昨夜は、従妹がソリストを務める演奏会が広島であったので、聴きに行った。
曲は、モーツァルトのピアノ協奏曲第12番イ長調KV414。
従妹Mちゃんは、いつぞや東京で結婚式をしたRちゃんの姉で、
私とは同い年、高校の同級生でもあり、職業はピアニストだ。
私「ここはひとつ、気合い入れて、花束の大きいのを買って行かねば!
凄い久しぶりなんだよ、Mちゃんのピアノ聴けるのって」
夫「乱入するのに手ぶらじゃいかんからな」
私「なんでそうなる」
夫「『おうおうおう、Mを出せ!私が来たからって、逃げてんじゃねーよ!』」
私「マイクパフォーマンスか」
夫「そう。場内騒然」
私「Mちゃんが出てきて言うよ、『なんだとー!神聖な音楽を冒涜すんじゃねー』」
夫「『能書きは要らねーんだよ!さっさと、ピアノで白黒はっきりさせようぜ!』」
私「『いい度胸してんじゃねーか。よし、よく聴け、この勝負で負けたらな、
負けたら、私は、髪を切る!』」
夫「『あっぱれだな!よぉし、きょうのところはこれで引き下がってやるよ、
だがな、覚えてろ、諦めねえ。せいぜい髪の手入れでもしてな!』」
……おい。んなワケないだろーが。ええ加減にせんか。
と、私が出ようとしたら、いきなり雷が鳴って、外は突然、大雨になった。
私はしばし唖然として、空を見上げた。凄い。文字通り、鳴り物入り。
はからずも、乱入にはぴったりの効果音じゃないか。
私は、目と鼻の先にある花屋に寄るのにタクシーを拾わねばならなかった。
こちとらも一応、それなりなコスチュームを身につけていて、
ただしガウンは無いから、まともに歩いたりしようものなら、
到着するまえにずぶぬれになってしまいそうだった。
花屋で私は、思いっきり奮発して花束を作ってもらった。
夜で閉店間際だったせいか、お店の人も目一杯サービスしてくれて、
出来上がった花は、片手ではとても持てないほどのものだった。
私は、周囲の人が皆振り返るようなもの凄いものを抱いて、
夜の地下道を渡って、また雨の地上に出た。ここからは会場は近い。
ホールについて、さて乱入(違)、……と思ったとき、
「まあ!よしこちゃん!」
私はなんと、本日のソリストのご母堂(つまり叔母)に見つかってしまった。
私は見る間に周囲を親戚一同に挟まれ、そのまま、席に誘導された。
***************
従妹はブリュッセル音楽院を卒業したピアニストで、
以前から、フランスの現代寄りの音楽がお得意、という印象が私にはあった。
ドビュッシーとか、ラヴェルとか、シャブリエとか。
だから、公開の演奏会で彼女のモーツァルトを聴くのは、
私には、これが初めてだったかもしれない。
聴いてみると、実に綺麗で、かつ、闊達な音楽だった。
彼女の演奏を聴いていると、モーツァルトはこの曲を室内楽として書いた、
ということが非常によく伝わって来た。
現代ピアノとフルオーケストラで重厚に攻めるものではなく、
本来は、弦四部とピアノ(あるいはチェンバロ、フォルテピアノ等)で充分、
このように軽やかに、生き生きと演奏するのがいいのだ、
とまるで曲自身が語りかけて来るかのようだった。
彼女が弾いていたカデンツァが、モーツァルト版なのか、
それともほかの作曲者によるものか、私は疎いのでわからなかったが、
とてもロマンティックなソロだったのが素敵だった。
ピアノからオケへと、対話のように自然に連なる音楽も心地よかった。
女性らしい細やかさとともに、音楽の端々が溌剌としているのが、
彼女の良さだなあと改めて思い、
身内自慢でイタいのは百も承知だが(^_^;、
実にいいピアニストになったな~と嬉しかった。
余談だが彼女は、ピアノの厳しさも恐ろしさも身をもって知っているからか、
世の中のすべての音楽家に対して、深い敬意を抱いており、
決して、軽々しく演奏家批判を口にしたりしない。
共演者に対しても、彼女ほど腰の低いソリストは珍しいのではないかと思う。
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