蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

ユダヤ警官同盟

2010年05月30日 | 本の感想
ユダヤ警官同盟(マイケル・シェイボン 新潮文庫)

イスラエルの建国に失敗し、世界中に離散することとなったユダヤ人の居留区の一つアラスカのシトカ。アメリカへの返還が間近にせまったシトカで起こった、かつて救世主に擬せられた青年の殺人事件を追うユダヤ人刑事を描く。

「高い城の男」を思わせる設定で、謎解きの要素はほとんどなく、ミステリというよりSF。

現実とは異なる歴史の設定の説明は、物語の中で少しずつ行われる(第二次大戦後ユダヤ人が中東から駆逐されたとか、満州国が存続しているとか、シトカは数百万人もの人口を抱え携帯電話などの産業が盛んであるとか・・ほのめかし程度で詳しい説明があるわけではない)ので、「この世界はどうなっているのか?」といった点でも興味をひく。

刑事に対する描写は粘着性を感じるほど濃密で、物語の中の時間の経過は恐ろしくゆっくり。
みずからのプライドだけを根拠に事件を追い続ける刑事の姿は、ハードボイルド調ではある。
ただ、作者は文学畑(?)らしいので凝った表現、迂遠な展開が好きなのかもしれないが、正直いって、上巻の終わりあたりから読み進むのに苦労した。(各種のランキングで上位に位置したのは、「難解だが、海外では売れているらしいから、まあいい点つけとくか」みたいな評者が多かったせいでは?と邪推したくなるほど)

このように、凝った設定や描写のわりに、物語の結末は妙に楽天的な、あっけらかん、と言っていいほどのハッピーエンディングなのもちょっと違和感がある。

と、けなしたが、そういった気に入らない点はあるものの、全体としては、読み終わった後もう一度読みたくなる、という私自身の良書の基準には十分あてはまる内容でだった。

文庫本のオビによるとコーエン兄弟監督で映画化されるらしい。物語の雰囲気が件の監督の作品にぴったりという感じなので、とても楽しみ。
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つばさよつばさ

2010年05月23日 | 本の感想
つばさよつばさ(浅田次郎 小学館文庫)

航空機の機内誌に連載された旅行エッセイ。

浅田さんの小説が好きだけれど、最初に読んだ著作はエッセイ集の「勇気凛々ルリの色」で、著者の自衛隊時代やいわゆる燻り時期の思い出話がとても面白かった。
当時はまだ大家といえるほどのステイタスはなくて、週刊誌連載だった一編一編がとても丁寧に書かれていた印象が強い。

人気作家としての地位を確立した後は、多忙になってエッセイの質がガタッと落ちる人が多いように思うが、本書は(若干その気配がないではないが)全体に一定のクオリティを維持していて楽しく時を過ごせる。

また、本書は、誰もがうらやむ「旅先作家」として、うら若い語学堪能な編集者をガイド役に引き連れて世界各地の名所を訪れてはうまいものを食うという、読者がジェラシーを感じてしまいそうな主題なのだが、適度に失敗談や著者のドメスティックぶり(?)を織り交ぜて、そういった不快感がわくのをうまく回避しているのも、読者へのサービス精神を感じさせる。
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トーマスのリアリティ

2010年05月15日 | Weblog
トーマスのリアリティ

「きかんしゃトーマス」という、イギリス製の人形(?)アニメ番組があります。
蒸気機関車の前面が人間の顔になっていて、しかも顔色(?)がとても悪い(灰色)ので、昔は「気味悪いなー 趣味悪いなー」と思っていました。

子供ができて、しかも鉄道好きの子になったので、この番組を四六時見るようになり、私も見るともなく見ているうちに、意外とアニメとして魅力的であることに気づきました。

人形アニメなので、実際にミニチュアモデルを作って撮影しているのですが、簡素な作りのモデルなのに、イギリス風機関車のムードが上手に表現されていています。
これは省略やデフォルメがうまいせいでしょう。戦車や飛行機のプラモデルは、実物を縮尺通りに正確にモデルにしても本物らしくならないそうで、省略や、それらしく見せるための意識的な改変が必須だそうで、その辺がモデル作家(原型師)の腕のみせどころなのだそうです。
風景は、機関車本体とは逆に、細かいところまでしっかり作りこまれていて、よくできた鉄道模型を撮影したもののような出来栄えです。

一見、(機関車に人間の顔がくっついているという)子供だまし風なのに、良く見ると、作者の仕組んだリアリティが浮かび上がり、大人の観賞にも耐えられる出来になっている・・・このへんがイギリス的なセンスというところなのでしょう。
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ベンジャミン・バトン

2010年05月08日 | 映画の感想
ベンジャミン・バトン

バトンは、生まれたとき、見かけが老人のようで、父親はその醜い容貌に驚いて、バトンを老人ホームの前に捨てる。バトンは老人ホームの介護人の子として育てられる。
子供になっても見かけは老人のままだったが、歳をとるごとに見かけは若々しくなっていった。バトンは戦争や恋愛を経験しつつ、どんどん若くなっていく・・・という話。

成長するにしたがって若くなっていくという不条理に対する葛藤はほとんど見られず、バトンは奇妙な人生を何の疑問もなく受入れ、唯々諾々と日々を送っているようにしか見えない。

それなりに盛り上げようという筋もあるにはあるのだけれど、映画全体がやたらと長いせいもあって、カタルシスがないというか、焦点ボケというか、メイクアップ技術を見せたかっただけの映画のように思えてしまった。
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おっぱいバレー

2010年05月05日 | 映画の感想
おっぱいバレー

田舎の中学校に異動してきた美人女教師(綾瀬はるか)が、男子バレー部の顧問になる。
このバレー部は実質的な活動はまったくしておらず、そもそも部員が5人しかいない。
その部員はまったくやる気がなく、彼らの興味はスケベ方面のみ。
美人女教師が顧問になって風向きがかわり、「試合に勝ったらおっぱい見せて」という約束をとりつけたことで、俄然やる気がわいて・・・という話。実話をもとにしているらしい。

綾瀬はるかって、少し前まではコケティシュ系美人かなーと思っていたのだけれど、最近は堂々の正統派美女ってイメージを確立。化粧品メーカーのポスターなんて本当にきれいだなと思う。

ただ、この映画では、(本当にスリムなせいなのか)線が細い感じがして美貌がスクリーンに映えてない感じがした。
筋書き通りに破綻なくまとめられているけど、映画としての魅力はいま一つかなあ、といったところ。
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