情報革命バブルの崩壊/山本一郎著(文春新書)
昨年から雑誌の廃刊が相次いでおり、当然その背景にネット上の情報の無料化という問題があるように言われている。もちろん僕もそれは実感としてあり、特に若い世代(おおむね40歳以下)で漫画以外の雑誌(その漫画雑誌さえ部数はかなり落ちているが)を買うことがまれだという話も聞いたことがある。雑誌を買って読んでいるというのはほとんど高齢者で、次の世代が連続して買うようになることがないために、当然発行部数が落ちていく。しかしネット上の情報を見ていると、ほとんどその売れなくなったと言われている雑誌を基にしたものが多いというのはまた事実である。雑誌に限らず新聞記事をそのまま載せてあるものも多く、このコンテンツを生み出している媒体がなければ、ネット上の情報というものはどのように供給されるのだろうと常々疑問には思っていた。個人が提供するものが、そのままネット上のニュースソースに乗るというのは、現在においても極めてまれなことであって、供給サイドが壊滅的になっていくにしたがって、おそらくこの情報供給の質というものも低下せざるを得なくなっていくのではないか。事実ネット上のニュースというのは、スポーツ速報などを別にすると、極めて物足りないものが多い。もっとも週刊誌などの記事にはもともと無内容なものが多かったといえるにせよ、とても読んでためになるとは言えない(むしろむなしさや徒労や怒りがこみあげる)悲惨な状態が続いているとは言える。結局は客を釣るための餌であり、知らなかったが収益性も極めて低いために、刺激的に数を稼ぐよりないというのが現実だろう。こんなものに将来性があるはずはなく、いつまでもつのかという消耗戦を展開しているということにすぎないのであろう。しかし消耗戦で体力が続くうちは、つまり現在は、まだ当たり前のようにこのような世界がネット上には展開され続けている。もう少しつぶれるまでは持つということなのであろう。
まあそういう内容だけが書いているということではないが、ITといえば成長産業で次世代を担う産業の花形だというのは、すでに崩壊寸前のバブルであるというのは、多くの人が薄々気づいているのではないだろうか。いや正確に言うと、気づいていないのであればかなり危ない状況なのかもしれないとさえ思う。僕自身も正直に告白させてもらうと、WEB2.0という世界を信じ切っていたし、吹聴してまわっていたオオカミ少年だった。何しろ僕自身が信じていたんだから罪の意識すらない。そしてある程度そのように世界は構築されつつあるようにすら見えていた。最終的にはお金すら電子的な決算の方が貨幣を駆逐する可能性すらあるような気がしていたくらいである。しかしそれでは税金も取れないだろうし、本当の意味で儲けがどうなるのか分かったものではない。また競争の結果がある程度の寡占状況を作り出すのは仕方がないにしろ、今のウェブ上の寡占というのは時間の速さと規模が大きすぎる。結果的に本来のビジネスが始まる前に逃げ出す企業の方が多いのではないか。そして勝者である寡占後のビジネスが本当に収益が高いものかは未知数で、投資で集めた資金を有効に活用できるという保証すらない。あるのはあくまで将来性であって現在の優劣なのではない。それは結局のところバブルというものであるということであるのだろう。
この本は経済学の本なのではないが、極めて経済学的な知見のように将来を考える基本的な考え方を得ることにつながるだろう。フリーランチは無いということを、極めて常識的に教えてくれるからである。ヒトは将来のことになると平気で無責任になる。現在の経済政策が将来の子供たちのことを無視して暴走し、自分だけの利益を得ようと躍起になっているように、ヒトというのは現在を簡単に見誤ってしまう習性を持っているのかもしれない。問題は現在がどうなっているのか、何が問題になっているのかという単純な現状把握から始めなければならない。間違った処方を行っても何の治療にもなりはしない。もちろんやり玉に挙がっているソフトバンクのような企業が、ものすごいウルトラC(古っ)を出して生き延びる可能性はゼロではないにしろ、かなり正確に将来の危機は読むことができる。タダ乗りといのはルール違反だし、ウェブであろうと政治であろうと幻想にすぎないということなのである。
実を言うと購入してしばらく積読していたわけだが、もっと早く手にしておくべき本だった。この本のいわんとしていることは古くならないのかもしれないが、しかし時間の経過とともに、今の危機を乗り切る切り札はどんどん減っていくだろう。つまりドボンとなって終わらないためには、単純に脅しだけど、早く読んで目を覚ましておこう。著者が言うように北風と太陽の寓話のように、一方的に太陽が有利な条件で勝者が決まるというルールの方が、極めてアンフェアな社会にすぎないということなのである。少なくとも僕らは公正なルールを作って将来に備える必要がある。不公平な世の中が幸福なのは、ほんの限られた人たちにすぎないのである。