殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

これがミノリの生きる道

2009年05月01日 14時03分22秒 | みりこんぐらし
ミノリ…その生き様が思わぬ人気?なので

続編をつづることにする。


ミノリ夫婦は、とあるマルチ商法を生業にしている。

これに転職してからは、私も距離をおいているのだ。


夫婦して明るく、人なつっこく、親切心も人一倍あるほうだが

ま、危険ゆえに友達が少ないタイプである。

にこやかに近づいて取り入り、金を出させるので

警戒されるのだ。


そのわりにはやたらと神仏をあがめたてまつり、祖先を大事にする。

この一貫性の無さが、ミノリの不思議を作り出している。


数年前、ミノリの母親が病死した。

これまで肉親や夫の庇護のもと

人生をなめきっていたミノリは

初めて生きる苦悩を知る。


ミノリの嘆きようは大変なもので

昔馴染みとしては、放っておけないほどだった。

目先の利益だけを追い求めてきたので

こういう時、支える友達がいないのだ。

今は煮ても焼いても食えないが

マルチを始めてチヤホヤされ、高慢ちきになるまでは

楽しい思い出もたくさんある。


ちょうどその頃、市民会館のホールで

東京のバレエ団の公演があると聞いた。

私はミノリをバレエ鑑賞に招待することにした。


歌舞音曲を理解しないミノリだが

バレエなら楽しいのではなかろうか…。

チケットを渡すと、ミノリは喜んだ…ように見えた。


さて当日。

席に着いて待っていたが、ミノリが来ない。

ふと会場を見回すと

中央のスペシャルシートに、すまして座るミノリの姿が…。

    「ちょっと!あんたの席はこっちよ!私の隣よ!」

「いいの、いいの。差額を払って代わってもらったから」

何日か前に、知り合いに交換してもらったという。

「私ともあろう者が、一般席なんてイヤよ」


     S席は売り切れだったんだよ…。

ミノリと私は、別々にバレエを見て、別々に帰った。


またある日、ミノリがカメラを貸せと言ってきた。

この夫婦、金はあるのに変なところで始末屋だ。


当時、うちのはまだフィルム式だった。

貸したはいいが、何ヶ月も返ってこない。

     「ねえ、うちも使うから、早く返してよ」

「う…うん…」

どうも歯切れが悪い。

悪い予感がして、私はミノリの家に行った。


     「どうなってても怒らないから、出してみ?」

「…」

     「早く!!」

ミノリはしぶしぶ、カメラを持って来た。

カメラの胴体に輪ゴムが何重にもかけてある。

輪ゴムをはずしてみると、フィルムを出し入れするフタが

ぱっくり開いて、しまらない。

      「壊れたの?」

「う…うん…」

弁償問題に発展するのが恐ろしくて、隠していたのだ。

輪ゴムでグルグル巻きにしていれば

クセがついてそのうち閉まるかもしれないと思った…と言う。

輪ゴムを巻いたら普通と同じに写真が撮れると思うので

完全に壊れたわけではない…と力説する。


古いから、気にしなくていいよ…と笑うと

心底ホッとしたような顔をし

その時点で初めて、旦那も奥から出て来た。

「やぁ~!いらっしゃい!」


その帰り、狭い庭からバックで車を出す。

ここの出入り口は道路が狭く、向こう側はガケ。

落ちたら無傷ではすまない難所だ。


ミノリは、2車線の道路を常にまたぎ

話に夢中になるとアクセルを踏み忘れるという

人間離れしたドライブテクニックを誇るが

タクシーもいやがる自宅のケモノ道だけは

立派に運転してのける。


夫婦で私を誘導してくれたものの

ガリガリガリ…

庭石とバンパーが接触してしまった。


   おまえら、さっきオーライオーライ言ってたじゃないかよ~!


ミノリと旦那は叫ぶ。

「ああっ!石が!」

大丈夫か!

傷はついてないか!

二人は石のそばへ駆け寄り、安否を気遣う。


私は壊れたバンパーとカメラの冥福を祈りながら

もう二度と来ることはないであろうケモノ道を帰った。
コメント (19)
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