3連休の最終日、気仙沼はよく晴れていた。
せっかくなので気仙沼の街を歩こうと思う。フロント氏に聞くと、魚市場は休みであるが、観光客向けの買い物スポット「お魚いちば」や「海鮮市場・海の市」は営業しているので、行かれてはどうかという。食事処もあり、そこならば昨夜食べられなかった海の幸に出会えるかもしれないとのことである。
気仙沼駅は気仙沼線、大船渡線の交わる鉄道の要衝であるが、港からは山のほうに入ったところにある。てなわけで、港まで歩くと20分くらいかかる。古びた感じの商店街が続く。ただその中にも、大正か昭和初期のような昔ながらの風情を残す建物に出会ったりして、なかなか面白い。
港に出る。落ち着いた佇まいを見せる。その名も「魚町」という一角。今は陸前大島行きのフェリー乗り場や、市営の大きな駐車場があるが、昔はここに魚市場があったそうだ。漁船がもやっているのを見て歩くうち、フロント氏の案内にあった「お魚いちば」に着く。朝8時過ぎだが開いていた。漁が休みなので鮮魚の数は少ないが、冷凍ものや加工食品はそれなりに揃っていた。そして、気仙沼と聞いて有名なのが、フカヒレ。フカヒレスープにフカヒレラーメン、フカヒレの姿煮など、市場の中で結構なウエイトを占めていた。
その一角に「鮮」という料理屋がある。ここで朝食にしよう。というわけで、マグロの刺身に、オプションでカツオのハラス焼をつけた定食を注文。ようやく、三陸の海の幸に出会える。なかなかにボリュームがあり、うまかった。
そして、もう一つ。そう、冬の味覚といえばカキを忘れてはならない。昨今のノロウイルスの風評被害で、カキの産地がダメージを受けているとか。宮城の松島、女川、陸前大島といったあたりは三陸のカキの本場。今回の旅の目的の一つに、「カキを必ず食す」というのがあったのだが、ここで「酢がき」に出会う。こういう時だからこそ、生に挑戦だ。粒は小ぶりだが、やはり身が締まっていてうまい。
「お魚いちば」を出て、中型の漁船が停まっている桟橋を歩く。漁船の後ろを見ると、気仙沼だけではなく、北海道の根室やら小樽やら、あるいは日本海側の高岡とか、またよく見ると静岡とか、あちらこちらの地名が記されている。漁業の仕組みはよくわからないが、いろいろな地方の漁船が潮の流れに沿って操業し、気仙沼で水揚げするものもいるのだろうか。また乗組員は漁が休みの間はどこで過ごしているのだろうか。
魚市場は果たして休みである。何かの観光写真で、この市場一面にマグロが揚げられているかと思えば、サメが並んでいる絵もみたことある。マグロはともかく、サメの水揚げとなると国内のほとんどがこの気仙沼になるそうだ。そして、この市場に接して、「海鮮市場・海の市」がある。ここも海産物や加工食品などの土産物屋が林立し、観光バスなんかも横付けされて賑わっている。
その一角で、生簀にこれでもかとカキやホタテが入れられている。それにしても殻が大きい。やはりこれを食べたい。
「持ち帰り?宅配?3日以内ならナマで食べられるよ」という店の親父に、「ここで食べさせてもらってもいい?」と尋ねた。一瞬ひるんだような顔をしたが、「保健所がうるさいんだけどなー。うーん、でもいいや、内緒で食べさせてあげるよ」と、カキをつまみあげて、ナイフを入れてくれる。「レモンは?」「一応かけてください。(・・・ってすぐ後ろにレモン汁のボトルがあるやん。結構ここで食べる人、いるんだろうな)」ということで差し出された、三陸のカキ。これをナマでいってしまう。
先ほどの酢ガキで満足したのは早計だったかな。やはりこれが自然の風味だろう。本当、こういう時期だからこそ味わってほしいものである。
仙台で牛タン、女川でクジラ、そして気仙沼でカキ。今回の旅の目的は大いに果たすことができた。
さて、この「海の市」には二つの面白ミュージアムがある。まず一つが「氷の水族館」。よくわかったようなわからないような名前である。入口に行くと、コートで重装備のその上にもう一枚コートを羽織らされる。それで入口のボタンを押し、中に入ると・・・・そこは氷点下20度の世界。
で、その「氷の世界」で目にしたものは、何と氷漬けにされた魚の数々。気仙沼のサンマに始まり、タイやらタラバガニ、マンボウなんてのも氷漬け。普通、水族館といえば水槽の中を魚が優雅に「泳ぎまわっている」ものだが、ここでは氷の中で静止画像のようになっている。何だかとんでもないものを見ているようだ。どうすればここまできれいに氷に閉じ込めることができるのだろう。見ていて不思議なスポットである。出口ではペンギンも閉じ込められていた・・・、あ、これは模型か。
もう一つ、フカヒレの街・気仙沼を象徴するかのような「リアスシャークミュージアム」である。いきなりサメの中で最も恐ろしいとされるホホジロザメの剥製が口を開けて、見学者に喰らいつこうとしているのに出会う。サメの足下には、捕獲されたサメの胃袋から見つかったという牛の頭蓋骨やウミガメの頭などが転がり、人が襲われた事故の記録などが迫ってくる。やはり人喰いサメ、映画「ジョーズ」の世界そのものだ。
と、思ったところで、「しかーし」である。
「地球上でサメは390種類いますが、人を襲ったりするのはほんのごく一部です。皆さんサメに対して余計な恐怖心や誤解を持っているのではないでしょうか。このミュージアムでは、サメの持つ超能力や隠された生態を紹介することで、海の生態系の頂点に立つサメのことをもっとよく知ってもらおうというものです」というような内容の展示がこれに続くのである。一口にサメといってもいろいろな種類があり、卵生もあれば胎生もいたり、肉食もいればプランクトンを食っているのもいる。サメと海の生態系について面白く展示しているミュージアムである。
最後に、海の生態系の頂点にサメがいて、それで終わりかと思いきや、「しかし、本当に恐ろしいのはサメではなく、人間なのかもしれません」というのがあった。なるほど、文明の発達とやらで、海の生態系そのものに大きな影響を及ぼしており、だから、海洋資源の活用と保護のバランスを考えなければということか。なるほど、話の筋が一本通ってますな。で、サメについての学習をした後で、早い昼食でフカヒレラーメンを食する。これで、気仙沼の港めぐりも無事終了。
「爆弾低気圧」の影響で今日も風が強く、気仙沼線の列車にも前日ほどではなかったが遅れが出た。昨日は暗くなったので見えなかったが、強風の区間はきれいな海岸であった。あとはこのまま列車を乗り継いで東京に戻るだけだ。
なかなか印象に残る、今回の港めぐりだった。(終わり)