麻薬中毒の母とも離別させられたイギリス人の少年、
死者と対話できる特別な能力を持っているが、それを行使することによって人間関係が壊れることを繰り返した苦い経験から、その能力を発揮することを避けているアメリカの青年。この3人がロンドンのブックフェアで偶然接触し・・・という話。

ストーリーとしては平板で、オカルトといっても観客を怖がらせるような仕掛けもなく、淡々と映画は進むのだけれど、なぜか飽きないというか、目が離せないと感じさせてしまう静かな緊迫感みたいなものがあった。

あやしげとも言える題材をとりあげた地味な脚本でも、それなりに出来の良い映画に仕上げてしまう監督(イーストウッド)の力には感心するしかない。

マット・デイモン(霊媒師役)は、演技していると思えないほど役にぴったりハマっていた。
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