蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

超「超」整理法

2008年10月28日 | 本の感想
超「超」整理法(野口悠紀雄 講談社)

過去、このブログでも何度か書きましたが、野口さんの「超○○法」シリーズの実用書は、大半の読者にとっては実用的ではなかったのではないかと思います。

野口さんが書くノウハウは、野口さんのような方(研究・著述業で、会社のような組織に属さず、データ収集や蓄積、あるいは日程管理を個人ベースでやらないといけないような人)にのみ有効だったと思います。

例えば、シリーズの最初の「「超」整理法」で提案された、A4袋(押出し)ファイリングのノウハウは、方法論としては素晴らしいと思うのですが、普通の会社なら、仕事に関する情報の整理は組織的に行われており、個人では整理するほどの量の情報を抱え込んでいないのが実情ではないでしょうか。

実用書としての本書の要点は、すべての情報を自分あてのGmailに送ることで整理は不要になる。ラベリングを工夫すればさらによい、というもので、(申し訳ないけれど)わざわざ一冊の本で主張するほどのことではないような気もします。

本書(あるいはシリーズ)を魅力的にしているのは、むしろ、後半部分で展開される、将来に対する野口さんの考え方でしょう(もっとも、私のような野口本の愛読者からすると、他の本ですでに見た内容が多いのですが)。
さらに「眠れる森の美女」などを話題にしたコラムも相変わらず充実しています。(ただし、本書のコラムは、シリーズの他の本に比べるとやや切れ味が落ちているような気がしました。野口教授の(専門分野以外の)豊富なトピックもついにネタ切れなんでしょうか)。
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翔竜雷撃隊 

2008年10月23日 | 本の感想
翔竜雷撃隊 (谷甲州 中公CNOVELS)

今度も前刊から長々と待たされた、覇者の戦塵シリーズの最新刊。

本シリーズは、1冊のボリュームが少ない(200ページ前後)ということもあって、数巻ずつがまとまってエピソードが完成していく形になっていることが多く、「電子兵器奪取」「空中雷撃」と本作が一つのグループになって、日本軍による誘導爆弾開発が語られる。

今回のエピソードは、地味さが売り物の本シリーズの中でもとびっきりの地味さ(ほとんど架空戦史ものとは思えない内容)だった。

本作は貯めこんだエネルギーを放つように戦闘シーンが目白押し。といっても、戦うのは艦名さえない駆潜艇と潜水艦一隻のみ。他の架空戦記ものを読みなれた人には信じられないかもしれない。しかしこの戦闘シーンはリアリティと迫力に満ちていて読みがいがあった。

本書は、わずか数人の日本兵が敵の偵察員を追う話から始まり、偵察員に補給に来た潜水艦との戦闘→撃沈された潜水艦のサルベージ→(機密満載の潜水艦を)サルベージさせるものかと米機動部隊が空襲のため出動→陽動にひっかかりかけた日本軍がぎりぎりのところで空母を補足し誘導爆弾を発射、というストーリーになっている。このようなエスカレーションが非常に納得性の高い形で展開されていて、あたかもバタフライ効果の一例のような鮮やかさがあった。

と、いうことで1年以上待たされた甲斐があったというものだが、次はいつ出るのだろう。あとがきで著者が「もうネタ切れ」という趣旨のことを言っているのが気になる。
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プロ野球の一流たち

2008年10月13日 | 本の感想
プロ野球の一流たち(二宮清純 講談社現代新書)

プロ野球選手・監督へのインタビューを中心に、戦術論、技術論をまとめたもの。
素人にもよくわかる表現になっていて、楽しく読み進められる。

特に印象に残ったのは、

①配球のコツは内角球の使い方にあり(野村)

②長嶋は何も考えず来た球を打っていた(稲尾)→反対に、稲尾の方はいろいろと考えていたようだ。最近みたNHKの「その時歴史が動いた」では、長嶋に打ち込まれた稲尾が、長嶋の微細なクセを発見して以後抑えることができた、というエピソードが紹介されていた。

③野村監督は、選手が失敗の理由を理詰めで説明できれば何もいわない(山崎)

④ピッチャーは縦回転(野茂とか)か軸回転(桑田とか)のどちらかに分類できる(工藤)

⑤荒木は古田のサインに応えて抜群のフォークを投げたが、それは試合で初めて投げたフォークだった(古田)
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秀吉神話をくつがえす

2008年10月12日 | 本の感想
秀吉神話をくつがえす(藤田達生 講談社新書)

本書でいう秀吉神話というのは、「徒手空拳の身からの献身的奉公による出世、偉大な改革者・平和主義者そして勤皇家としての成功」ということである。

前段は確かにそういうイメージが世間で固まっていると思うけど、後段については、(学者の世界ではそうなのかもしれないが、世間的には)そういう風に思っている人はあまりいないんじゃないかと思う。
晩年の秀吉には、秀次や朝鮮遠征にまつわる暗いエピソードがまとわりついていて、陰惨な印象しかない。
少なくとも「平和主義者」と思われていることはない。

家康の公家社会に対する態度と比較すれば、その権威を利用しようとしたのだろうけれど、「勤皇家」というイメージも全くない。

かと言って、前段部分について、それをくつがえすような論考はほとんどない。

本書の主要部分は、本能寺の変の原因の考察についやされており、秀吉がなぜ中国大返しに成功したのか、については、ただ驚異的な諜報能力があった(らしい)と、言うのみだった。
このようなことから本書の書名は「看板に偽りあり」だと、私は思った。

ところで、秀吉は、なぜ即座に中国大返しをすぐ決断できたのかは、確かに不思議だ。
万一誤報や謀略で信長が健在だったら、大軍を率いて都に戻った秀吉はただではすまなかっただろう。
確信を持って一目散に戻れたのは、事前に光秀と通じていたのか、あるいは、信長が生きていても戦力の空白地域である京洛でなら謀反に成功できると思っていたのか・・・。

なんて妄想から様々な謀略説が生まれるのだろうが、実際は、当時の人間の足による情報伝達の信頼性が、現代から考えるよりはるかに高かったのだろう。
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中国株投資の王道

2008年10月11日 | 本の感想
中国株投資の王道(バートン・マルキール 日本経済新聞社)

もう10年以上前になるでしょうか、同じ著者の「ウォール街のランダムウォーク」を読みました。平易な解説で株価形成の理論が記述されており、「アメリカの投資入門書のレベルは高い(というより良心的)」と、当時の日本で出版されていた星占い程度のレベルの相場関係の書籍を読み飽きていた者には、非常な新鮮さを感じさせました。

「ウォール街のランダムウォーク」の結論自体は、「インデックスファンドを買いなさい」および「ディスカウント状態のクローズドエンドファンドを買いなさい」というもので、まあ、それだけ見るとありきたりでした。

本書の結論も、実は上記の通り(中国の国内上場株を買いたい場合には、(効率性が落ちるので)アクティブファンドを買え、と言っている以外は)でした。そういう意味では、相場を当てたいと思っている人には肩透かしかもしれません。

ただ、その結論に至るまでの中国経済や市場環境のトップダウンによる観察が、とても丁寧で、やはり、好感が持てるものです。というか、あまりにもカンカンの強気で「バートン先生、何があったんですか」と聞きたくなるくらい。

小平の「南巡講和」が、現在の中国経済の隆盛に大きな影響があった、という指摘が何箇所かでてきて印象的でした。
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