[週刊ハンギョレ21] セウォル号船員が退船命令を出さず逃走した理由が判明
登録 : 2016.03.09 22:38 修正 : 2016.03.10 07:28
登録 : 2016.03.09 22:38 修正 : 2016.03.10 07:28
ハンギョレ21が参加した「真実の力
セウォル号プロジェクト」15万ページと3テラバイトの資料を分析
資料写真 =ソウル地方海洋警察庁提供//ハンギョレ新聞社
大法院も見逃したセウォル号「最後の交信」発掘
2014年4月16日午前9時40分、沈没する船から逃走する直前のセウォル号船員の最後の交信が公開された。 船が傾き沈没している時、セウォル号との交信を維持していたのは珍島海上交通管制システム(VTS)のみとされていた。 しかし、ハンギョレ21が参加した「真実の力、セウォル号記録チーム」は済州(チェジュ)運航管理室もセウォル号との交信を維持しており、1等航海士のシン・ジョンフンが9時40分に「乗客は450人なので警備艇一隻では(救助に)足りないと思う」と話していたことが初めて確認された。 それがセウォル号が外部と交わした最後の交信だった。 この内容は裁判、検察捜査、監査院調査でも一度も公開されたことはない。 交信直後の9時45分、甲板部の船員など10人がセウォル号の操舵室から脱出した。 当時セウォル号の船内では「現在の場所で安全に待ち、これ以上外に出て来ないように願います」という案内放送が流れていた。
済州運航管理室「セウォル号、セウォル号、海運済州、感度ありますか?」
セウォル号「はい、セウォル号です」
済州運航管理室「ひょっとして警備艇、P艇、警備艇到着していますか?」
セウォル号「はい、警備艇一隻が到着しました」
済州運航管理室「はい、現在の進行状況をちょっと教えてください」
セウォル号「はい、何ですか?」
済州運航管理室(別の担当者が電話を代わって受け取り)「はい、○○さん、現在の進行状況をちょっと教えてください」
セウォル号「はい、警備艇が一隻到着し、今救助作業をしています」
済州運航管理室「はい、今P艇は係留していますか?」
セウォル号「はい、今警備艇がそばに来ています。 そして今乗客が450人なので、今の警備艇に乗り移るには足りないので、追加で救助に来なければならないようです」
済州運航管理室「はい、よく分かりました。今船体は傾いていないですね?」
セウォル号 (応答なし)
最後の交信を通じて、セウォル号の船員らが乗客に対して退船命令を出さずに操舵室から逃走した理由が明らかになった。 乗客に退船を命令すれば船員の脱出順序は後にならざるを得ず、事故現場に到着した100トン級の警備艇では船員を含めて「総人員500人程度」を救うことは不可能に見えた。 救命ボートも降ろせなかった状況で、操舵室にいた甲板部の船員など10人のうちライフジャケットを着用していたのは3人だけだった。 「当時の状況から見て、もし乗客と船員が一度に海に飛び込めばライフジャケットを着用していない船員の中から死亡者が出る可能性があった」。 「非常に危険」で「死んでもおかしくない」状況だった(2014年5月8日のシン・ジョンフン第6回被疑者尋問調書)。 乗客が海に先に脱出して自分たちが“救助”される機会が失われないように、セウォル号の船員らは退船命令を出さずに小型警備艇に逃走したと見られる。
大法院(最高裁)はセウォル号の船長に対してのみ殺人罪を認めた。 他の甲板部船員には殺人の故意を認めなかった。 しかし、セウォル号の船長だけでなく他の船員も乗客を見捨てて逃走した責任を厳重に問うことができる真実の一片が、新たに明らかになった。 「真実の力、セウォル号記録チーム」に参加して、粉砕されてあらゆるがらくたの中に混ざっている真実の破片を一つずつ見つけ出し、『セウォル号、その日の記録』を出版した。 セウォル号の惨事を市民の目で記録した本だ。 セウォル号の船員、海洋警察、清海鎮(チョンヘジン)海運の事件はもちろん、セウォル号許認可事件、珍島VTS事件などセウォル号に関連する捜査および公判記録など15万ページ近い裁判記録と国会の国政調査特別委の記録など3テラバイトに及ぶ資料を分析した。 各資料と記録を引用するたびに注釈を付け正確を期した。 付けられた注釈は2281に及んだ。 セウォル号の「最後の交信」のように、新たに発掘された真実の破片が『セウォル号、その日の記録』には満載されている。
「真実の力、セウォル号記録チーム」が出した『セウォル号、その日の記録』//ハンギョレ新聞社
■海洋警察官、事故現場で“認証ショット”
事故現場に最初に到着した海洋警察123艇が撮った“認証ショット” 3枚を初めて公開した。 この写真は123艇の艇長キム・ギョンイルの携帯電話に保存されていたものなどだ。 傾いたセウォル号の船首を眺めるキム・ギョンイルの後ろ姿、船員が操舵室から抜け出す姿、救命ボートを下す海上警察の姿などだ。 罪証写真とは異なり123艇の操舵室から撮った写真で記念写真のように見える。 傾いた船内に飛び込んで乗客を脱出させなければならない救助勢力が、なぜ外で認証写真を撮っていたのか、その写真がどのように活用されたのかは確認されていない。 キム・ギョンイルは8時49分からセウォル号が傾いて10時30分に沈没するまでの101分間、インターネットに8回接続していた。 この写真は週刊ハンギョレ21の1103号に掲載される。
海洋警察の指揮部は救助指揮の責任を互いに押し付け会った。 海洋警察庁長キム・ソクキュンは、海洋警察本庁の役割を「上級部署に報告すること」と規定した。 現場指揮は西海(ソヘ)海洋警察庁の役割だと主張した。
監査院「今回のセウォル号沈没事故のような大型人命事故の場合、(海洋警察)庁長が直接現場を指揮しなければならないのに、西海海洋警察庁長と木浦(モクポ)海洋警察署長に現場を指揮させた理由を話してください」
キム・ソクキュン「現場指揮は一次的に署長にあり、状況の重要性に応じて地方海洋警察庁が直接関与し、現場指揮を行うことが正しいと考え、本庁は総括的な指揮や上級部署に報告することが中央救助本庁の役割と考えました」
だが、西海海洋警察庁長キム・スヒョンは、総指揮は本庁の役割だと主張した。 「事故が発生した以後、9時10分頃に中央救助本部が設置されたことにより海洋警察庁と警備局長が現場で総括指揮し」、海洋警察庁長が存在するので西海海洋警察庁長は指揮ラインではなく『スタッフになった』と主張した。
■「客室のドアが閉まっていて出られない」…消えた119申告電話記録
『セウォル号、その日の記録』はセウォル号に関連した119、112、122への申告内容を全て掲載した。 全南119状況室には午前8時52分からひっきりなしに申告電話が鳴った。 「船が傾きました。助けてください」 「はやく助けに来てください」と叫んでいた。 セウォル号船内の状況も続々と伝えられた。 船が海の真ん中で傾いて、乗客が頭を負傷し出血して脚が折れた。「すごく痛いです」と泣きながら「いたずら電話ではありません」と絶叫した。
「真実の力、セウォル号記録チーム」は午前10時以後「ドアが閉まっていて出られない」という檀園高生徒の電話申告が119の録音記録から消えている事実を確認した。 全南119総合状況室が国会と監査院に提出した119申告内訳によれば、9時23分が最後の申告電話だ。 しかし10時10分に西海海洋警察庁状況室は、文字状況システムで指示をした。 「全南119からパク○○学生がドアがロックされていて出られないという事項。連絡先010-9170-xxxx」。文字状況システムは海洋警察のメッセンジャーシステムで、衛星通信網を利用してどこからでもリアルタイムで見られ指揮することができる。 木浦海洋警察署長キム・ムノンが搭乗した3009艦も10時12分に文字状況報告システムに「客室のドアがロックされていて出られなかった乗客連絡。救出されるよう指示願います」と書いた。 その時セウォル号は70度以上傾いて海水が船内に怒涛のように流れ込んでいた。 検察と監査院は「客室のドアがロックされていて出られなかった乗客連絡」が含まれる申告電話記録がなぜ全南119申告内訳にないのか、海洋警察は申告した生徒のパク○○君らを救助したのか確認しなかった。
■「なぜ救助できなかったのか」 「なぜ沈没したのか」に答える
『セウォル号、その日の記録』は誰もが抱いて不思議でない当然の疑問を問い、そして答えた。 「なぜ救助できなかったのか」 「なぜ沈没したのか」 「大韓民国で最も危険な船はどのようにして生まれたのか」。 AIS(船舶自動識別システム)や国家情報院のように、疑いの視線を受けている主題も覗いて見た。 記録の中に散らばっている小さな端緒を集め、ある種の疑問は払いのけ、またある種の疑問は新たに提起した。 「真実の力、セウォル号記録チーム」に参加したハンギョレ21は第1103号から3回にわたり主な内容を抜粋し報道する。
真実の力は1970~80年代軍事政権下でスパイの汚名を着せられた人々が再審を通じて無罪を明らかにし、損害賠償を通じて国家責任を追及することに成功した人々が作った団体だ。 真実を明らかにすることがどれほどつらい作業なのかを体で知っている。 微力ではあるが一緒にやろうと2015年5月にセウォル号プロジェクトを企画し「真実の力、セウォル号記録チーム」を構成した。 セウォル号調査報道に携わってきたハンギョレ21のチョン・ウンジュ記者とともに、20代の若いパク・タヨン、パク・スビン弁護士、パク・ヒョンジン氏が参加した。 この本は記録チームの目を照明弾として深い海の闇の中から真実を明らかにしてゆく旅程だ。 勇気を奮ってその日を記録し証言したセウォル号の犠牲者、生存者のおかげで初めて可能なことだった。 4.16セウォル号惨事家族対策協議会と遺族たちは、犠牲者が世の中に残して逝った最後の声を実名で書くことを許諾した。
■セヌリ党、セウォル号特検に反対
セウォル号の真実は今も暗い海の中に沈んでいるが、与党はセウォル号惨事真相調査のための特別検事任命要請案に反対の立場を明らかにしている。 セヌリ党のウォン・ユチョル院内代表は「セウォル号特検法は異見があるため処理されない状況」と話した。 事実上の19代国会最後の今会期で処理されなければ特検は失敗に終わる。
チョン・ウンジュ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )