蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

君の名は。

2016年10月17日 | 映画の感想
君の名は。

新海監督の過去の作品はだいたい見ています。
いずれも叙情的なムードが強く、ストーリー展開はとてもゆっくりなので、今回のようなメジャー級作品ではどうかな?
なんて思っていましたが、本作では、登場人物が考えこんじゃうようなシーンや風景描写が続く場面はあまりなく、スピード感にあふれた展開となっていました。

一方で、光彩あふれる風景や特徴ある鉄道の描写(本作では特にドアの開閉のシーンが印象的)などの特徴は過去の作品のままでした。

見終わった後も、ここまですごいブームになった要因はよく理解できませんでした。
いや、内容が悪いとかじゃなくて、(前述のようにメジャー向けの演出をしたとしても)やや説明不足の設定や時間軸を行ったり来たりする筋書は、やはり万人向けとは言えず、ある程度お客さんを選ぶものなんじゃないかな、と思えたからです。

いや、
理解しずらい展開で、お涙頂戴的な場面がなく、子供にウケるようなところはなく、恋愛ものやパニックものとしてみるとインパクトが弱い、終盤はややアンチクライマックス・・・
こうした、「売らんかな」的な作りをわざと否定しているような内容に、かえって新鮮さを感じた人が多いのかもしれません。

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羊と鋼の森

2016年10月17日 | 本の感想
羊と鋼の森(宮下奈都 文芸春秋)

主人公の外村は、高校時代に学校のピアノの調律に訪れた調律師(板鳥)の腕前に魅せられ、専門学校に入って、板鳥の所属する楽器店に就職する。板鳥のような調律師を目指すが、現実は厳しくて・・・という話。

あとがきを読むと、著者は長年ピアノを続けてきた人のようで、音楽に親しみがあるようだ。著者にとって、音楽とは森のようなもので、その森にはいれば、俗界の悩み事からも解放されるようなイメージを持っているのではないかと思えた。

タイトルの「羊」はピアノのハンマーがウール製である(初めて知った)ことから、「鋼」はピアノの弦が鋼線であることから来ている。
なので、「羊と鋼の森」というのは「ピアノ演奏による音楽の豊かさ」くらいの意味だろうか。

ところが、私は音楽については歌うのも演奏するのも極度に苦手(いわゆる音痴)だし、歌や曲を聴いても、その良さが理解できることはめったにない。そのせいか、著者が作り上げる「森」のイメージに共感することが難しくて、有体に言うと、あまり面白いとは思えなかった。
あと、主人公の外村のキャラクター設定やそれを補強するエピソードが淡泊すぎた(ひきこもり?の青年の家にいって、弾き込んでいるいるのに手入れされていないピアノを修理するエピソードはよかったが・・・)のも一因だろうか。
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神の棘

2016年10月09日 | 本の感想
神の棘(須賀しのぶ 早川書房)

ヒトラー全盛期の頃、SSにあってカトリック教会弾圧で頭角をあらわしたアルベルトは、女優の妻とともにスパイの疑いをかけられ左遷され、アインザッツグルッペン(戦線の後方にあってユダヤ人虐殺やパルチザン撲滅に特化したSSの部隊)に配属される。ここでも能力を発揮するが、やがてイタリア戦線の最前線部隊に転属となり、モンテカッシーノなどの激戦地を転々とする。戦後、裁判にかけられ、死刑を言い渡される。
アルベルトの生涯を、幼なじみのマティアス(カトリック教会の修道士・司祭)の行動とからませながら描く。

紹介文に「歴史ロマン巨編」とあるが、その通り、久しぶりに「歴史ロマン」を読んだなあ、と思えるような、重量感もリアリティも波瀾万丈のストーリーも兼ね備えた、文字通り骨太な物語。読書の楽しみを満喫できる傑作だった。むしろ、本作がさほと評価されているとは思えないのが残念(本作を読むきっかけになったのは文庫本のランキング本での紹介だった)。

冷酷非情な殺人マシーン的組織として有名なアインザッツグルッペンの兵士も、多くのユダヤ人を連日銃殺して埋めるという作業には非常なストレスを感じており、定期的な交代が必要で、前線視察に訪れたヒムラーすら、一連の「作業」を見て嘔吐した(このため、ガス室など機械的に処理できる設備が検討されたという。なお、史実かどうかは不明)、というエピソードが印象に残った。
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ハドソン川の奇跡

2016年10月04日 | 映画の感想
ハドソン川の奇跡

2009年1月にニューヨークで離陸直後のバードストライクにより全エンジンが停止した旅客機が、機長(サレンバーガー(愛称サリー)=トムハンクス)の優れた判断と操縦によりハドソン川に不時着水し、その後の適切な避難指示により全員が生還した事件を描く。

離陸から着水までの場面を何度かに分けて描くことで、ずっと緊張感が途切れない。
サリーが感じた事故に対するショック(墜落するシーンのフラッシュバックが繰り返し起こる)とリアルな苦悩(もしかして自分は間違った判断をしたのか?その場合クビになるがそれでは経済的に困る)が短いシーンの積み重ねで上手に表現され、終盤の事故調査委員会の公聴会シーンでは逆転のカタルシスもあり、上映時間が2時間に満たないとは思えない濃さを持ちながら、誰にも理解しやすい内容を併せ持つ、何度も見てみたいと思わせる作品だった。

毎度のことながら、イーストウッド監督の力量(本作では特に編集)はすごいなあ、と思わされた。あえて言えば、航空機の飛翔シーンは少々ニセモノっぽかったかなあ?
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テニスプロはつらいよ

2016年10月02日 | 本の感想
テニスプロはつらいよ(井山夏生 光文社新書)

日経夕刊の書評欄で褒められていてので、読んでみました。
さほど期待していなかったのですが、とても面白かったです。

関口周一という錦織選手とほぼ同年代(錦織の2歳下)のプロテニスプレーヤーの子供時代から現在までの経歴を描いたものです。
私はテニスについてはほとんど知識がないですし、技術的には無知なのですが、本書ではスポーツとしてのテニスにはあまり触れず、プロになる道のり、プロのランキングシステム、プロの経済状況などについて説明しています。(それでどこが面白いの?という向きもあると思いますが、著者の語り口が軽妙で楽しく読み進められます)

直近1年間の試合の結果のみが反映されるランキングが選手にとってはすべてで、おおよそランク100位にはいっていないと4大大会には事実上出場できず、それは同時にプロとして生計をたてていくのが難しいことを意味するそうです。
たまに錦織選手が出ている大会のTV中継をみたりしますが、相手がランキング50位以下だったりすると、「あ~楽勝だな」なんて思ってしまうのですが、実はランク100位に入るのは至難の業で、関口選手もその厚い壁に阻まれ続けています。

関口選手はジュニアの頃は世界ランク4位までいったことがあって、錦織選手並の期待の選手だったようですが、ここ一番の大事な試合に勝てないことが続いているそうです。それでも日本選手ではベスト10に入っているのですが、テニスだけでは暮らしていくのが難しいようです。
本書の中で、日本選手権を4度も制覇したプロ(それでも世界ランクは100位にいかなかった)が、自分の知名度が(プロ野球選手等に比べて)非常に低いことを嘆いている場面があるのですが、考えてみれば(錦織選手のように)世界のトップクラスにいけば大金持ちになれるテニスはまだいい方で、大半のスポーツは、たとえ世界有数のレベルにまで達してもスポーツだけで生きていくことは難しいのが現実ですよね。

本書を読んで、競技としてのテニスにも興味がわいてきて、(下位大会である)フューチャーズなどを見に行ってみようなんて思いました。(テニス雑誌の編集長だった著者の思うつぼですな)
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