カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

グラウンド外で分かる人間ドラマ   アルプススタンドのはしの方

2022-02-05 | 映画

アルプススタンドのはしの方/城定秀夫監督

 題名の通り、高校野球のアルプススタンドで自校を応援する生徒たちがいる。そのうちの女子生徒二人は演劇部らしく、野球のことは良く知らない。そこにクラスメイトの男子で元野球部の子がいる。いろいろ野球部の内部事情も含め解説してもらいながら応援観戦しているのだが、後ろの方で母校のピッチャーの園田君に恋心を抱きながら静かに応援している成績優秀な女生徒がいる。ところが最近初めて学年トップの座を吹奏楽部の久住さんに明け渡したのみならず、久住さんは園田君と付き合っているということを応援の間の会話で知ることになってしまうのだった……。
 元が演劇であることがはっきりわかる会話劇。いちおうロケでアルプススタンドで管楽器の応援団を交えての撮影のようだが、実際に野球をやっているかは映像が無い。基本的には会話劇で状況が説明されるので、映画である必要がよく分からない。もちろん演劇としてよく出来た秀作であるが、それの映画化ということで、もう少しひねりのようなものが必要だったかもしれない。もっとも会話劇というのは、こういう形だからこそ面白いのかもしれないが。
 この演劇がよく出来ている背景は、アルプススタンドで応援している数人の会話だけで、現在の自分らの置かれている状況が分かるだけでなく、野球の試合の中で繰り広げられているだろうドラマと自分たちを重ね合わせて、安易な言葉ではあるが、夢や希望のようなものが膨らんでいく仕組みにある。演劇でないドラマであれば、直接の関係の一コマの場面があるはずなのだが、そういうものは一切省略して、そこにいる人の会話のみで詳細は想像するよりない。そこにそれぞれの思いと重ね合わせた観るものの共感が生まれるという仕組みなのだろう。優れた演劇がすぐれた映画になるのか、という問題はあるにせよ。改めて面白い設定の物語である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする