カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

人生は犯罪と隣り合わせにある   犯罪

2023-06-19 | 読書

犯罪/フェルディナント・フォン・シーラッハ著(創元推理文庫)

 短編集。著者は弁護士ということで、実際の犯罪のことを書いているのかとも思われるのだが、あくまで小説なのだという。凄惨な殺人描写もあるし、拷問もある。不幸な事故などもあって、なかなかに読むものを戸惑わせるものがある。独特の乾いた文体で、簡略な説明のみで話が進んでいく場合が多く、これは本当は小説でなく事実なのではないか、とついつい考えてしまう。少なくともおそらく限りなく事実なのではないか。しかし、事実だとすると、やはりちょっと凄いものだな、という印象も受けるのだが。だから小説として描かれたということなのだろう。
 若い頃の誓いを守って、罵声を浴びせかける妻を長年我慢しながらも愛し続けようとするが、ついには殺してしまう老医師の話。資産家でありながら、父の愛を受け止められない姉弟が事故に遭い不幸のどん底に陥ってしまう物語。銀行強盗をしてアフリカに逃亡するが、そこで現地のコーヒー農園で成功したのち捕まって強制送還される男の話などもある。どれも印象的で、人間の生きている世界は、なかなかに困難が伴うこともよく分かる。幸いにしてそのような境遇に陥らず、犯罪とかかわらない人生を送っていることに感謝したくなるほどだ。
 犯罪を扱う上に、語り手は弁護士なのだから、犯罪の善悪を問うものがありそうなものだが、筆者の立場は、非常にフラットというか、むしろ弁護側として犯罪者に有利でありさえすれば、それでいいという感じだ。事実を後に知っても、特に感想も無い。そういうところに、読むものはなんだか不安を感じたりもする。本当にそれでいいのだろうか。まあ、読者にどうしようもないことなのだが……。
 妙なものを読んでいるという実感はあるが、しかしこれが面白いのも確かである。起承転結が明確ではないものの、思わず引き込まれて読んでしまう。これはどうなるのか気になるのである。そのまま終わるものもあるし、意外な結末を迎えるものもある。それらすべてが、妙な余韻を残す。この作品集が多くの人に読まれ翻訳までされたのは、実際問題としてその為なのであろう。
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