蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

シムソンズ

2006年11月27日 | 映画の感想
シムソンズ

北海道の小さな町に実在した女子カーリングチームをモデルにした映画。平凡な高校生たちが、能力はあるが嫌われ者のエースと複雑な過去を持つコーチに導かれてスポーツを通して成長していく姿を描く・・・と書くと「ありがち」「ワンパターン」という言葉が思い浮かびますが、この映画はありがちなパターンから一歩も踏み出すことなく、忠実にその路線をなぞって作られています。

だからといって決してつまらないというわけではなくて、シムソンズの四人の演技も、素人っぽいけど、見ている方が恥ずかしくなってくるほど(TVドラマだと、時々そういう場面がありますよね・・・)ひどいものではないし、(プロレスラーの人の演技は少々恥ずかしかったケド)破綻なくまとめられた、誰が見てもそれなりに楽しめる作品になっていると思います。

トリノオリンピックでは、女子カーリングは予選敗退にもかかわらず、選手のビジュアルが受けたのか、他の競技がさっぱりだったせいか、TVや新聞で数多く取り上げられました。しかし、大会が終わると、選手は(CMに出たりはしましたが)あっさり北国での普通の生活に戻ったようで、好感を抱きました。

空が青くて、海がきれいで、道路はどこまでもまっすぐで、その道路の両脇は美しい緑に覆われて・・・この映画で描かれていた北海道の小さな町(常呂町)は、画面だけ見ていたら理想郷ともいえる場所(冬はそうでもないんでしょうが)で、そこで生まれて育まれれば、あんなさわやかな人が出来上がるのかも、と納得できたように思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第三の時効

2006年11月26日 | 本の感想
第三の時効(横山秀夫 集英社文庫)

F県警の強行犯捜査一課は3班に分かれていて、現在の班長はいずれも優秀であるが、功名争いが激しく、いがみあっている。
本書はこの捜査一課に属する刑事たちを描く連作短編集。各編で主人公が異なり、それぞれの班長が交代で主役になったり脇役になったりする。

それぞれの班長のキャラクタが、簡潔かつ明確に表現されていて、どの短編もスムーズに物語世界に入っていける。簡潔な描写、説明でありながら、けっこう複雑な人間関係や事件の背景を読者に納得させてしまう技術は新聞記者の経歴で養われたものだろうか。
ただ、ミステリとしての中心ネタは少々強引というか、非現実的。特に表題作(第三の時効)は「まあ、理屈ではそうかもしれんが、ありえんわな」という感じがした。
一方「密室の抜け穴」は、トリックは平凡だが、物語の筋に必然性があり、刑事の心理描写が秀逸で、意外性もあり、最も楽しめた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

読売新聞朝刊一面コラム「編集手帳」第9・10集

2006年11月23日 | 本の感想
読売新聞朝刊一面コラム「編集手帳」第9・10集(竹内政明 中公新書ラクレ)

昔、生保のセールス(いわゆる○○生命のオバチャンの類の人)が職場への立ち入りを許可されていた頃、時々、その日の主要全国紙の朝刊のコラム(朝日の「天声人語」みたいなの)を並べて印刷した紙を配っていたことがあった。
読み比べて見ると面白かった。特に大事件があって話題が一致した時、各コラムニストの料理の仕方の違いが興味深かった。今ではセールスの立入は禁止されてこの紙を見ることはできないが、インターネットで各紙のコラムを読むことができるようになった。

何年か前までは、産経の「産経抄」がクビ差くらいで他紙をリードしている様子だったが、ここ数年は読売の「編集手帳」が二馬身は差をつけて独走している感じ。
この本はその「編集手帳」を収録して新書。9集、10集の中で私が一番気に入ったものの一部を引用させていただく。

(第10集 P30~31 2006.1.24)
明治期に来日した米国の動物学者、エドワード・モースに、日本人の少女ふたりを連れて東京の夜店を散策したときの回想がある。
少女は日本で雇い入れた料理人の子供とその友だちで、10歳くらいである。十銭ずつ小遣いを与え、何に使うのだろうと興味をもって眺めていた。
ふたりは、道端に座って三味線を弾いている物乞いの女に歩み寄ると、地べたのザルにおのおの一銭を置いた。みずからも貧しい身なりをした少女たちの振る舞いを、モースは「日本その日その日」(東洋文庫)に書き留めている。(中略)
江戸の風儀を残す明治の初め、少女たちが施した一銭にも、不運にして日の当たらぬ者に寄せた慈しみのまなざしが感じられる。勝敗は運ではない、個人の才能よ--と驕れる当節の自称「勝ち組」には、無縁のまなざしであろう。(後略)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

夜のピクニック

2006年11月19日 | 本の感想
夜のピクニック(恩田陸 新潮文庫)

高三の主人公の通う高校では、年に一回、全生徒が徹夜で80キロを踏破する行事がある。主人公には、ある同級生との間に「大きな秘密」があり、その秘密に絡んである決意をしてこの行事に望んだのだが・・・という話。
恩田さんの作品であることや「夜のピクニック」というタイトルから、ホラーの味付けの青春小説かと思ったら、怖い話なトリッキーな仕掛けは全くなかった。

本書は第2回本屋大賞に選出された大ベストセラー。(余談だが、本屋大賞って、「埋もれた傑作を書店員が掘り起こそう」みたいな趣旨だったと思うのだが、2回、3回とすでに堂々のベストセラーになっていた本が選ばれているのはどうなんだろう)映画化され、文庫本もヒット・・・という本なのだが、申し訳ないけれど、私には全く面白くなかった。

高校生同士の会話が不自然ではなかろうか。もう30年近く前になる私の高校時代でもこんな歯の浮くような上品な会話はなかった。現実の高校生って、今も昔もこんなに無邪気で単純で公明正大だとは思えない。むしろ自分と周囲の両方への不満とイライラで爆発しそうなのが普通で、そのために会話だって途切れがちでこの小説のようにひとつの話題が長々と繰り返されることはないと思う。
いくら特殊なシチュエーションであっても、こんなに何でもあけっぴろげに心を開くなんてありえない(と私は思う)。

それとも、そんなありえない「理想的な」高校生活の話をファンタジーとして読むのが、正しい本書の読み方なのだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

自民党を壊した男

2006年11月18日 | 本の感想
自民党を壊した男(読売新聞社政治部 新潮社)

この本が出版されたのは2005年春。
2005.9.11.の衆院選における自民党の歴史的大勝の前に書かれたもので、公明党との連立、選挙でのもたれあいや政策プロセスの変更のために崩壊していく自民党の政治支配を描く。

この本を買ったのは出版直後だったのだが、今頃になって読んだのは、買ったまま押入れに積み上げていたから。

「自民党を壊した男」というのは、もちろん、小泉元総理だが、この本を読むと、その「壊した男」の政権も、回天の9.11選挙がなければ崩壊寸前であったことがうかがわれる。
陰謀史観的に言われる「小泉は郵政法案の否決を切望していたのではないか」という話もあながち否定できないかなあ、と思った。

出版後の選挙の大勝で、自民党は崩壊どころか(公明党を加えると)衆院で2/3を占めるというかつてないオールマイティともいえる権力を持った。
しかし、大勝の原動力となった小泉総理はその権力の行使に極めて慎重で、選挙後、重要な決定は(郵政民営化を除き)ほとんどなされなかった。あまり強引なことをやれば、過半数スレスレの参院選が心配だし、「強引なこと」をやろうとして公明党にソッポを向かれるのも懸念される。郵政民営化という大願を成就させたとあって、脱力していただけかもしれないが。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする