蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

エリジウム

2013年10月23日 | 映画の感想
エリジウム

22世紀中葉の地球は居住環境が極端に悪化しており、一握りの富裕層は、スペースコロニー・エリジウムを大気圏外に浮かべ独立国家化?して、そこで生活している。
エリジウムでは、万能の医療・若返り?マシンがあり、傷病に苦しむ地球上の住民はエリジウムへ不法侵入してその万能マシンで治療しようとする。不法侵入を仲介する闇業者もあるが、エリジウムの防衛長官?(ジョディ・フォスター)は躊躇なく侵入宇宙船を撃破する。
主人公のマックス(マット・デイモン)は、かつては腕利きの盗賊だったが、今は真面目な工場労働者(なぜ改心したかは不明)。しかし、工場で不注意から致死量の有害光線?を浴びて余命5日を宣告される。マックスはエリジウムで治療しようと闇業者を訪ねるが・・・という話。

ブロムカンプ監督の前作「第9地区」は、期待水準をはるかに上回る出来だったが、本作は(逆に期待が高すぎたせいか)それほどでもなかったな、というのが正直なところ。
「第9地区」は、(SFという前提を置いても)設定にかなり無理があったが、そこをお笑いタッチで覆って不自然さを中和させ、かつ、テーマはけっこうハードというアンバランスさに魅力があったと思う。

本作も設定は相当にハチャメチャなのだが、ハリウッドの大スターをキャストにしているのでオフザケ的な脚色は許されなかったのか、ストーリーとか全体の雰囲気が、何というか、ごく普通のSF映画になってしまっている(そのせいで、矛盾だらけの設定にツッコミたくなってしまう)。
特に、マット・デイモンは、「真面目な人の役柄」という印象が強すぎて、おかしみとか軽みがまったく感じられず、この監督とは合わないのではないか?なんて思えた。

それでも、敵役のクルーガーについては、地球表面から手持ちのランチャーで打ち上げたミサイルで不法侵入の宇宙船を撃墜したり、サムライ的扮装だったり、最後の決闘場面では桜吹雪みたいなのが舞ったりするなど、コメディっぽい場面が目についた。出演条件?みたいなのが厳しくない俳優については、なんとか脱線?させようという監督の抵抗?みたいなものを感じた。
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福家警部補の挨拶

2013年10月20日 | 本の感想
福家警部補の挨拶(大倉祟裕 創元推理文庫)

刑事コロンボのオマージュを意図した完全倒叙形式のミステリ短編集。
コロンボとの関わりを紹介している解説「倒叙ミステリへの遥かな思い」がとてもいい。

著者や私と同年代(現在40代後半~50代くらい)のうちそこそこの数が、コロンボのノベライズを読んだことをきっかけにしてミステリファンになったのではないだろうか。そしてその年代が少し前までの日本におけるミステリブームを作ってきたと思われる、と考えるとコロンボこそ、日本ミステリ小説界の大恩人だといえるだろう。

私が育った家は、あまりテレビを見ない(子供にも見せない)ところだったので、コロンボの番組はほとんど見たことがないのだが、運よく、お金持ちの開業医の息子が同級生にいて、この子がコロンボのノベライズを全巻買ってもらっていたので、そのすべてを借りて読むことができた。
いやー、子供だったせいもあって印象が強烈すぎて、あれほどインパクトがあって次の本が読みたくてしかたなくなって、借りられたらその日のうち中に読んでしまうなんてミステリは、あれ以来出会ったことがない。


本書は、そのコロンボ的倒叙形式を忠実になぞっていて、その昔の興奮を呼び覚ましてくれた。惜しむらくは、(徹夜続きなど、フロスト刑事も多少意識したと思われる)福家警部補のキャラがほとんど描かれないことだろうか。
次巻では、シリーズもこなれてきて警部補の秘密みたいな部分を明かしてもらいたいなあ、と思った。
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書くことについて

2013年10月20日 | 本の感想
書くことについて(スティーブン・キング 小学館文庫)

前半1/3くらいが自叙伝で、残りが基本的な文章読本や小説作法といった感じの本。

面白いのは自叙伝部分で、私のように、キングの作品は数えるほどした読んだことがなくて、その人となりについてもほとんど知識のない者にとってはとても興味深い内容だった。

出世作である「キャリー」のペーパーバック化の版権が40万ドル(著者の取り分20万ドル)で売れた時(当時の20万ドルは現代日本でいうと1億円くらいか??)、著者はさえない学校の国語教師でトレーラーハウスに住む境涯だったので、望外の高値に狂喜する。その喜び度合いが衒いなく書かれた部分、
「ミザリー」など代表作ともいえるいくつかの作品を書いている当時、著者はアル中、ヤク中で(飲むものがないと(刺激を求めて?)洗口液まで飲んだというのがリアル)あったと告白した部分、
などが特に興味深かった。

私のような不熱心な読者であっても、どうも、その、アル中、ヤク中であった頃の作品の方が今より数段よかったよな・・・最近のはただ長いだけで・・・なんて感じられてしまう。クリエイティブであるためには、やはり、ある種のトリップ状態が必要ということなのだろうか。
それにしても、アメリカでは(大昔の話とはいえ)「コカイン中毒でした」と堂々と告白しても、案外平気?なもんなんですね。

文章読本部分で面白いな、と思ったのは、英語であっても表現したいことをダイレクトに言葉に表す(例えば、悲しいときに「悲しい」という言葉を使ってしまうこと)ことは避けるべきであって、会話や地の文から書いている人がいいたいこと(悲しい)が自然とたちのぼってくるような文章がよいのである、と、著者が言っていることだった。
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サイパン邀撃戦(中)

2013年10月13日 | 本の感想
サイパン邀撃戦(中)(谷甲州 中公Cノベル)

サイパン攻略を狙うアメリカ軍の輸送船団を待ち伏せするイ号潜水艦とサイパンの防衛部隊の戦いを交互に描く。例によって、魚雷が発射されるまで、ロタ砲(対戦車兵器)が発射されるまでの決定的場面までが長い。

海兵隊(日本の方)の蓮見大佐が仕掛け(サイパン島の高地に誘導ミサイルの発射基地?を設ける)をしたのはもうかなり昔(物語の時間の中ではそうたいした期間ではないけれど)のような気がするが、やっと下巻で活躍しそうな感じ。もっとも、今までの流れでいくとミサイルが発射されるまでに相当な手間?がかかりそうで、戦果もあったのかなかったのかようわからんみたいな結末になりそう。

始まってから延々30年近いと思われる覇者の戦塵シリーズ。いつもこんな感じだし、失礼ながら文章は読みづらい。なのに新刊が出ると買ってしまうのは、逆に、前述したような、冗長な前ふり、普通の戦史シミュレーションのような一方的、カタルシス的結末がないことに妙な魅力があるせいだろう。
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犬と歩けば

2013年10月12日 | 本の感想
犬と歩けば(出久根達郎 新潮社)

著者は、ビッキという名前の小型犬を長年飼っていたが、病気のために、夏の盛り、著者が講演旅行に行っている間に死んでしまう。
病気の治療のため、著者の奥さんは(高齢のため体力的にきついのだが)日に何度も獣医のもとへ犬を抱えて通う。
獣医は人(飼い主)によっては安楽死を薦めたりするらしいが、もちろん著者夫妻にはそんなことは思いもしない。

私も1年前くらいから、人生初めて犬を飼ったのだが、犬って飼ってみると子供っていうか、家族になってしまうというのが実感としてわかった。なので、飼い犬を少しでも長生きさせようと多大な苦労をいとわない著者夫妻の気持ちも相当程度に理解できた。

でも、ビッキが死んで1年もしないうちに、著者夫妻は次の犬を飼うことになる。うーん、やっぱり、どれだけ愛していても犬って「愛玩」動物なんだよなあ。

犬の話ではないが、後半には夏目漱石の手紙の話が良く出てくる。漱石は非常にたくさんの肉筆の手紙を残しているそうだが、新発見のものは相当な(金銭的)価値があるそうだ。特に、宛先が子規のものだったりするとてても高価になるというのがおかしかった。
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