主人と二人で、朝から東京に向かって発った。
本当は、きょうは娘の高校の卒業礼拝で、
私は当然のようにそれに行くつもりになっていたのだが、
「卒業式は珍しゅうない。それよりワシは3月1日でないと休暇が取れん!」
とケツに火のついた状態で主人が焦るし、娘も、
「別に来んでええよ。ウチ、終わったら追いかけて東京行く」
とえらくドライなことを言うので、
そんなものか、そういえば私の卒業式にも親は来てなかったな、
と私も思い直し、下宿探しの旅を優先することにした。
それで、朝7時に広島を発つ新幹線に乗って東京に向かい、
食い道楽を自称する主人が暴れない店で昼食を食べ
(私ひとりなら間違いなく車中の駅弁で終わるところだった)、
午後イチで、娘の入学する大学の、下宿紹介の会場へ行った。
この大学では、今の時期、学生さんが主体となって、
近隣の学生下宿やアパートなどの情報を一箇所に集めて貼り出し、
案内冊子を作って、新入生に紹介をしてくれているのだった。
……と、それは大変有り難い企画ではあったのだが、
案内プリントに会場は○○記念館と書いてあったにも関わらず、
実際にキャンパスに行ってみると、それがどこなのかわかりづらく、
通りかかった学生さんに聞いたら、困惑したように、
「あそこだと思います……」
と指してくれたところが、実は似て非なるナントカ学生記念館で(爆)、
私達ふたりはさんざんに道に迷った。
それで最後に、案内プリントに出ていた問い合わせ番号に
主人が携帯から電話をかけて、現在地を告げたら、
会場から、担当の学生さんふたりが迎えに来てくれた。
よくある話だが、私達は本当に目の前まで来て迷っていたのだった(恥)。
それからやおら、貼り出されている物件をひとつひとつ見て、
とりあえず我々二人で、ある程度の候補に絞ることにした。
私の希望としては、予算的なものも当然あったけれども、
駅からの道が危なくなく、できれば徒歩10分以内であること、
女子学生ひとりなのでセキュリティが信用できること、
地震等の災害の場合を考えて、鉄筋で、広い道路に近いこと、
欲を言えば、外から覗かれにくい3階以上であること、等々だった。
ちなみに娘の希望は、「ユニットバスでなく、セパレート」だった(笑)。
選んだ物件の番号を申込用紙に書いて、受付に出すと、
係の学生さんが、大家さんや不動産屋さんと連絡を取ってくれて、
内見の設定をしてくれた。
いずれも大学から近いところだったので、すぐ行って良いことになり、
主人と私はそれから徒歩で、現地に向かった。
***********
最初に見せて貰ったのは、大学からとても近い場所にある、
女子学生専用の「1R(ワンルーム)」だった。
大家さんが近くにお住まいになっていて、案内して下さった。
女の子ばかりということで、門扉や階段も綺麗だったし、
外部の人が入れないよう、施錠解錠の仕組みも念入りで、
とても良いとは思ったのだが、如何せん、狭かった(汗)。
間取りは確認した上で内見に来たのではあったが、
デスクとベッドが備え付けになっており、
しかも案内されたのは角部屋で、窓が二方向にあったため、
娘の何よりの希望である「本棚」を置く場所が無かった。
また、ホテルによくあるような小型の冷蔵庫も備え付けで、
容量は極めて小さく、冷凍庫の無いワンドアで、
自炊には、決して便利とは言えなかった。
次に行ったのは、一般のアパートだった。
偶然なのだが、ここからあとの物件は、
すべて、市内の同じ不動産屋さんの取り扱いになっていたので、
まず会社に行き、そこから係長さんが車で次々にまわって下さった。
最初のは、最寄り駅から徒歩5分、「1K」という表示ではあったが、
キッチン部分が結構広く、収納も押し入れサイズで十分大きく、
やや古びているのが難点とは言え、私はとても気に入った。
洗濯機置き場も室内にあり、申し分なかった。
しかし主人は別のことを言った。
「外階段の手すりが低すぎる」。
身長153センチの私にはどうということはなくても、
主人くらいの背の高さになると、
外階段から玄関前に至る手すりと囲いがひどく低く感じられ、
「酔っ払って夜中に帰ってきたら、こりゃ下へ転落するで」
とのことだった。
娘は私より10センチ以上大きいので、それは確かに危険だった。
その次は、最寄り駅から徒歩4分の、やはり「1K」を見せて貰った。
さきほどのアパートより、外観が格段に綺麗で、
似たような値段でこの新しさ・清潔さなら、これは期待できるか、
と思ったのだが、なんとここは、中が汚かった(爆)。
大学にもコンビニにも近く、鉄骨造で、Bフレッツ対応、
等々、悪い条件とは思わなかったが、
第一印象が「キタナイな~(^_^;」というのは、どうかと感じた。
それから、同じ「1K」でも和室六畳、という物件にも行ってみた。
私は官舎暮らしの刷り込みがキいているのか、和室は嫌いではない。
特に、入居するとき畳替えがされていて、
い草の良い香りに迎えられるのは、まさに「入居」という感じで、
かなり好きだったりする。
……娘がそう思うかどうかは不明ではあったが(^_^;、
和室、という点が気に入るなら、ここも悪くなかった。
駅から5分、Bフレッツ対応、2口ガスコンロ設置可能、
一人暮らしを始める場所としては、恵まれていると思われた。
ただ、ここは洗濯機置き場が外だった。
全自動とは言え、冬場には厳しいかもしれなかった。
もうひとつ、不動産屋さんの提案により、別の「1K」にも行ったが、
ここはリフォームが完了しておらず、なんとなく散らかっていた。
勿論その点は、いずれ整えられるから良いとして、
ここはバス・トイレがいわゆる「3点ユニット」で、
娘の希望の通りではなかったし、収納も一間分しかなく、
洗濯機置き場もベランダにあり、私から見れば、
特別に良いとは感じられなかった。
ただひとつ面白かったのは、このアパートは、
目の前が公園か何かのように広く開けていて、
何の広場なのかと訊いてみたら、某大学馬術部の馬場である、
とのことだった。
なるほど、もしここに住んだら、
娘は毎日、馬術部を見学できるのか(笑)。
……ということで、この日は内見だけでとりあえず終わった。
不動産屋さんのオフィスに戻って、
きょうのところは最初の広い(しかし手すりの低い)1Kと、
唯一の和室の1Kとを候補として残して、
明日の朝、娘を連れてもう一度来るので再度見せて貰いたい、
という約束を取り付け、私達は一旦ひきあげることにした。
そして、娘はというと、予定通り卒業礼拝と謝恩会を終え、
夕方の新幹線に乗って、夜8時頃、東京に到着した。
私達は娘と東京駅で落ち合い、晩ご飯を調達して、
宿泊予定のホテルに向かった。
ここは実は、娘と私とでついこの間まで、
受験のために十日間も滞在していたホテルだった。
こんな短期間で、また「帰って」来たのだった。
フロントの方々も、私達は既に全員、顔見知りだった。
なんとなく「ただいま~(^^ゞ」な雰囲気でチェックインした(笑)。
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