転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
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HN「転勤族の妻よしこ」、筆名「山田亜葵」。家族は、転夫まーくん(またの名を「ツアコンころもん」)、転娘みーちゃん(1995年生まれ。首都圏在住。会社員)。
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壺坂霊験記@国立劇場
歌舞伎・古典芸能
/
2015年06月17日 15時33分05秒
15日に、国立劇場で『壺坂霊験記』を観た。
『第87回 歌舞伎鑑賞教室』ということで、
私の観た回には首都圏の私立高校二校が鑑賞に来ていた。
前半は、坂東亀寿による『解説 歌舞伎のみかた』。
亀寿の声と滑舌は素晴らしい上、
喋りすぎず飽きさせず、客席の空気を丁寧に捉えていて、
実に聞きやすくわかりやすい導入になっていた。
片岡當史弥による化粧や着付けの実演も見事だったし、
音楽や道具の仕事についての説明、
かつら・衣装担当スタッフの紹介もあり、
また、実際に高校生の男の子2人・女の子2人に舞台に上がって貰って、
女形の歩き方や衣装さばきなど体験して貰うという趣向も面白かった。
これが全体で40分ほどあり、そのあと一旦20分の休憩が入って、
後半が『壺坂霊験記』一幕三場。
派手な時代もののようなインパクトは無かったと思うが、
作品的に、起承転結のわかりやすい内容だったし、
役者の台詞と竹本とが融合して物語が進行するところなど、
いかにも古典芸能らしい趣があり、
初観劇の生徒さん達にとって、なかなか良かったのではないだろうか。
配役は、女房お里が片岡孝太郎。
壺坂は仁左衛門の家の芸だと私は思っていたが、
意外にも孝太郎にとっては初役だった。
慎ましやかだが芯が強く、夫の沢市を心から大切に思っている、
行き届いた女性であることがよく伝わって来た。
対する沢市が、坂東亀三郎。
自分の不甲斐なさを痛感していながらも、
卑屈になっているところがなく、まっすぐな人柄がしのばれて、
私にとっては大変好感の持てる沢市だった。
今回の国立劇場に来たのは、亀三郎の美声を聴きたかったから、
というのが私にとっての大きな理由のひとつだったのだが、
台詞の切れ味は言うに及ばず、地歌まで披露してくれて、
まったく眼福・耳福だった。
ただ、観ていて、ひとつわからなかったのは、
沢市が死を決意したのはどの瞬間だったのだろうか、
という点だった。
最初に、沢市がお里の不実を疑い、お里のクドキがあって、
誤解が解け、二人で壺坂に参ろうという話になるわけだが、
沢市はこのとき既に命を絶つつもりになっていたのだろうか?
それとも、実際に観音堂に詣でたあと、
祈っても目は治らないと嘆き、そこから気持ちが固まったのか?
壺坂詣でが決まったときに、沢市が家で袴をつける場面があり、
あれは死に装束としての着替えを暗示していたのかなと
今になってみると思わないではないのだが、
実際に観劇していたときには、普通に晴れ着のように見えた。
お里は勿論、参詣のために、夫に改まった服装を用意したわけだが、
沢市のほうは果たして、どういう気持ちでそれを身につけたのか。
私は『壺坂霊験記』そのものをよく知っているとは言い難いので、
いろいろと見逃したり聞き逃したりした箇所があったのかもしれない。
結末は、物語として若干うまく行き過ぎるところもあるが、
急に目の見えるようになった沢市の戸惑いや、
お里との喜び合い、『万歳』の踊りなど、
孝太郎・亀三郎の息の合ったところが堪能できて、
とても後味の良い場面になっていたと思った。
私は以前、実際に奈良の壷阪寺に行ったことがある
のだが、
この話に描かれている壺坂の観音堂は、もっとずっと寂しい場所だったことだろうと、
観ながら時々、風景を想像したりした。
女の身で、来る日も来る日も、真っ暗な山道を登って、
夫の病気が癒えるようにと祈願し続けたお里は、
本当に心優しく、そして逞しい女性だったということだなと思った。
なるほど、これなら沢市の目も開くはずだ。
まさに良い意味で、「女の一念、岩をも通す」(笑)。
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