蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

慟哭の谷

2016年03月27日 | 本の感想
慟哭の谷(木村盛武 文春文庫)

アウトドアとは無縁の私ですが、なぜか昔からマタギものの物語が好きです。
最近はマンガの「ゴールデンカムイ」がとても面白く、続きが楽しみです。
その流れで本書も読んでみました。

本書で(「ゴールデンカムイ」でも)強調されているように、ヒグマはいったん仕留めた獲物に異常に執着するために、いったん出現した場所(獲物の食べ残しなどを埋めて置いたりする)に何度も繰り返し現れることが多いそうです。
本書で紹介されているヒグマの食害被害では、いったん人家を襲った後、襲われて亡くなった人の通夜を営んでいる家を再度襲い、妊婦を殺害して腹の中の子まで食べてしまいます。
まあ、ヒグマにしてみると嗜虐のためにそうしたわけではないのでしょうが、悪魔のような所業としかいいようがなく、さらに銃で武装した人間が束になってもさっぱり仕留めるとことができない上に、いつ、どこに出没するのか全く予想できないというのですから、被害地域の人々の恐怖は並の天災とは比較にならないものだったでしょう。

結局、このヒグマを仕留めたのはベテランの腕利きマタギだったそうですが、その部分の描写はとてもあっさりしていたのが残念でした。
この人の来歴やヒグマとの勝負?の場面をもう少し詳しく読んでみたいと思いました。

ということでこの事件を題材にした「羆嵐」を読んでみようと思います。
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飼い喰い 三匹の豚とわたし

2016年03月27日 | 本の感想
飼い喰い 三匹の豚とわたし(内澤旬子 岩波書店)

世界各地の屠畜の様子をルポしたノンフィクションで有名な著者が自ら豚を肥育して食べてみることを思い立ち、千葉県に借りた一軒家で豚3匹を1年近く飼って精肉にして食べるまでの経緯を描いた作品。
本書によると養豚家は豚に名前をつけることは決してしないそうである。名前をつければ愛情がわきやすくなり、別れが辛くなるためだ。
これに反して著者は、3匹の飼い豚に夢、秀、伸という名前をつけて育てた。案の定、3匹に対して親愛の情がわき、食肉市場へ持ち込むことが決まってから1匹だけでも残して寿命まで飼おうかなどと迷いが生じる。

イラストが挿入されていることもあり、読んでいるだけでも3匹の豚がかわいいと思えてしまうほどなので、経済的にも肉体的にも大きな負担を感じつつ大きく育てた著者の気持ちはよく理解できた。
結局、当初の計画通り、3匹は精肉になってしまったのだが、著者は3匹の肉を自ら食べることで3匹と本当に一体化したような気分が味わえたという。(以下、P277から引用)

***
「噛みしめた瞬間、肉汁と脂が口腔に広がる。驚くほど軽くて甘い脂の味が、口から身体全体に伝わったその時、私の中に、胸に鼻をこすりつけて甘えてきた三頭が現れた。彼らと戯れた時の、甘やかな気持がそのまま身体の中に沁み広がる。
帰ってきてくれた。
夢も秀も伸も、殺して肉にして、それでこの世からいなくなったのではない。私のところに戻って来てくれた。今、三頭は私の中にちゃんといる。これからもずっと一緒だ。たとえ肉が消化されて排便しようが、私が死ぬまで私の中にずっと一緒にいてくれる。」
***

本書を読んで意外に思ったこと
・飼育した豚の屠畜は法定された場所でしか行えない。一方、野生のイノシシを捕まえてつぶすの任意の場所で可能。
・豚舎の床のおがくずを厚く敷き詰めて糞尿処理をさせる方法がある。豚がおがくずをかき回すことで浄化が進み、ほとんどにおわなくなる。
・オスの豚の性器は細長くてバネのようにらせん状になっている。
・豚はかがみこんでいる人にマウンティングしたりする。適当な高さの台があれば喜んで?マウンティングする。
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滝を見にいく

2016年03月27日 | 映画の感想
滝を見にいく

名所の滝を見た後、温泉に行くというバスツアーに参加した中年の女性たちが、滝を見に行く途中で山道に迷ってしまい・・・という話。

キツツキと雨」がとても気に入ったので、本作も見てみた。
主なキャストが全員素人?(少なくとも名前を知っている役者はいなかった)という(商業映画としては)かなり挑戦的?な方法で作られた作品。

登場人物たちの対立、葛藤、融和、そこから生まれた団結、みたいな典型的な展開で「キツツキと雨」とよく似たものだし、キャストも(狙い通り?)素人ならではの自然な?演技でそれなりに楽しめるのだけれど、やっぱり、興業としてはどうなのよ?という感じ。

結局、見ている方も(毎日のように映画を見ている評論家のような人ではなく)素人なので、「出ている人はみんな素人です」と言われると、なんか損した気持になるんですよね・・・(私が見たのはレンタルDVDなので、えらそうなことは言えませんが・・・)
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木暮荘物語

2016年03月27日 | 本の感想
木暮荘物語(三浦しをん 祥伝社)

麻布の近くの古い小暮荘は、今にも崩れ落ちそうな古いアパート。その住民たちを描く短編集。
と書くと、ほのぼのした日常にふと生じた小さな奇蹟を描く感動作・・・みたいに思えるのだが、実際は(著者らしい)妄想と煩悩に満ちた問題作?だった。

3年ぶりに海外から戻ってきた元カレと現在のカレとの三角関係にあってもあまり悩んだりしない花屋の店員、
男をとっかえひっかえしてボロアパートに引き込む女子大生、
家族と離れて一人暮らしで七十過ぎなのに日々セックスしたいと熱望する大家、
駅の柱に生えた陰茎に似たキノコが気になってしようがないドッグトリマー(これは木暮荘の住人じゃなかったかな??)、
5年も風呂に入れてないので汚れて色が変わってしまった大家の飼い犬、
女子大生の部屋を天井の節穴から除くのが生きがいのサラリーマン、
以上が木暮荘住人で、この他に花屋の経営者夫婦の浮気話もある。
登場人物を書いてみるだけで怪しい雰囲気が漂ってくる。

本書のような、著者も少々あやうい人なのではないか?と疑念を抱かせる(失礼!)作品が著者の本領であり、昔からの(特に妄想系エッセイが好きな)読者としては、駅伝や辞書編集や林業などを描いたベストセラーにおいて著者は猫をかぶっているに違いない、などと思うのであった。
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ソウルメイト

2016年03月26日 | 本の感想
ソウルメイト(馳星周  集英社)

いろいろな種類の犬と飼い主との関係性を描いた短編集。

数年前から犬を(人生初めて)飼っている。なつけばかわいいのだけど、自分の子供と同じくらいかというと、さほどでもない。しかし、世の中には子や孫よりも多くの遺産を犬に送ったりする人もいるそうだから人それぞれなのだと思う。
本書に登場する飼い主は家族との折り合いがイマイチでまさに飼い犬がソウルメイトになっているのだけど、私にはなかなかその気持ちは理解できなかった。
馳さんの作品というと暗黒小説のイメージが強いのだけど、本作はそんな味わいはまったくなく、甘味たっぷりという感じだった。
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