「岡部嶺男展」へ行った。鈍感な私でさえ圧倒されそうな迫力の作品群である。嶺男(1919~1990)は加藤唐九郎(1897~1985)の長男。
1959年、いわゆる「永仁の壷」が、鎌倉時代の焼物の傑作として国の重要文化財に指定された。直後から贋作の疑惑が指摘されて、まず嶺男が「自作である」と告白、続いて父の唐九郎が「自作」と告白した。父子で庇い合ったのか・・いや父と子が競って己が力量を誇示したのか・・
結局、唐九郎の作だったとして重要文化財の指定を解除され、唐九郎は人間国宝の指定も解除された。美術史界、古美術界、文化財保護行政などを巻き込むスキャンダルだったが、唐九郎と嶺男の創作への世評はその後も決して衰えなかったようだ。
この「永仁の壷」について先日、嶺男の次女である美喜さんが証言した。それは、唐九郎と嶺男との暗黙の共犯・・唐九郎が正犯、嶺男が幇助犯・・というニュアンスだった。唐九郎の家長としての権威に、嶺男は従わざるを得なかったのだ、と・・・真相は、私には分からない。
嶺男の写真を見ると、その作品の凄まじさからは意外なほど律儀な職人風である。唐九郎の方は奔放な野人、といった趣きだ。
展示会場の一角で、嶺男作の茶碗に点てられた抹茶を、茶道の先生や友人等と共に戴いた。それらの茶碗について、美喜さんが親しく説明して下さった。もう若くはない筈の美喜さんだが、「お嬢さん」という呼び名が似合う風情の方だ。父の作品を語る彼女の声は、父恋の歌のようだった。
今日はkoreiの誕生日。父は芸術とは縁遠い下級官吏だった。その父を、私も恋しくなるときがある。