中2の春だった。
3年生の男女が十人ほど教室にやって来て
私を呼び出した。
すわ!リンチか?!
緊張する私に3年生代表は言う。
「Fと交際してもらえないか?」
誰のことかわかりゃせん。
彼らが口々に説明するには
野球部のエースで4番、しかも勉強ができる大切な友達だと…。
そのFが初めて恋をした相手が私だと言う。
私服の姿をひと目見た瞬間から
部活も勉強も手につかなくなってしまった…。
このままでは、高校受験もままならない…。
助けると思って、交際してやってほしい…。
今思えば、かなり身勝手な要望であるが
「受験に落ちたら、あんたのせいよ」
と言われてビビり、つい首をタテに振ってしまった。
「Fは、君が小林麻美(知らんだろうな~)にそっくりだと言ってる」
というのに、ちょいと気をよくしたという部分もあった。
当時の私は、初潮すら迎えていなかった。
背も小さく、体も細く
中学の制服を着た児童…といったあんばいだったので
何が何やらよくわからないうちに
「男女交際」なるものはスタートした。
しかし、何をどうすれば男女交際になるのか
いっこうにわからないので放置していた。
やり手ババアの任務を終えた3年生たちは
「マフラーを編め」
「誕生日が近いからプレゼントを」
などと、今度はうるさい姑みたいにあれこれ言ってくる。
昼休みはバックネットの横に集合を義務づけられ
二人、無言のまま立ちつくし
鐘が鳴ったら解散。
それを遠巻きに見守る3年生…。
こんなことより、同級生と長縄跳びがしたい私…。
業を煮やした3年生のボス格、野球部のキャッチャーからの提案で
交換日記なるものを始めることとなった。
運び屋は3年生がつとめてくれると言う。
しかし、これが面白くないのなんの!
天気がどうの、部活がすんでから塾へ行っただの…ばっかり。
苦痛なので、いつも「頑張ってください」と書いて返す。
すると今度は
「自分のことをどう思っているのかわからないとFが言ってる…」
いちいちやかましいんじゃ!
夏休み…3年生のはからいにより
3組のカップルで近くの海へおもむく。
こういうの、ちょっと男女交際っぽいじゃん…と
水遊びの好きな私は、うれしく参加。
集合場所に現われたF…。
青いリボンのついた、お子様用麦わら帽子をかぶって登場。
ごていねいに、あごヒモまできっちり結んでやんの。
制服と野球のユニフォーム姿はまあまあだったが
私服が痛い男の子だったのだ。
海といえば、麦わら帽子
しかも肩には緑色の水筒…。
それが彼のおしゃれアイテム…。
麦わら帽子のツバには
「ふじたゆ○のり(仮名)」とヒラガナで大きく書いてある!
私は目の前が真っ暗になった。
以後、もう彼とは会わなかった…と言いたいが
バカ正直だった私は、受験が終わるまで…という期限をよすがに
ひたすら耐え忍んだ。
家族に知られて怒られても
先生に「早すぎる」と注意されても、我慢した。
彼が念願の難関校に合格した時の喜びは
麦わら帽子に名前を書いたお母さんより大きかったと思う。
そして今…彼は国立大を経て地元の教師になり
小林麻美は泉ピン子と化した。
時々町で出くわすことがある。
結局自分は3年生たちの青春の1ページとして
オモチャにされただけだったのだ…とやっと気付いた私は
高校進学後も引き続き交際を熱望する彼をさっさと捨てた。
よって、お互い言葉は交わさない。
でも、見かけるたびにつぶやく。
「私の青春を返せ!!」
3年生の男女が十人ほど教室にやって来て
私を呼び出した。
すわ!リンチか?!
緊張する私に3年生代表は言う。
「Fと交際してもらえないか?」
誰のことかわかりゃせん。
彼らが口々に説明するには
野球部のエースで4番、しかも勉強ができる大切な友達だと…。
そのFが初めて恋をした相手が私だと言う。
私服の姿をひと目見た瞬間から
部活も勉強も手につかなくなってしまった…。
このままでは、高校受験もままならない…。
助けると思って、交際してやってほしい…。
今思えば、かなり身勝手な要望であるが
「受験に落ちたら、あんたのせいよ」
と言われてビビり、つい首をタテに振ってしまった。
「Fは、君が小林麻美(知らんだろうな~)にそっくりだと言ってる」
というのに、ちょいと気をよくしたという部分もあった。
当時の私は、初潮すら迎えていなかった。
背も小さく、体も細く
中学の制服を着た児童…といったあんばいだったので
何が何やらよくわからないうちに
「男女交際」なるものはスタートした。
しかし、何をどうすれば男女交際になるのか
いっこうにわからないので放置していた。
やり手ババアの任務を終えた3年生たちは
「マフラーを編め」
「誕生日が近いからプレゼントを」
などと、今度はうるさい姑みたいにあれこれ言ってくる。
昼休みはバックネットの横に集合を義務づけられ
二人、無言のまま立ちつくし
鐘が鳴ったら解散。
それを遠巻きに見守る3年生…。
こんなことより、同級生と長縄跳びがしたい私…。
業を煮やした3年生のボス格、野球部のキャッチャーからの提案で
交換日記なるものを始めることとなった。
運び屋は3年生がつとめてくれると言う。
しかし、これが面白くないのなんの!
天気がどうの、部活がすんでから塾へ行っただの…ばっかり。
苦痛なので、いつも「頑張ってください」と書いて返す。
すると今度は
「自分のことをどう思っているのかわからないとFが言ってる…」
いちいちやかましいんじゃ!
夏休み…3年生のはからいにより
3組のカップルで近くの海へおもむく。
こういうの、ちょっと男女交際っぽいじゃん…と
水遊びの好きな私は、うれしく参加。
集合場所に現われたF…。
青いリボンのついた、お子様用麦わら帽子をかぶって登場。
ごていねいに、あごヒモまできっちり結んでやんの。
制服と野球のユニフォーム姿はまあまあだったが
私服が痛い男の子だったのだ。
海といえば、麦わら帽子
しかも肩には緑色の水筒…。
それが彼のおしゃれアイテム…。
麦わら帽子のツバには
「ふじたゆ○のり(仮名)」とヒラガナで大きく書いてある!
私は目の前が真っ暗になった。
以後、もう彼とは会わなかった…と言いたいが
バカ正直だった私は、受験が終わるまで…という期限をよすがに
ひたすら耐え忍んだ。
家族に知られて怒られても
先生に「早すぎる」と注意されても、我慢した。
彼が念願の難関校に合格した時の喜びは
麦わら帽子に名前を書いたお母さんより大きかったと思う。
そして今…彼は国立大を経て地元の教師になり
小林麻美は泉ピン子と化した。
時々町で出くわすことがある。
結局自分は3年生たちの青春の1ページとして
オモチャにされただけだったのだ…とやっと気付いた私は
高校進学後も引き続き交際を熱望する彼をさっさと捨てた。
よって、お互い言葉は交わさない。
でも、見かけるたびにつぶやく。
「私の青春を返せ!!」