いけない/道尾秀介著(文藝春秋)
自殺の名所といわれる場所で接触事故が起こり、そこから殺人事件のようなことが起こる。そのまま犯人たちは逃げるが、警察の捜査が進む中、第二の殺人事件が起こる。など、の展開のあるミステリ。なんというかそれぞれの章で謎解きが行われ、意外なことが明かされることで読者をうまく出し抜くエンタティメント作品となっている。
ある方から貸してもらって読んだ。なんで貸してくれたのか自体がミステリめいているのだが、思うに、だまされずに読んでみたら、という趣旨だったのではないか。正直に感想を言うと、ミステリに感心したかというより、読んだところで何の話か、よく分からなかった。記述的にミスリードするように書かれているわけで、最後にトリックが明かされているとはいえ、いわば騙されるのは当たり前のような気もする。さらになんとなく引っかかったのは、これらのトリックが成立するための殺人自体が、非常にまれなタイミングというか、偶然に左右される要素が混ざりすぎており、ちょっとあり得ないかな、という印象を受ける。さらに、たとえそうであっても、殺人に至る行動も、犯人が確信的にやるにしては、無理があるとも思う。実際にはおそらく成功しないだろう。そういうことを考えながら読んでしまうと、謎解きが行われても、だから何? という印象だろうか。さらに最終章でいろいろと明かされる事実についても、何か透明なものが混ざっていて、後でネットなどで解説文を読まなければ、分からない解釈が多いと思う。僕にとっては難しい本かな、と思った。
ということなんだが、このような本は、謎解きが凄いとかいうことで話題になるのだろうけれど、読んでいるときに面白いかどうかということの方が肝心である。そういう意味では、非常に文章がこなれているという印象は持った。いわゆる読み疲れないし、分量的に冗長性がそれほどない。いわゆる密度が濃いということなんだろうか。そういう意味では、書いている側の工夫があるのだろうとは想像される。本が読まれなくなった昨今、こういう本が読まれる主流になっているのだろうか。そのようなことも、なんとなくミステリといえばそうなのかもしれない。