TPPに賛成か反対かは踏み絵のような感じになっている。日本国民の利益を守る観点から賛成できない人がいるはずはないようにも感じられるが、圧倒的多数より政治的に絶対的な力を持っている業界の圧力があって、日本の内部で固まってしまっている状態のようだ。結局日本の特殊で弱すぎる産業である農業を切れるかどうかという問題ということになっている。
僕も米を作っているので、今の米の売価が4分の1だとか5分の1になるかもしれないと聞くと、単に大変だというより、ケンシロウから「おまえはすでに死んでいる」と言われているのに等しい衝撃があるのは確かである。しかし、そういう僕であっても、そのために日本が沈没していいとはどうしても思えない。もう持ちこたえることに意味があるなんてことをいい続けることに、いったい何の意味があるというのだろう。
しかしながら、TPPの実現は日本の農業を確実に殺すことになるだろう。もちろんそのことをもっと正確に表現するならば、今の農業を殺すということなのであって、死んだあとに農業が滅びるわけではないということも同時に言えるのだと思う。今生きている日本の農業は、実はケンシロウに言われるまでもなく既に死んでいる訳で、それでも生きたふりをしているという意味では、すでにゾンビなのである。ゾンビ映画を見ていると、多くの場合ゾンビに噛みつかれた人は、同じようなゾンビになるらしい。ゾンビと共存するには、同じようにゾンビになるしかない訳で、生きている皆さんが判断していいとは思うけど、お望みならいつでも噛みついてあげます、というのが農業政策の主張だろう。それに喜んで賛成しているのが政治家だということである。実に美しい人類愛(もしくは隣人愛)である。
という訳で、来春までにもしかしてこの問題が日本だけ見送られることがある可能性はあるだろうにせよ(それも残念ながらその確率は高そうだが)、いつまでも見送られ続ければさらにゾンビが増えるだけのことで、本当に人間という人類が生きているのであれば、そして賢明さに目覚めることがあるとするのであれば、最終的には決断をするだろうことは目に見えているのだと思う。つまり、今はただ不毛な時間を過ごしているだけのことなのだ。
もしくは本当にみんなゾンビとして生きていくつもりなんだろうか。いや、日本人ならそういうことを考えかねない。みんなゾンビになるんなら、それもまた仕方ないとでもいうのか。ありうるだけに恐ろしい将来像である。