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転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



Happy birthday, our dearest Maestro Ivo Pogorelich!
I wish you another great year filled with lots of love and happiness!

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感謝  


COVID-19(新型コロナウイルス感染症)がアジアに広がったこの時期に、
ポゴレリチは日本・韓国あわせて6公演を敢行してくれた。
感謝しかない。本当によく来てくれたと思っている。

中国武漢でのアウトブレイク以来、先月から既に、ヨーロッパ各地では、
東洋人に対するあからさまな差別や偏見のあることが報じられていた。
マスク使用の習慣のない地域では、マスク姿の東洋人が感染者と見なされ、
理不尽に暴行された事件もあった。
この時期のアジアなど、新型伝染病の肺炎がウツりそうで、
海のむこうの一般的な欧米人なら、寄りつきたくもない場所だっただろう。
特に、クルーズ船ダイヤモンドプリンセスの寄港と検疫の報道も連日あり、
地名しかわからない人なら、横浜など危険地域としか思えなかった筈だ。

そのような状況下でポゴレリチは来日したのだ。
職業演奏家である彼にしてみれば、契約を履行したに過ぎないかもしれない。
自己都合で来日をキャンセルし契約上の問題を発生させれば、
自身の不利益になるのだから、極力、そのような事態を避けたかったのではあろう。
しかしそれにしても、演奏会のみならず、ポゴレリチはどの公演地でも、
終演後にはサイン会も行い、長蛇の列をつくったファンに快くサインをし、
ファンからの声かけに応じ、ときに写真撮影まで行ってくれたのだ。
まことに、彼は勇敢なる「愛の人」であった(涙)。
改めて、心からお礼を申し上げたい。ありがとうございました<(_ _)>!


(勿論、当の日本に住んでいる我々にとっては、
重症肺炎が市中で大流行、という状態でないことはわかっていた。
しかし海外から見た印象はそうではなかった。
外側からは、アジアそのものがどれほど忌むべきものに見えていたことか。
ポゴレリチがそのような偏見に捕らわれず、よく見定めて来日してくれたことを
私は嬉しく有り難く思っているのだ。
決して、単に無策のままで無謀に危険地域にやって来る人間のことを
勇気があると言っているのではない。)

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ポゴレリチの来日公演が、無事に終わった。
私は横浜と大阪の、マチネ2公演を聴くことができた。
ポゴレリチ一流の美学に貫かれた強烈な世界は更に色濃く、かつ、
今のポゴ氏には、自身も上昇し聴衆をも引き揚げようとする力が漲っていた。

ポゴレリチを聴いたせいで、骨の髄まで疲弊するなどという経験は
もはや、完全に過去のものとなった。
今の私は、ポゴレリチを聴くと、まるで異教の祭典で修祓でも受けたかのように、
それまであった邪念が払われ、尋常でないエネルギーに満たされる気がする。
ポゴレリチを聴いて元気になる、
―――これは私が年季の入ったファンだから、
という理由によるものではないだろう。
様々な時期を経て、彼は「愛の人」になりつつある、と思った。
作曲家たちも、自身の音楽も、聴衆も、後進も、
彼は意思を持って愛そうとしている、……ように感じた。
我ながらイタい感想だとは思うが、
それが私の、今回の2公演を聴いての印象だ。

以下、Twitterに投稿した文章をもとにした記録を、とりあえず貼っておくことにする。
また書きたいが、時間が取れるかどうか……。

2月11日(祝):シューマン・ピアノ協奏曲@みなとみらい大ホール
心の準備はして行ったのだがそれを上回るexcitingかつthrillingなシューマンだった。
きらめきのような装飾音、一瞬に等しい休符、隠し味ほどの不協和音、
すべてが物凄い解像度で迫ってきて、ただただ圧巻。
ベースの打鍵も強烈で、「ここは左手を聴くべき箇所だったか」と
初めて知ったところも多々あり。
シューマンであれほど重厚な手応えが得られたのは初めてだった。

自分の中では、過去に聴いたシューマンのピアノ協奏曲は、
甘美な夢の中をたゆたうような掴み所のない曲というイメージだったのだが、
ポゴレリチのは全編、物凄い厚みと奥行きがあり、特に終楽章は疾風怒濤だった。
それがまた、80年代のように追い詰められた息苦しさが無く、
己を解放する方向の力強さに満ちていたと感じられたことも、嬉しい驚きだった。
ここまで来るにはこれだけの年月が必要だったのだな・すべては必然だったのだなと、
あとから勝手に感慨にふけった。


2月15日(土):リサイタル@大阪シンフォニーホール
バッハ、ベートーヴェン、ショパン、ラヴェルと音楽史の順に演奏され、
バッハの対位法を学んだベートーヴェンの遺した和声が
ショパンに受け継がれ、ラヴェルの様式美へと発展した、
という強く一貫した流れを聴かせて貰った。
今の彼は確かに「橋をかける」のだな。

『舟歌』、私のこの曲に対するイメージは、以前から、
「死んだ人の魂が大空高く舞い上がり、天へ昇る」というものだったのだが、
ポゴ氏のはそんなに死んでいなかった(爆)。
聴きながらRod SterwartのSailingの歌詞を思い出した。
"I am sailing stormy waters to be free. "
重なる白い雲を次々とくぐり、上空の強い風に度々なぶられながら、
魂は神の坐す天を目指し、二度と戻ることのない旅を続ける……。
天への航海は、決して楽ではないのだなと思った。

『絞首台』は今回ほぼ初めて黄昏れの空気を感じた。
以前聴いたときは深夜みたいだったが、きょうのは黄土色の太陽が西の空にあった。
『スカルボ』は昔より格段に毛ヅヤが良くなった感じで、
そのぶん奇怪さも桁違いになっていた。
異次元の狂気を描ききり、立ち上がると自分で椅子をピアノの下に仕舞い、
聴衆に向かい、このうえなく優雅に、うやうやしく頭を下げるポゴレリチ………、
いやはや、心底、畏れ入りました。

追記:いつもと同じく、彼は楽譜を持ってステージに出てきたのだが、
ショパン『前奏曲 作品45』の楽譜は凄まじかった。
使い古され、綴じの部分がほぼ全部取れた、ただの、ぼろぼろの紙束だった。
ヘンレ版かパデレフスキ版かなど既に論外だった。
きっと、1980年のショパン・コンクールを受けるときに、
ケジュラッゼ女史と勉強した楽譜なのだろう。
ポゴレリチは、自分のこれまでのすべてが刻まれ記された楽譜とともに
世界各地を旅して、演奏会の舞台に登るのだな……。

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ポゴレリチ公式サイトを見ると、
2月23日北京・26日上海・29日杭州の公演が
to be rescheduled to a later date(延期)となっている。
日本と韓国の公演予定に関してはその記載がないので、
予定通り行われるということらしい。
ivopogorelich.com/schedule/

さきほどテレビで、今回の新型コロナウイルスによる肺炎の流行を受けて、
北京では外出制限がなされている、と報道されていたので、
「それなら人の集まる演奏会なんかも実施できないということか」
と思いつき、上記ポゴ氏公式サイトを見に行ったら、案の定だった。
そうでなくても、少し前から中国へは空路の運行停止も多く、
仮に行けてもヨーロッパへの復路をどうするんだという状況だったから、
このたびの延期は、もはや「やむなし」と思われる。
杭州では特に、協奏曲2曲(ショパン2番とシューマン)が演奏される予定で、
期待していたファンも多かったことと思う。
不可抗力とはいえ、残念なことになってしまった。
早く中国各地が平常に復して、また演奏会ができますように。

ただ、私が心配したようにアジア公演として丸ごとキャンセル、などには
ならなかったので、その点は、ひとまず有り難く思っている。
日本で5カ所、韓国で2カ所、計7公演のアジアツアーとなる予定だ。


追記(2月21日):今気付いたのだが、2月18日の韓国ヨンジン公演も延期になっていた。
その翌日19日ソウル公演は予定通り行われたので、なぜ前日が延期扱いになったのか不明だ。
ポゴ氏がまだ東京にいた2月13日に収録された韓国のファンへの動画で、
「これからソウルに行く。ロッテホールは素晴らしいと聞いているので楽しみ」
等々と、ソウルのことしか話題にしていないので、そのときには既に、
ヨンジン公演延期は決まっていたのではないかと思われる。
結局、今回のアジア・ツアーは高崎→横浜→東京→大阪→東京→ソウル、の6公演だった。

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ポゴ氏の来日が来月に迫っている。
既に2021年3月の来日予定も発表されている状態で、
我々日本のファンは今季のプログラムをこれから聴くのだ。
なんと贅沢な話なんだ……!!

来日に先立って、読売新聞にポゴレリチのインタビューが掲載されていた。
共演する読響のサイトに出ていたので、リンクを貼っておく。
2月に登場するポゴレリッチのインタビューが読売新聞に掲載(読響)

今回の来日公演スケジュールは以下の通り。
日頃から数字に正確なポゴ氏が、動画の中で
「2月7日から16日までの間に5回公演する」
と述べているので、これで漏れはない筈だ。
ちなみに今回、東京リサイタルのフライヤー裏の文章は、私が書きました(大汗)。
ポゴ氏の「変態」の具合について、です(逃)。

2020年2月7日(金)7:00p.m リサイタル@高崎芸術劇場 完売
  バッハ:イギリス組曲第3番 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第11番 
  ショパン:舟歌 前奏曲作品45 ラヴェル:夜のガスパール

2020年2月11日(火・祝)2:00pm 協奏曲@横浜みなとみらいホール
https://yomikyo.or.jp/concert/2018/10/117-1.php
  シューマン:ピアノ協奏曲 (読響みなとみらいホリデー名曲シリーズ)

2020年2月13日(木)7:00pm 協奏曲@サントリーホール 完売
  シューマン:ピアノ協奏曲 (読響名曲シリーズ)

2020年2月15日(土)2:00p.m リサイタル@大阪シンフォニーホール
  バッハ:イギリス組曲第3番 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第11番 
  ショパン:舟歌 前奏曲作品45 ラヴェル:夜のガスパール

2020年2月16日(日)7:00pm リサイタル@サントリーホール
  バッハ:イギリス組曲第3番 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第11番 
  ショパン:舟歌 前奏曲作品45 ラヴェル:夜のガスパール

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Kajimotoから来たメールに、ポゴレリチの再来年の来日公演予定が出ていた。
WORLD PIANISTS SERIES 2020-2021の最後に登場することになっている。
まだ来年2月の来日をひかえているこの時期に、
更に次の来日予定まで発表されるなんて、
ポゴ氏の順調な仕事ぶりが感じられ、ファンとして本当に嬉しく思った。

2021年3月6日(土) 19:00 サントリーホール
イーヴォ・ポゴレリッチ(p)
ショパン: 3つのマズルカ op.59
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
ショパン:幻想曲 ヘ短調 op.49
ショパン:子守歌 変ニ長調 op. 57
ショパン:ポロネーズ第7番 変イ長調 op.61「幻想ポロネーズ」

普段なら私にとっては「勘弁して欲しい」オールショパン。
しかしポゴ氏が弾くとなれば、話は別だ。
プログラムの前半(になるだろう)のマズルカとソナタ3番は
80年代からのレパートリー、後半の3曲は初出し。

もし前半のソナタが2番の葬送だったら、
ショパンコンクールへの40年後の回答?と勘ぐるところだが、
3番ロ短調のほうを選んでいるというのは、別の意図があるわけか。
後半の3曲は私から見るとほとんど「あの世」シリーズというか、
人生の終盤に弾くと良い的な(殴)ラインナップだと、
以前からひとりで勝手に思っている曲目なのだが、
来年2月の来日公演で弾く『舟歌』も私にとってはそういう系列で、
現在のポゴ氏は、このあたりの曲に何か心惹かれるものがあるようだ。
2021年の演奏予定曲目は、どれも1840年代の作品、
ショパンの作曲家人生後半の曲ばかりだ。

ワールド・ピアニスト・シリーズの一環としてのチケットは、
カジモト・イープラス会員限定先行受付:2020年 1/22(水) 12時 〜 1/25(土) 18時
一般発売:2020年 1/26(日) 10時 〜 1/28(火) 18時

*詳細はこちらへ↓
http://www.kajimotomusic.com/kajimoto_concert/vol_062/vol_062.pdf#page=5

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前回の録音から二十年以上が過ぎ、その間、
「レコーディングは、アーティストの義務だと思っている」
と言い続けて十数年、この8月、ポゴ氏がついに新譜を発表した。
ファンとしては、もはや実現は困難なのではとさえ思った、
彼の新録音が、とうとう現実のものとなった。

これに先立ち、ポゴ氏はレーベル移籍を発表していた
それまでのドイツ・グラモフォンから、米ソニー・クラシカルへ。
2016年11月にポゴ氏は一度、新録音としてIdagioから
ベートーヴェンのソナタ22番と24番を配信したことがあり

当時は、「ネット配信の曲がたまったところでディスクにする」
という方針を公にしていたのだが、少なくともIdagioは、
その後、日本からアクセスできなくなってしまったので、
この件が今どうなっているのか、私にはわからない。
しかしCD発売というかたちになったことを、私自身は大変歓迎している。
Idagio等からデータのみが手に入ってもジャケットがないし、
演奏会の後でサイン会が催されても、ネット配信の曲が新譜では、
サインを書いて貰って手元に置くことができないからだ。
アナクロなのは承知しているが、CDという形態には
やはり今なお否定できぬ価値があるのだよ(^_^;。

何にしてもこれで21世紀初頭のイーヴォ・ポゴレリチの演奏が、
公式的な記録として残されることになった。
例えばグレン・グールドやディヌ・リパッティが誰であり、
どのような変遷を辿った芸術家であったかを、
私たちが今でも知ることができるのは、
彼らの残したレコードがあったからこそだ。
ポゴレリチも、今回の録音が成功していなければ、
20世紀で足跡の途絶えたピアニストになりかねないところだった。
彼の現在の演奏が、ディスクというかたちで無事に保存された、
そのことに、彼の長年のファンとして私は今、心から安堵している。

***************

今回のCDの曲目は、以下の通り。

ベートーヴェン
1. ピアノ・ソナタ 第22番 ヘ長調 作品54
2. ピアノ・ソナタ 第24番 嬰へ長調 作品78「テレーゼ」
(上記2曲は2016年9月ドイツ エルマウ城にて収録。Idagio配信分と同一録音)

ラフマニノフ
3. ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品36
(2018年6月オーストリア ライディング リスト・ホールにて収録)

発売中の『レコード芸術』9月号にインタビューが掲載されているのだが、
それによるとポゴレリチは、ソナタ全曲演奏などの企画を除けば、
ベートーヴェンの22番と24番がコンサートで演奏されるのを、
これまで聴いたことがない、と発言している。
なるほど、それはそうかもしれない。特に22番はそうだろう。
23番「熱情」ならこれ一曲でも弾かれるソナタと言えるが、
22番や24番は、そういうものとは位置づけが異なる。

私はベートーヴェンという作曲家が大変好きなので、
誰の演奏にせよベートーヴェンはこれまで最も多く聴いていて、
ポゴレリチが弾く前から24番「テレーゼ」は割と気に入っていたし、
余談だが「エロイカ変奏曲」など、自分の中では大ヒット人気曲だった(笑)。
しかし世間では、これらは決してメジャーな曲ではないし、
むしろ知名度が低い、ということを私は中年以降になって初めて知った。
それで行くと22番など、ソナタとして認識されていないレベルかもしれない。

2013年12月の来日公演でのポゴレリチはオール・ベートーヴェン・プログラムで、
演奏会そのものが彼の自分史の追体験として聞こえ、なかなかに興味深かった。
8番「悲愴」や作品129「失われた小銭への怒り」が先に弾かれたので
それらはポゴレリチの少年時代、ピアノを学んだ日々の曲として響き、
次いで22番は、ケジュラッゼ女史と出会い、スターダムにのし上がった彼の、
大空への飛翔、輝かしい世界ツアーの日々。
ここでプログラムの前半が終わり、後半の最初が23番「熱情」で、
このときにはもう彼は、道標であった女史を失った慟哭の中にあり、
最後の24番で深い追悼と閑かな追想を行い、メインプログラム終了、
……というふうに、その当時の私には感じられた。

そこで私が思ったのは、22番と23番はセットなのだな、ということだった。
22番は、力強く「上がる、昇る、羽ばたく」という音楽で、
23番は、絶望的に「下がる、墜ちる、沈む」という音楽だった。
しかし今回のCDには23番が入っていないので、
22番は曲として、完全に独立して弾かれた、という印象に変わった。
直感だが、2013年の来日公演のときのように「上昇」してはいなかった。
強いて言えば「若く活動的だった時代もあった」と、客観的に描写しているような。
24番「テレーゼ」もまた、前段を踏まえて聴くというかたちでないので、
単独の、きわめて透明な音楽として感じられた。
前述のレコ芸インタビューではポゴレリチは、
24番を「水槽で泳ぐ鯉」(←カープかっっっ!!)と表現している。
これらは、2013年以降のポゴレリチの解釈の変化というよりは、
状況により、どのように弾くかについてのアイディアが様々に採用される、
ということだろうと私は思っている。

一方、ラフマニノフのソナタ2番、これはベートーヴェン以上に、
過去、様々な来日公演の場で聴かせて貰った曲なのだが、
正直に言うと私は造形美以外のものを聞き取れた試しがない。
膨大な内容のある曲だとは感じるし、
曲の構成も使われているテクニックも、
ロマン派までのピアノ音楽の集大成の上に発展させたもの、とは思うのだが、
結局最後には私はいつも、大変即物的な音楽としてこの曲を聴いている。
こちらにラフマニノフを聴くだけの素養がないということだと思う。
バレエで、ジョージ・バランシンだったか誰かが、
自分の振り付けには意味などない・ただ「動き」があるだけ、
と言っていたと思うのだが、それに似たものを私はラフマニノフに感じる。
レコ芸での発言によるとポゴレリチは目下、
ラフマニノフの協奏曲第3番に取り組んでいるところだという。
彼の展開するものを聴きつつ、
私も私なりに、さらにラフマニノフを勉強して行きたいものだ。

録音された音楽は、ポゴレリチとしては演奏会とは異なり、
聞き手が、ホールとは違う広くない室内で、
反復的に聴くことを想定してつくりあげたものだ。
今後も繰り返し、大切に聴いていきたいと思っているし、
聞き続けることにより、新たな発見が次々とあるはずだ。
ポゴレリチであればこそ、そのように弾いているに違いないからだ。
彼の仕掛けた鍵をひとつひとつ見つけ、
秘密の扉を開いて行くような楽しみ方を
これから、して行きたいと思っている。

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ポゴレリチが、米Sony Classicalと新たに長期契約し、秋に新譜を出す、
という話になっている。
曲目は、ラフマニノフのソナタ2番と、ベートーヴェンのソナタ22番・24番。

Ivo Pogorelich joins the Sony Classical roster(4th April 2019)

ポゴ氏が言うには、
「昔、ソニー創業者の盛田昭夫氏から、当時のソニーの技術により実現した、
ラフマニノフ本人の音源のリマスターのセットを貰ったことがある。
今回のソニーへの最初の録音として、私はラフマニノフのソナタ第2番作品36を
弾くことになっており、この繋がりを大変嬉しく思っている。」

以前、ポゴ氏は、
「私は、録音は演奏家の義務であると考えている」
と発言していたが、インタビューで計画が語られても、
実際に80~90年代のような録音活動が再開されることは無かった。
ラフマニノフもベートーヴェンも、彼が長年、
自分のレコーディングの候補曲として挙げてきたものだったが、
なかなか具体的なかたちにならなかった。

そのような中で2016年に一度、Idagioから
ベートーヴェンの22番と24番の2曲がネット配信されたのだが、
これまた、以後の録音が続くことはなく、それどころかIdagio自体、
いつの間にか日本からアクセスできなくなってしまった。
やはりデジタル配信なんか駄目だ、と年寄りの私は恨めしく思った。
いくらアナクロと誹られようとも、私は、
「ただのデータ」ではなく「ジャケットのついたCD」こそが欲しい。
こんな細切れの曲単位の配信では、「アルバム」としての妙味が全然無いし、
そもそもアナタ、ネット配信がいくら貯まったところで、カタチが無いんだから、
演奏会後のサイン会で彼にサインを貰うことができないじゃないの(違)!

しかし、ソニークラシカルの御蔭で、ああ、とうとう、
彼の新譜が日の目を見るのか!!98年以来、初めての!!
カップリングがベートーヴェン2曲というのも私には大変有り難い。
大空に飛翔するソナタ22番、幽霊による癒やしの歌(爆)24番『テレーゼ』、
……いいじゃないか~~。


実現するよね!?



追記:CDジャーナルに上記内容の日本語記事もUPされた。
ピアノ界の異才イーヴォ・ポゴレリチがソニー・クラシカルと専属契約締結 21年ぶりの新録音発売
(2019/04/08 12:41掲載)

ベートーヴェンのほうはエルマウ城で収録した、とあるので、
Idagioから配信されていたものと同一であるようだ。
これでやっと、CDとして手に入れることができる!!

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既にポゴレリチの2020年2月の来日予定が発表されている。

2020年2月11日(火・祝)2:00pm 協奏曲@横浜みなとみらいホール
  シューマン:ピアノ協奏曲 (読響みなとみらいホリデー名曲シリーズ)

2020年2月13日(木)7:00pm 協奏曲@サントリーホール
  シューマン:ピアノ協奏曲 (読響名曲シリーズ)

2020年2月16日(日)7:00pm リサイタル@サントリーホール
  バッハ:イギリス組曲第3番 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第11番 
  ショパン:舟歌 前奏曲作品45 ラヴェル:夜のガスパール

今回の来日公演での『交響的練習曲』が忘れ難い名演となったことを思うと、
次回は日本で初めて、彼のシューマンのピアノ協奏曲が披露されるのか!と
大変に楽しみになって来る。
ポゴレリチを「シューマン弾き」だと言った人は今まで居ないし、
事実、それほど数多くのシューマンを手がけてきたわけでもないのだが、
彼がこれまで弾いたシューマンはひとつもハズレが無かったので、
協奏曲にもかなり期待ができるのではないかと私は思っている。

また、リサイタルのほうも実に多彩な内容で、
ポゴレリチの魅力を聴くためには、ほぼ完璧なプログラムだ。
バッハは以前の来日公演でも弾いたことはあるが、
97年の来日公演時が最後だったと思うので、20年ぶり以上にはなるだろう。
ポゴレリチが少年だった頃から「いつかイギリス組曲を録音したい」
と願っていた曲目でもあり、85年にその夢は叶ったのだが、
この曲に対する彼の思いは、今もひときわ深いものがあるのではないかと思う。

ベートーヴェンのソナタ11番は、95年来日公演のBプロにあったが、
東京で一度弾いただけのプログラムだったし、
私は育児中だったので聴きに行けなかった。
86~87年に収録したDVDに入ってはいるが、大半の聴き手にとって、
ポゴレリチの演奏を生で聴くのは初めてという曲目になるだろう。

私自身は、いつの日かポゴレリチにショパンの『舟歌』を弾いて貰いたい、
と以前からずっと思っていたので、次のリサイタルで、
いよいよこれが取り上げられるのかと思うと、大変に嬉しい。
しかし実を言うと、私の想定していた「いつの日か」とは、
ポゴレリチがもっと年を取って、晩年かそれに近くなってからのことだった。
以前から、私の思うショパンの『舟歌』は、
人が死んで魂が飛翔し、天の神の元へと昇る歌、……なので、
あまり若い人が弾くのは、どうも完全には似合わない気がしている。
そういう意味で、60代の初めでは、若すぎることはないにしても、やや早い、
とは思うのだが、何にせよ大いに期待が高まるのは間違いない。

ショパンの『前奏曲』作品45は、もしかすると81年の初来日以来ではないだろうか。
80年のショパン・コンクールのときに選択していた一曲で、
デビューアルバムとなった『ショパン・リサイタル』にも収録されているが、
案外、生の演奏会で取り上げられた機会は、多くないかもしれない。

ラヴェルの『夜のガスパール』はポゴレリチの定番曲だ。
これまでもいろいろな時期に、この曲を演奏してきた。
82年に録音された同曲のレコードは今もCDで買うことができるが、
初期の頃から私は、ポゴレリチの演奏が、
敢えてテンポを抑制したものであることがとても気に入っていた。
特に『オンディーヌ』でそれが顕著だと思うのだが、
たっぷりと、かつ、極めて丹念に弾くのがポゴレリチのアプローチだった。
次回来日でも、テンポが速くなることは考えられないから、
細部の美への彼のこだわりが、いっそう印象的に発揮されるのではないかと思う。

*************

協奏曲は地方公演は無いと思っていたら、先日、友人某氏が、
横浜みなとみらい公演もあることを教えて下さった(ありがとうございます)。
しかし「建国記念の日」だな、これは(汗)。
私はこの日は、昼には毎年、村の神社のほうの手伝いがあるのだ。
やはり協奏曲は、私の場合は東京一択か(汗)。
リサイタルに関しては、私の会社は月曜定休なので、
日曜夜にサントリーホールに居ること自体は可能な筈なのだが、
木曜に協奏曲を聴いて金曜に広島に帰ってきて、また日曜に東京に行くのか、
と考えると、やや厳しい(汗)。
今年の経験からすると、上記の三公演のほかにも、
いくつか地方公演が、後から発表になる可能性があると思う。
できればまた、西日本での公演をして頂きたいものだ。
やはり名古屋以西の公演地なら日帰りも可能になり、回数がこなせる(殴)。

2020年というと、あまりに先の話のように思えるが、
2018年がほぼ終わりかけている今、2020年2月ならば、
実質、一年ちょっと先の話ということになる。
一応、心づもりは、しておかなくては。
スケジュール調整とか旅費の算段とか心の準備とか(汗)。

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ついに、本年最大のイベントであったポゴレリチ来日公演が終わった。

今回の最大の収穫はシューマン。
遺作変奏曲でこのうえない敬愛を込めて過ぎ去った時間を懐古し、
本編の交響的練習曲で人生の様々な光景を描く、
……という構成のように感じられた。
練習曲はどれも短調なので、本編で語られるものは各々、
趣は違っても切なく、哀しく、
しかしひとつひとつに美しい起伏と相応しい結着があった。

それが終曲(変ニ長調)になった途端、
なんと俄に次々と光が射してきて、
力が漲り、聴いているこちらはまるで、
Hold your head high! (顔を上げろ)
Stick your chest out! (胸をはれ) 
と励まされている気持ちにさえなった。
目を見張るばかりの、輝かしい音楽だった。
ああ、そうだったのか、
この曲は人生の様々な出来事を弾き手とともに改めて味わい、
幸せばかりではなかったことも敢えて受け入れ肯定したのちに
祝祭をもって送り出されるというものだったのか。
だからフィナーレだけが燦々とした長調なのか!
あのポゴレリチに、これほど力強く肯定的に、背中を押される日が来ようとは!

幾度、拍手でステージに呼び出されても、アンコールは無し。
大阪と名古屋では終演後、楽屋出を見送ろうと集まったファンに対して、
快くサインに応じてくれたが、演奏後の御本人は、穏やかで気怠げで、
やはり、あの、何年越しかといういつもの服装だった(^_^;。

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