転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



岡山シンフォニーホールで、ヴァレンティーナ・リシッツァを聴いてきた。
リオール・シャンバダール指揮のベルリン交響楽団との共演で、
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番『皇帝』。

南斗の女・リシッツァの音は、予想以上にエッジが効いていたが、
反面、私がCDから想像していたのより些か線が細いように感じられた。
私は重量感のある厚い音のほうが好きなので、その点にやや不満が残ったが、
もしかしたら今回はホールや席のほうにも原因があったかもしれない。
リシッツァのリズム感は良くも悪くも極めてシャープで、
『皇帝』にこんなフレーズがあったのか、
と新鮮に聞こえた箇所がいくつもあった。
並外れて反射神経の優れたピアニスト、という印象を受けた。

リシッツァは、深紅のベアトップドレスに金髪が映えてとても華やかで、
ステージ袖から笑顔で小走りに出てきたり、
(宝塚の娘役のように!)サっと膝を曲げてお辞儀したり、
両手を顔の高さ以上に上げてオケのメンバーに幾度も拍手したりして、
実に陽気で愛らしい感じのするステージマナーだった。

拍手に応えてアンコールでショパンの『革命』と『黒鍵』を弾いてくれた。
この二曲に関しては、技巧的には達人級だったと思うのだが、
私の感覚では、音の質に対して彼女の弾き方は速すぎるという気がした。
ある程度以上のものを内包した音を味わうには、
私のようなトロい(笑)聴き手には、もう少し時間が必要だったのに、
一瞬で流されて、見事さには畏れ入ったものの、欲求不満が残った。
例えて言うなら、一粒一粒に異なる色合いを持つ宝石が、
大量に、次々と目にも止まらぬ速さで通り過ぎて行くことが繰り返され、
結果、ただのネオンの洪水にしか見えなかった、
というふうな勿体なさがあった。
演奏者のスピードについて行けていないのだとすると、
リシッツァは依然として若く、一方、私は既に老化しているということか(爆)。
次回はできればソロ・リサイタルで、更に様々な曲を通して、
じっくりと彼女を聴いてみたいと思った。

オケは、シャンバダール指揮のベルリン交響楽団で、
スケール感があり、かつドラマティックな演奏だった。
『エグモント序曲』で始まり、『皇帝』を挟んで後半が『交響曲第7番』と、
本プロはオール・ベートーヴェンだった。
欲を言えば『田園』のほうのプログラムを聴きたかったのだが、
それのあった土曜日の三原公演は仕事のために行くことができず、
きょうの岡山公演のほうになってしまった。
7番も別に嫌いではないが、どの楽章もリズムが独特で
聴き手としての私は根本のところで安らぐことが許されず、
どうしても『田園』ほど浸ることができないのだ(汗)。

こちらのアンコールは、グリーグの『ペール・ギュント「朝」』と
ブラームス『ハンガリー舞曲第5番』の二曲。
緩急のある選曲でコントラストも鮮やかだったし、
誰でも知っているメロディで演奏会の締めくくりとして楽しく、
客席の様子を見ながら自然に手拍子を誘導したりする、
シャンバダール氏の洒脱なステージマナーも、素晴らしかったと思った。

ちなみに岡山シンフォニーホールは、
私にとって25年ぶりくらいではなかっただろうか。
JR岡山駅東口からまっすぐ、というのは記憶にあった通りだったが、
ホール内部のことはもう、全く覚えていなかった。
私が二十代だった頃に、チェロのロストロポーヴィチを
ここで聴いて以来だったような気がする。
いや、ロストロ氏のは大阪のシンフォニーホールだったかな??
とすると、前回の岡山シンフォニーホールは、誰のときだっただろう。
およそ四半世紀ぶりというのは、間違っていないと思うのだが…。

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