リンガー!替え玉★選手権/バリーWブラウシュタイン監督
日本だと不謹慎ということで、制作会議にあげられることさえないだろう。製作できないという前段階で、問題意識にさえ上がりもしないことだろう。実際の内容についてもベタベタに馬鹿にしながらコメディとしてつくられているので、笑う以前に不愉快になったり、実際に怒り出す人もいるんじゃないかと思う。確かに褒められた作りじゃないのかもしれないが、僕はこの映画をつくる姿勢には、ある種の崇高ささえ感じられたのだった。そしてその偉さを越えて、ちゃんと下品に面白い。この意味が分かる人が少ないだろうということが、何よりこの映画の先見性だとも言えるだろう。
知的障害者のスポーツ大会というのがあって、米国ではそれなりに人気があるらしい。主人公はある事情でどうしてもお金が必要で、以前に陸上競技で鳴らした実力もあるために、知的障害者になりきってその大会に出て勝利を目指そうとする。ついでにこの大会に出ている障害者を献身的にお世話をしているかわいい女性にまで、立場を利用して仲良くなろうとする。しかしながら演技なので、途中で知的障害の仲間たちにはその嘘がばれてしまう。それでいったいどうなるの?というストーリーである。普通そのような説明を聞いても、単に不謹慎だし観に行きたいと考える人も少ないのではないかと思われる。僕だって普通はそのような背景だけなら観たいとは思わなかったかもしれない。
実はこの映画の製作は、下品コメディーの大御所ファレリー兄弟である。しかし彼らは何でそのような人々の逆鱗にふれるようなタブー・ネタを使って映画を撮ろうとしたのだろうか。
実はファレリー兄弟の友人には、実際に障害を持った人がいるのだという。そしてその友人から、お前ら映画人は障害者を普通に映画に撮ろうとしない臆病ものの偽善者じゃないか(大意)と言われたことがあるのだという。確かに映画やテレビの世界での文法では、障害者はお涙頂戴のダシに使われているのみで、普通に登場人物として演じられることは皆無といっていいのかもしれない。それならそういうタブーを破るような映画を、一丁つくってやろう、ということになったのかもしれない。しかし彼らはとことん下品なお笑いが得意なのだ。本当にそんな映画をつくってしまっていいのだろうか。
正直にこの映画の感想を言うと、本当にこんなことをやっちまってるなあという気分が先に立ったことは確かである。そして、まあ、痛いながらにも面白い。家で観たので僕の息子達も一緒に観ていた。そして障害者を馬鹿にする場面で、一緒になって笑った。うーむ、教育的にはアウトだなあ、と思う反面、まあ子供は素直だなあとも思う訳で、笑っちゃいけないことって面白いんだなあ、とも考えた訳だ。そして、やはりこのようなことからいつまでも逃げているから、結局何にも考えない大人が増えるのかもしれないとも思わずにいられなくなったのだ。この映画を製作した人たちというのは、本当に人間の根源的な偏見と闘おうとしているのかもしれない。そして、非難を受けることも含めて笑い飛ばしたいというたくらみがあるんじゃないか。
この映画はちっとも素晴らしくない下品映画だからこそ価値が高い映画である。そういういう逆説的なことを成し遂げたということが何より素晴らしい。アメリカ人は馬鹿な人たちもたくさんいるけれど、本当に何かをやろうとする勇気を持っている人だってちゃんと活躍できるのである。僕はそういう意味では日本より遥かに住みやすいところなんだろうなとも思う。日本でこんな映画をつくることができるようになれば、僕は日頃から機嫌が悪くならない可能性がある。そしてやはり日常では口をつぐんでしまうわけだ。特に政治家には観てほしいものだと思うけれど、彼らの多くは意味が分からないまま楽しんでしまう可能性はあるとも思う。結局観る人間の人間性が試される映画ということなのかもしれない。