蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

オリーヴ・キタリッジ、ふたたび

2021年02月20日 | 本の感想
オリーヴ・キタリッジ、ふたたび(エリザベス・ストラウト 早川書房)

オリーヴは引退した数学教師。大柄でざくばらんな性格で、生徒にも近所の人にも、慕われることもあれば、嫌われることもあった。夫を病でなくしたあたりまでを描いた前作の続編で、ジャックという元大学教授と再婚する。

短編の連作集。オリーヴがほとんど登場しない「清掃」と「救われる」がよかった。

「清掃」は、8年生(中2くらい?)のケイリー・キャラハンが主人公で、バイトで知り合いの家を掃除している。その掃除中にその家の住人の男にのぞき見させることでお金をもらっている。しかし、この男は認知症だった、という話。

「救われる」は、父が死んで遺産相続手続きのために帰郷したスザンヌは、顧問弁護士のバーニーと話し合う。父は驚くほど多額の遺産を残していたが、精神を病んでいた母との関係に悩んでいたことを知る、という話。

オリーヴは本作で74歳から86歳になっているそうだが、朝は自分で運転して近所のカフェ?に行ってドーナツとコーヒーを朝食にするという習慣は変わらないようで、私はこの朝食の場面が好き。
本作では「詩人」にその場面がでてくる。合衆国の桂冠詩人に選ばれたかつての教え子と朝食中のカフェで会うという話なのだが、かみあわない会話がおもしろかった。

オリーヴが登場する話もそうでないものも共通するテーマは老いで、青春小説と呼び方はあっても老人小説というのは聞いたことがないが、超高齢化が進む日本ではジャンルが確立していくのかも?
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KGBの男

2021年02月20日 | 本の感想
KGBの男(ベン・マッキンタイア― 中央公論新社)

KGBのロンドン拠点長のゴルジエフスキーは、長年MI6に情報提供する二重スパイだった。アメリカの核先制攻撃を極度に恐れたアンドロポフ書記長時代のソ連政権の内情をイギリス経由でアメリカに伝えることで米ソの緊張緩和に貢献したという。CIAからの情報漏れで二重スパイであることがソ連に伝わり、MI6はかねて念入りに計画された脱出計画「ピムリコ」を発動して(モスクワに召喚されていた)ゴルジエフスキーをフィンランド経由で救出しようとする。

中盤までは叙述がちょっとくどくて間延びした感じだったが、ピムリコが発動したあたりから迫力満点になり、実話であるという裏付けもあってかへたなスパイ小説や映画より面白かった。というか、銃撃戦やアクションシーンがあるわけではないので映画化するとかえってつまらなくなってしまうかもしれない。
それにしても事実は小説よりも・・・というように、ピックアップ役のMI6職員が直前までソ連側の車に追跡されていた(待ち合わせポイント直前で辛くも振り切った)とか、フィンランド国境近くの待ち合わせポイントに早めに到着したゴルジエフスキーが(時間をつぶすため)ヒッチハイクして酒を飲みにいってしまうなんていうエピソードは、フィクションなら「ありえね~」という感じになってしまうところだ。

以下、印象が強かったエピソード

スターリンの大粛清の反省から、KGBを含むソ連の官僚世界では(独裁者が勝手にどんどん人殺しができないよう)法的手続きが重視されており、ゴルジエフスキーが二重スパイであることがばれてもなかなか処刑や収監に至らなかったのもそのせいらしい。

アンドロポフはマジでアメリカの核先制攻撃を心配していて、緊張が高まった時期にヨーロッパで軍事演習が行われた時は、(やられるより先に仕掛けようとして)開戦寸前というステータスにまで行ったこともあった。

イギリスの首相は夏季に女王の別荘に滞在することが慣例になっているが、女王と仲が悪かった?サッチャーはこのイベントが大嫌い。別荘といっても首相が滞在するのは小屋のような建物だったらしい。(どの首相もそうだったのか、サッチャーだけが冷遇されたのかは不明)
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ツベルクリンムーチョ

2021年02月20日 | 本の感想
ツベルクリンムーチョ(森博嗣 講談社文庫)

見開き2ページのエッセイが100個収録されたシリーズ。全編見開き2ページギリギリのほぼ同じ字数になっているところが森さんらしい。
時事問題はあまり取り上げないことがポリシーになっているが、本作では珍しくコロナのことが数多く取り上げられている。

コロナによる経済的窮迫で自殺者が増えるかと思ったら激減したという現象をとりあげて「学校へ行けない、友達に会えない、みんなで飲んで騒げない、などのストレスで自殺するような人間はいない、ということだ。そうではなく、学校にいかなければならない、友達と会わなければならない、みんなで飲んで騒がないといけない、というストレスで自殺する人間が、実は多い」

中国の巨大なコロナ専用病院が10日で建設されたと聞いて、プレハブで準備していたとしか思えない(森さんの専攻は建築分野)とし、何でも(委託先の)民間任せ、下請け任せの日本を嘆いている。

「ヴォイド・シェイパ」シリーズは10作を構想していたが、(売れ行きが悪くて)5作のシになった。→森さんレベル(の人気作家)でもこんな仕打ちがあるんだなあ。出版不況のせいだろう。シビアだ。
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競輪という世界

2021年02月11日 | 本の感想
競輪という世界(轡田隆史ほか 文春新書)

「ギャンブルレーサー」を愛読していた頃は、実際の競輪をよく見ていたけど、最近はグランプリを見るくらいになっていた。

2020年もグランプリしか見ていないのだが、このレースは、実に競輪らしい競輪で、ほぼ2周先行した脇本をマークした平原が、4角でまくってきた清水を派手にブロックした。脇本と平原は別地区で、前に踏めば悲願のグランプリ初制覇確実と思われた局面でブロックした平原に「競輪道を見た」という賞賛が集まった。
レース後のインタビュウでは「あれだけ長い距離を駆けてもらってゴール前だけ「いただきます」とはいかない」なんて主旨のことを言っていた。(もっとも、平原はマークを守るために競った場面もあり、実は千切れる寸前だったのでブロックにいった、という見方もあるが・・・)

そんな、競輪ならではのディープな挿話を期待して本書を読んだのだが、内容は入門者向けという感じだったので、ちょっとがっかりした。
面白かったのは6章の「地方と競輪」で草創期の競輪事業(誰でも登録すればレースに参加できて自分の自転車を持ち込んで競走した、とか、「ケイリン」ではなく「キョウリン」と読んでいた時期があった、とか)の話が興味深かった。
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一度死んでみた

2021年02月11日 | 映画の感想
一度死んでみた

製薬会社の社長の計(堤真一)は若返り薬を自ら先頭にたって開発していた。研究のためには家族を顧みなかったせいもあって娘の七瀬(広瀬すず)に蛇蝎のごとく嫌われていた。計は自社開発の2日間だけ死んでしまう薬をのんで仮死状態になってしまうが、会社乗っ取りを目論むライバル会社の手先であるコンサル(小澤征悦)は計を火葬にしてしまうおうとする・・・という話。

伏線はかなり念入りに張られていて、漏らさず回収されていくのだが、どうもそれが(私にとっては)笑いに直結していかない感じで、もどかしかった。

やっぱりコメディ向きではないのでは?と思えるキャストが多い中で、しっくりと役にはまっていたのは小澤さんで、考えてみるとこの人がシリアスな役柄を演じているのをあまり見たことがないような気がしてきた。
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