蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

貧者の戦争2

2022年04月29日 | Weblog
貧者の戦争2

前回期待?したような、マンシュタインのバックブロー的作戦によるものではないが、キエフ前面のロシア軍は撤退した。
主な要因は補給の難化にあるらしい。ロシア軍の補給拠点がどこにあるのかは多分(アメリカ等からの衛星情報により)丸見えなのだろう。
ウクライナ側に誘導弾やドローンによりピンポイントで破壊されたのではロシア軍としてはたまったものではない。
打撃力はなくても、情報さえあれば安価な兵器で大軍に十分に対抗できることが証明されたと言えそうだ。

「情報さえあれば」という前提が重要ではあるものの、現状では衛星やドローンのカメラからの監視を防ぐ方法はほぼ皆無なので、今回の戦争を見ていると、大規模な組織的軍行動は難しくなったのではないかと考えさせられる。地続きの国境でもそうなのだから、上陸作戦ならなおさら難度が上がりそうだ。上陸地点が明白では100対1くらいの兵力差でもないと成功はおぼつかない(と、アジアの大国が考えてくれるといいのだが)。

今般さらに衝撃的だったのは、黒海で大型巡洋艦(しかも艦名が首都の旗艦)がウクライナ自家製?のミサイルであっさり撃沈されたことだ。
そもそも対空援護の中心的存在の艦だったそうなのに、なんで自分すら守れなかったの?という疑問はあるが、超高価な兵器(空母とか)がたった1発のミサイルで無力化されるかもしれない、という(軍事大国にとっての)脅威が現実のものとなってしまった。

こうした状況を見ていると、相手の位置情報の把握の重要性が決定的に高まっていると考えざるを得ない。
一方で(繰り返しになるが)宇宙からやドローンなどの安価なセンシング手段を効果的に防ぐ方法はほぼないのが現状である。
つまり、索敵方法の高度化を維持しアピールすることが新たな抑止力になり得るのかもしれない。

しかしこうなるとミノフスキー粒子(※)みたいなものを開発しようと考える人もでてくるだろうなあ。

※ガンダムに登場する架空の物体。この粒子が十分に散布されていると電波による探知や通信が99%以上無効化されてしまう。これにより最前線でロボット同士が有視界で格闘することにリアリティが生じた???。
後には、巨大な宇宙戦艦が大気圏内で浮遊するという理不尽を説明する(反重力的効果も持つ)ための万能物質?に格上げされた。
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境遇(小説)

2022年04月22日 | 本の感想
境遇(湊かなえ 双葉文庫)

児童養護施設から幼い頃養子にいき、今は県会議員の妻である陽子は、友人でやはり養護施設出身の晴美の思い出話を絵本にして出版したところベストセラーになる。
陽子の息子が行方不明になり、夫の選挙事務所に脅迫状が届く。世間体を気にする事務所幹部は通報に反対する。陽子は新聞記者である晴美に相談するが・・・という話。

巻末に陽子が描いたベストセラーの絵本が収録される、という体裁なので、この絵本部分でドンデン返しがあるのかな?と期待したのだが、そうではなかった。

主要登場人物が養護施設出身で、タイトルが「境遇」なので、それが物語のキモになっているんだろうなあ、とも読む前に思ったのだが、これも特段なくてもいいような設定のストーリーなのもちょっと拍子抜け。
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子供はわかってあげない

2022年04月17日 | 映画の感想
子供はわかってあげない(映画)

朔田美波(上白石萌歌)は弱小水泳部の部員。大会など緊張する場面でも笑ってしまう癖を持っている。母(斉藤由貴)は再婚したが継父とはアニメファンという共通の趣味を持ち仲良くやっている。
謎のお守りが送られてきことから(新興宗教の元教祖?である)実父の藁谷(豊田悦司)の海辺の家を尋ねるが・・・という話。

夏の暑い時期に見るべき内容だと思うが、冬にみても夏休みの楽しい雰囲気を満喫できる映画。
別れ別れの実父はかつて新興宗教の教祖で他人の思考を読むことができる、という設定から想像されるようなドラマチックな、あるいはオカルティックな展開は全くない。人によっては退屈な映画なのかもしれないが、トヨエツ演じる父と古ぼけた家での夏の日々がとても愛おしく感じられる作品だと思う。
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16世紀「世界史」のはじまり

2022年04月15日 | 本の感想
16世紀「世界史」のはじまり(玉木俊明 文春新書)

筆者は、もともと16〜18世紀のバルト海貿易を専攻しているうち、近世ヨーロッパ最大の特徴は海運業が発展し、非ヨーロッパ世界に船で進出したことだと考えるようになったという。海上貿易ネットワークによるグローバル化が、当時最も貧しい文明世界であったヨーロッパを覇権国家群へと押し上げる要因になったと説く。

プロテスタントの台頭が、旧教側をしてキリスト教の海外布教に進出させた、というのは昔の歴史の教科書にも書かれていたが、

イエズス会のスポンサーがポルトガル王で、国王の指導のもとアジア貿易を推進したポルトガル商人たちの先兵役を果たした、

とか、イエズス会は武器製造や調達にも関わる死の商人的側面があった、

とか、相対的には貧困地域であったヨーロッパからアジア(特に中国)へ輸出できるモノはあまりなく、かわりに科学(地図、天文学や暦法)を「輸出」した、

などといった説は耳新しいものだった。

本書で盛んに強調されるのは、16世紀ころまで、中国やイスラム圏の方が経済的にも文化的にも豊かであってヨーロッパは貧困であった、ということ。
この点は、ヨーロッパ中心の「世界史」教育を受けていた私としては、感覚的にどうしても受け入れられない。
ギリシャやローマ以来、欧州=先進地域という図式が刷り込まれてしまっているせいだが、考えてみると古代や中世においても世界文明の中心地は中国やトルコだった期間が実際には長くて、欧州国家が覇権を握ったのは精々17世紀以降の200年くらいのものということになるのだろうか。
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空白(映画)

2022年04月10日 | 映画の感想
空白(映画)

漁師の添田充(古田新太)の娘の花音は、目立たず要領が悪くて学校で孤立していた。母(田畑智子)は離婚していて、父に相談しようにも取り付くシマがない。
花音は、近所のスーパーで化粧品を万引きしようとしているところを店長の青柳(松坂桃李)に咎められ、逃げ出したところを車にはねられて死亡する。
添田は事件の真相を明らかにしようと青柳に詰め寄るが・・・という話。

同じ監督の「犬猿」の時と同様、キャストが役にハマりすぎている。
モンスター的に(というほど偏執狂的なものでもなかったが)言いがかりをつける添田→古田
気弱そうで無抵抗ながら何か隠している雰囲気の若い店長→松坂
みたいな感じで。

もう少し、らしくない人をキャスティングした方が面白いと思うんだけど。

スーパーはワイドショーなどで盛んに批判され閉店を余儀なくされる、突然飛び出してきた花音をはねた女性は自殺する、花音は万引きの常習犯だったらしいことを添田は(遺品から)知る、
なのに、添田だけハッピーエンド的なラストになっているのも、見ている方としては面白くなかった。

添田の助手役の人(藤原季節)がよかった。
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