地獄の英雄/ビリー・ワイルダー監督
もとは大手新聞社の記者だったが、素行が悪く退職、地方の小さな新聞社に拾ってもらって仕事をしていた男がいた。そこに落盤事故でひとが生き埋めになるという事件が発生する。ところがこの記者は、あえて救出を遅らせてスクープ事件に祭りたてる画策をする。選挙を前にする地元保安官もその話に乗って、救出劇が大きな話題と膨らんでいく。現場には多くのやじ馬が駆けつけ、催し物が行われ、男に関する歌まで流れ出す。生き埋めになった男が経営していた、閑古鳥の鳴いていたドライブインも大繁盛。事故を機に男の元を離れようと考えていた妻も、少し稼いでから逃げようと考えを変えてしまうほどの大盛況で、田舎の町はすっかり様相を変えてしまう。
どんどん話はエスカレートして、独占で記事を書いている男は、すぐに大手新聞社からスカウトされる。これで地元新聞から抜け出して出世の道に戻ったとますます調子に乗る記者だったが、救出劇が長期化するにつれて、生き埋めの男の容体が徐々に悪化していく。そこで初めて良心に痛みを覚えたのか、本当に急いで救出できるように奔走するようになるのだったが…。
砂漠の何もないところに全米から車が押し寄せ、遊園地のように変化していく。駅も無い場所に臨時列車が停車して、多くの人が乗り降りする。特撮も無い時代に、実に大掛かりに映像を作り上げたものである。人間模様もその喧騒の中で、自分の思惑を前面に出すような輩が増えていく。実にアメリカ的にダイナミックに正直なのだ。そして薄汚い。
事故が起こったことは不幸なことだが、それを利用していかに調理するか。そういう手腕こそがジャーナリズムの使命であるかのようだ。そうして大衆がその味付けを気にいると、爆発的な騒ぎへと展開していくのだ。
皮肉と現実の人間ドラマを鋭く描いて、更に風刺が効きながら娯楽作として楽しめる。ワイルダー監督の才能の光る一作である。