さて話は広島での観戦の前夜にさかのぼる。
当初の計画では前日一日かけて鈍行列車で広島に移動し、広島に一泊ということも考えていた。さらに宿泊も広島市街ではなく、それこそ呉とか福山とか、あるいは一度も宿泊したことのない三次、尾道というところも面白いかなと思ったところである。三次に行くのなら新見からの芸備線にしようか、福山からの福塩線にしようかということも考えた。
ただ、前日所用があったこともあり、それらの計画はまたの機会ということになった。当日朝の移動でもいいのだが、ふと思いついたのが、安く行ける高速夜行バス。十分に眠れないかと長年敬遠していたのだが、久しぶりに乗ってみることにしよう。「水曜どうでしょう」の「サイコロの旅」気分をちょっと味わってみるのも面白そうだ。携帯サイトから予約したところ、窓側の一人がけ席を確保することができた。
22時40分頃、JR難波駅真上のバスセンターに現れる。ここから夜行バスの旅が始まる。あちこちに向かうバスを待つ客も多い。23時ちょうど発の広島行きに乗車。2階建て車両である。
まずは3分の1ほどの乗客を乗せて難波を出発。この後阪神高速を通り、JR大阪駅北側のバス乗り場に到着する。どうやらここでほぼ満席となった様子である。ちなみにこの時の私は普通の出で立ちであるが、バスに乗り込む際にオリックス・バファローズの帽子をかぶっていたり、ロゴ入りのバッグやリュックに身を固めた人が少なくとも3人いた。同じような考えの人がいるものである。
後ろの人が早々とシートを思いっきり倒していたので、私も比較的深くシートを倒す。カーテンで隠されていて外の様子がうかがえないので、どこをどう走っているのかがわからない。高速道路に入ると消灯することや、途中サービスエリアでの乗務員休憩・交代を行うが乗客は外に出られないことのアナウンスがある。
頭上の吹き出し口で空調の調整もできるし、音楽を聴きながら横になっているといつしか意識も飛んだようである。途中、どこかのサービスエリアに長く停車している時に目覚めたりもしたが(不思議なもので、普段は静止した部屋の中で眠っているのに、夜行列車・夜行バスとなると動いていると眠れ、停まっている時に目が覚めてしまう)、思ったよりは眠ったようだ。次には体が前に引っ張られる感覚で目覚めた。山陽道の本郷の辺りの下り勾配だろうか。
広島インターの手前で朝の放送が入り、中筋駅、不動院駅に停車して広島バスセンターに到着する。センターに入るスロープを上がると、取り壊された旧広島市民球場をすぐ下に見ることができる。ライトスタンドの一部はまだ残っているし、カープの優勝と日本一、さらには衣笠祥雄氏を顕彰する石碑もまだ電車通りに沿って残っている。この跡地をどのように利用するのか、方向性は定まっているのだろうか。
6時前に広島駅新幹線口に到着。昼にまた広島駅に戻るとして、その間はどこに行こうかというところだが、黄色の電車に揺られて呉線に乗ることにした。それならば最初から呉行きのバスに乗ればよかったのだろうが・・・。
今年は広島と愛媛の島の観光PRも行われている。瀬戸内の海というのは心を和ませるものがある。そんな中を電車は走り、途中で行き違い停車も繰り返しながら50分ほどで呉に到着する。
改札口では、9日に二河球場で行われるカープ対バファローズのポスターが貼られていた。広島県内の巡業である。バファローズは例年、広島主催試合2試合のうち1試合はだいたいこの巡業に出される。呉とか三次とか尾道とか福山とか・・・。まあ、広島県も広いので各地域の野球ファンにその姿をお披露目するのも悪くないことである。地方球場というものにも興味を持つ私、これらの球場での公式戦というのも観てみたいのだが、だいたい平日の夜に組まれる。さすがに大阪勤めの身では行くことはできない・・・。
それはさておき、呉で訪れたかったのが大和ミュージアム。ただ開館には2時間ほどある。これはある程度見越したことで、夜行バスに乗ってきたこともあり「朝湯」につかることにする。駅から海岸のほうに出たすぐの商業施設ビルに「大和温泉物語」という、どこかで聞いたような名前のスーパー銭湯があり、朝の時間帯は、タオルや館内着はつかないし休憩大広間も利用できないが、その代わりに料金半額の朝湯コースをやっている。さまざまなタイプの浴場やサウナもあるが、よかったのは露天風呂。赤茶色の源泉も効き目がありそうだが、呉の港を眺めながらの入浴である。食堂も開いておりついでに朝食もいただく。
しばらく憩った後、呉の港をしばし歩く。またこうすると汗が出てくるのは分かりきったことだがそれもいいだろう。かつての軍港は今は造船、そして自衛隊の港であり、旧鎮守府の横を通り、国道沿いに坂を上ると「歴史の見える丘」に出る。
かつて戦艦大和を建造したドックである。現在も船舶を組み立てる大型クレーンが何台も立ち並んでおり圧巻の光景である。呉は広島のベッドタウンという一面もあるが、やはりこうした重工業が支えている町であるということを改めて感じる。
そうした景色をしばし楽しみ、中央桟橋にある大和ミュージアムに向かう・・・・。