蛙と蝸牛

本の感想。ときどき競艇の話。

フラッタ・リンツ・ライフ

2007年01月31日 | 本の感想
フラッタ・リンツ・ライフ(森博嗣 中央公論新社)

SF空戦記 スカイクロラシリーズの4冊目。このシリーズはパイロットの適性を高めるべく改造された「キルドレ」という人々が主人公。
その改造ゆえにか、空戦以外に生きがいを感じられなくなってしまい、そのことについて悩んだり、ふっきれて空を飛び戦うことに没頭するする姿を描いています。

空戦場面の描写に特長があり、瞬間的な判断が求められる状況が効果的に表現されています。

私は森さんのエッセイと日記は大好きで、公表されているものはほとんどすべて読んでいます。一方、小説の方は、S&Mシリーズを3冊読んでみましたが、どうしても面白いとは思えませんでした。
しかし、スカイクロラシリーズは4冊とも楽しめました。その理由をまとめると次のようになります。

①架空のレシプロ機(ストーリーの中ではまだジェットエンジンは実用化されていない)のメカニックや操縦法にリアリティを感じさせる。
②「キルドレ」達のストイックな生活ぶりがカッコイイ。
③タイトル、装丁が魅力的。

③は、スカイクロラシリーズ以外のシリーズにも共通していえることで、タイトルは書店で見ただけで手にとってみたくなる気を起こさせるようなものが多いと思います。また装丁は作家の力量とは関係ないのでしょうが、どれも素敵で、文庫版のVシリーズが特に良いです。
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ウェザーマン

2007年01月29日 | 映画の感想
高名な小説家を父に持ち、シカゴのTV局でお天気キャスターを勤める主人公は、自分も文壇へデビューしようと創作にはげんでいるが、なかなか認められない。

妻と別居中(別居の引き金になった事件は、近くの雑貨店でタルタルソースを買いに行くことを妻から頼まれた主人公が何度も繰り返し頼まれたのに忘れてしまったこと。主人公は道々「タルタルソース、タルタルソース」と小声でつぶやきながら歩くが、通りかかったグラマラスな女性の姿を見たりしているうちに、忘れてしまう。この忘れてしまうプロセスが、「いかにも」と思えるようにうまく映像+音声表現されていて可笑しかった)で、太りすぎの娘は学校でいじめられ、息子は神経症のリハビリ中。その上、父はガンに冒されている。
八方ふさがりな状況なのだが、仕事はとても順調で、全国ネットの放送局からスカウトされる。

いわゆるハリウッド映画は商業主義の権化で、「ライバルを蹴落として、抜け目なくがっぽり儲ける」というビジネスとか資本主義の論理に沿って製作されているのに、その内容は製作のポリシーとは正反対に、「カネ勘定より人情や信頼の方が大切」「ビジネスばかりが人生じゃない」というものばかりだ、と、いった主旨のことを、糸井重里さんがだいぶ前に言っていた。
この映画はこの矛盾を見事に再現していると思う。ニコラス・ケイジ、マイケル・ケインというハリウッドを代表するような役者を揃えたメジャー映画でありながら、訴えていることは「仕事がうまくいっているだけ、金儲けがうまくいっているだけでは、人は満たされない」ということだと思う。
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あなたに不利な証拠として

2007年01月16日 | 本の感想
あなたに不利な証拠として (ローリー・リン・ドラモンド ハヤカワミステリ)

アメリカ南部のルイジアナ州の警察に勤める女性警官の話。複数の警官の話が少しずつの関連性をもって語られるが、基本的には独立した短編集。

「このミス」の海外部門一位だが、ミステリというよりドキュメンタリータッチの小説で、事件そのものより、警官特有の苦悩を繊細かつ執拗に心理描写しているので、文学っぽい作品になっていると思う。

著者は警官であった経歴を持っているそうで、リアリティは抜群に感じられるが、少々くどい感じがした。

アメリカの警官・巡査って(特に南部では)いいかげんで怠慢なのかと思っていたけれど、この小説に書かれていることがある程度事実に即しているとすれば、モラルやモチベーションがかなり高くて、テクニカル面から見てもかなり高いレベルにあるということになる。
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プロデューサーズ

2007年01月14日 | 映画の感想
ミュージカル映画は好きではなくて、あまり見ないのですが、人からすすめられて見てみました。

会計士の主人公(マシュー・ブロデリック)は、出資金を募った後すぐ打ち切りになるミュージカルを作れば、出資金を詐取できる、というアイディアを思いつき、顧問先のプロデューサー(ネイサン・レイン)に持ちかける。二人はどうみても最低(ナチス賛美の内容)ミュージカルを作り上演するが、なぜか大うけしてしまい、悪事が露見し・・・という内容。

マシュー・ブロデリック太ったなあ(役作りじゃないですよね・・・)、ネイサン・レインは川平慈英に似てるなあ、くらいが見て思ったことで、やっぱりミュージカル映画を見慣れないと独特の間とかルールについていけないなあ、と感じました。
ユマ・サーマンが出ているところだけはじっくり見たんだけれど・・・(北欧出身のバ○女という役に実によくフィットしていました)
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中原の虹

2007年01月13日 | 本の感想
中原の虹(一・二)浅田次郎 講談社

およそ10年前「蒼穹の昴」を読んだ時、(多少あざといところもあるけれど)これまでに読んだ本の中で一、二を争うほどの面白さだと感じた。
それまで浅田さんの作品はプリズンホテルシリーズしか読んだことがなく、アウトロー世界の体験談みたいなのを書く人なのかなーくらいのイメージを持っていたのだが、この本を読んでガラリと印象が変わった。そして、「蒼穹の昴」以降、本当のメジャー作家になったような気がする。
浅田さんは「蒼穹の昴」で直木賞が取れなかった時、激しく落ち込んだそうだが、むべなるかな、と思う。「鉄道員」も確かにいい小説なのだろうけど、「蒼穹の昴」に比べたら、スケールとか注がれたエネルギィの量とかにあまりに差がありすぎた。

(「珍妃の井戸」は外伝っぽいので)10年待って続編がついに刊行されたわけだが、いきなり「中原の虹」を読まず、「蒼穹の昴」をもう一度読んでから「中原の虹」にとりかかることにした。

「蒼穹の昴」は、今読んでも、再読であっても、色あせることなく、読むことの幸福をしみじみと味あわせてくれた。

「光緒十三年の状元」という言葉(科挙で首席となった人の呼名で、主要登場人物:梁文秀のこと)には今回も「カッコイイ」と思えたし、最初に読んだときに最も印象的だった革命分子:譚嗣同の処刑場面には今回も泣けた。毛沢東が出現する場面は、(そうと知っていても)「おお!」と声がでそうになった。

さて、幸せな気分で「蒼穹の昴」を読み終えて「中原の虹」にとりかかった。
北京を中心とした話から、満州と北京の場面が交互に現れるようになる。北京側の主役は相変わらず西太后だが、満州側は張作霖が主人公となり、二巻では西太后が死去するまでが語られる。

期待があまりにも大きすぎたせいだろうか「蒼穹の昴」に比べると、物語全体から感じられる緊迫感とか香り高さみたいなものが多少落ちているような気はした。
それでも、各章をそれぞれ独立させても十分に面白い小説になりそうだし、「中原の虹」から読んでも全く違和感なく楽しめると思う。
三巻以降では梁文秀をもっと活躍させてほしいが、今は日本にいるので無理かな~。もしかして「中原の虹」のさらに続編での主人公になるのだろうか??
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