殿は今夜もご乱心

不倫が趣味の夫と暮らす
みりこんでスリリングな毎日をどうぞ!

組長・3

2009年05月05日 13時23分34秒 | 組長
昨日は、我が自治会にとって

運命の日となるはずであった。


先日、自治会をあげての掃除の日に

前年度会計報告への異議をとなえた

例のじじい率いる一部住民は

その後、水面下で暗躍していた。


あの時、やつらを置き去りにして

隣の組の会費持ち逃げ事件に心奪われた私であったが

やつらはターゲットを自治会長に移していた。


会長は、私が何も知らずのんきに家で遊んでいる間

やつらの抗議に一人苦しんでいたらしい。


そして昨日…

会長から、やつらの要求を飲んだ旨の連絡があった。

緊急会議を開けという要求だ。

「すまんね…わしがもう少ししっかりしていればいいんだけど

 あんまりしつこいので、一回やっておけば静かになるだろうと思って…」


三役以外に住民の招集権は無い。

そこで一人暮らしの老会長を責めて

自治会の人々を集めたいのだ。

そしてそこでまた、ワーワー言いたいに違いない。

理由は何でもいい。

自分たちが三役だった時に味わった

人前ですごむ快感をたまに反芻したいのである。


会長が連休の最中を選んだのは

不愉快を感じる人数をできるだけ少なくしたい配慮だ。


「人生最後のご奉公」と言って引き受けた会長職を

一生懸命やっていた優しいじいちゃんを

やつらは陰でいじめていたのだ。

おのれ、どうしてくれよう…。


会議は夜7時から。

私は断固戦うつもりだった。


そして夕方…ごく近所で救急車が止まる。

物見高い私としては、当然のぞいてみる。


「ああっ!会長さん!」

倒れたじいちゃん会長が、運ばれるところだった。


じいちゃんには持病がある。

次に倒れたら危ないと言っていた。


そこで初めて、近所の人々の口から

じいちゃん会長が心底悩んでいたことを知る。

じいちゃんは、私や会計の子がかよわい女だと信じて疑わなかった。

自分一人でやつらの矢面に立って、耐えていたのだ。

やつらを刺激しておいて

すっかり忘れていた私は、少々心が痛む。


「あいつらのせいだ…」

私達は口々に言いながら、救急車を見送った。


とりあえず時間になったので、集会所へ行ってみると

じじい派と、反じじい派の戦いがすでに始まっていた。


「会長さんが倒れたのはあんたたちのせいだ!」

「いや、たまたまだ!」

「あんた達が責めたからだ!」

「俺たちはただ、説明が聞きたかっただけだ!」

の言い合いである。


面白いので、しばらく聞いていたが

説明する立場にある前年度の三役は欠席しており

現会長も病院送りとなれば、話し合っても仕方がない。

元気になるまでこの問題は保留し

今夜はひとまず解散しようということになった。


私はかわいく質問する。

「あの~、会長さんは大丈夫なんでしょうか?」

「う~ん…それはなんとも…病状がはっきりするまでは…」

長老は、難しい顔で答える。


やつらは心なしかおとなしくなっていた。

バカとはいえ、多少は良心の呵責を感じているようだ。

じいちゃん会長は、結果的に身を挺して我々住民を守ってくれたのだ。


私は大きな声で独り言を言う。

「もしものことになったら、一種の殺人ですよね~。

 どうやってつぐなうのかしら~。

 怖いわ~!病人を責めるなんて」

皆、口々に怖い、怖い…と言いながら解散した。
コメント (12)
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