蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

櫛引道守

2015年09月29日 | 本の感想
櫛引道守(くしひきちもり)(木内昇 集英社)

江戸末期、木曽の山中の宿場町:藪原の櫛引職人の娘:登瀬が主人公。登瀬の父親は知る人ぞ知る櫛引の名人。登瀬は子供の頃から父の技術に憧れ、櫛引の手伝いをする。父も娘の才能を見出して櫛の問屋が紹介した縁談を断ってまで櫛引の修行をさせる。もう一人、父の技量にほれ込んだ男:実幸も父に弟子入りする。実幸は登瀬以上に櫛引の天分があり、かつ商才もあって世渡り上手。そんな実幸に登瀬は職人としての嫉妬を燃やすが、実幸の方は登瀬を嫁にもらいたいと言い出す・・・という話に、登瀬と、登瀬の弟の友人:源次との恋の話が絡む。

田舎の櫛引職人一家の話という極めて地味な題材なのに、家族の形というメインテーマに、職人気質、技の伝承、淡い恋さらには幕末の政治情勢までからめて、読み始めたら本を置くことができないほど、面白かった。この上ないハッピーエンドで終わるラストも、不自然さがなく気分よく読み終えることができた。

1年に1回くらい「小説っていいなあ」と思える本があるが、本作はまさにそれ。

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氷海のウラヌス

2015年09月26日 | 本の感想
氷海のウラヌス(赤城毅 祥伝社)

対ソ戦を1941年中に集結させられず、ヒトラーは背後(英米が反撃してくる)が気になっていた。そこで、アメリカを牽制するために日米開戦を実現したかった。
一方、日本海軍の開戦派の将校はドイツに対米開戦を迫るための切り札として日本の秘密兵器:酸素魚雷をヒトラーに提供しようとしていた。その運搬手段として、ドイツの(砕氷艦を改造した)仮装巡洋艦ウラヌスを使い、北極海を突破させようとした。

酸素魚雷(航跡がほとんど残らず緒戦においては零戦と並んで日本軍の勝利に大いに貢献した)は確かに秘密兵器といえるものだが、それでドイツが根本的な大戦略を変更するほどのものかというと、とてもそうとは思えないし、運搬手段として仮装巡洋艦1隻で北極海を突っ切ろうというのも・・・ということで、設定に相当に無理はあるが、この手の小説でそれを言うのは野暮というものだろう。
海戦シーンは迫力あるし、日本軍人とドイツ軍人に友情?めいたものが芽生える流れに不自然さはあまりないので、楽しく読み終えることができた。

今更ながらに思ったのは、1941年12月の開戦ってやっぱりヒトラーにうまいこと乗せられた結果なのかも??ということだった。
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レインツリーの国

2015年09月26日 | 本の感想
レインツリーの国(有川浩 新潮文庫)

著者の作品は2冊しか読んだことがない。
どうも(個人的趣味として)題名がイマイチのような気がするせいだと思う。

そのなかで本書の題名はとても良いなと思っていたら、たまたま娘が読み終わった文庫本があったので読んでみた。
う~ん・・・夏休みの課題図書みたいな内容だなあ、という感じ。

主題となっている事柄は、本書指摘の通り、私自身意識したことがなく、「なるほど、そういう風に困るのだなあ」とは思ったが、エンタメ小説(ですよね?)として見ると、どうなんだろ?といったところ。
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絵を描く日常

2015年09月19日 | 本の感想
絵を描く日常(玉村豊男 東京書籍)

旅の雑学ノートシリーズの頃から著者のエッセイが好きだったが、最近はあまり新刊をみかけなくなったような気がしていた。
葡萄を栽培してワイナリーを経営しているらしい、とは聞いていたが、画家としても活躍しているとは知らなった。

本書に掲載されている作品の写真を見ると(芸能人とかが余技に描くようなものとは全く違う)プロっぽい雰囲気があった。

子供の頃に描いた絵(日記)も掲載されていて、この絵が(技術的な意味ではなくてモノの捉え方として)バツグンにうまく、「大人になって描いた植物画よりこっちの方がいいのでは」と思えるほどだった。父親が高名な画家だそうで、血は争えないということか。

西高→東大→世界中を旅して美味しいものを食べる→エッセイを書いたらベストセラー→グルメの趣味が高じてワイナリーを経営→画家としてもデビュー・・・・なんて華麗な経歴、とため息がでるし、嫉妬を感じるが、
本書では、病を得て活発な活動ができなくなり、飲酒を制限されて、仕方なく昔好きだった絵を描き始める経緯が詳しく書かれており、「ああ、こんなカッコいい人生を過ごす玉村さんさえ様々な屈託があったのだなな」などと、そのあたりだけは共感できた。
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さざなみ軍記 ・ジョン万次郎漂流記

2015年09月06日 | 本の感想
さざなみ軍記 ・ジョン万次郎漂流記(井伏鱒二 新潮文庫)

「さざなみ軍記」は、平家が都落ちして瀬戸内海沿岸で戦う様子を架空の青年武者の目を通して描く。題名にひかれて読んでみたが、期待したものとは違った感じ。結末が尻切れトンボだったのも残念だった。

「ジョン万次郎漂流記」は、題名通り、万次郎の一生をコンパクトにまとめたもので、特に前半の漂流してアメリカの捕鯨船に救出されるあたりまでがよかった。当時アメリカの捕鯨船(帆走)は母港を出て3年間も世界各地で捕鯨をすることもあったというのを初めて知った。なるほど、それなら日本を寄港地として開拓したいというのもよく理解できる。もっともそれだけクジラをとっても利用するのは鯨油だけだったようで、それだけ当時は鯨油というのが貴重な資源であったのだろう。
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